Σ-シグマ-高校時代 | ナノ
泥臭い青春の訪れ


私の記憶の中の青春は真っ黒で塗り潰されている

ぼんやりと過ごした毎日、同じ顔にしか見えなかった学生たち、自分が人付き合いに不適合だとしか思えなかった日々


ただその中にぽつりぽつりと光る点がある。それは本当に小さくて薄い


でもそれがあるから私は、過去の自分も満更ではないんだ











「えーと…いち、に、さん…っ……!」




数字が規則正しく書かれた板。真っ白なそれに浮かぶ真っ黒な数字

目の前のそれから自分の手元の番号…受験番号を探す。あった、あったぞ…!





「あったっ!!!!」
『ありました』

「…………は?」

『ん?』




合格の知らせに叫ぶ小生の隣で、ボソリと淡白な声が聞こえた

その声の方を振り向けば、ぼんやりとこっちを見上げる女子がいる

それは有名な女子中の可愛らしい制服だ




「……ど、どうも」

『はじめまして』





それがその女子…小石ナキとの初めての会話だった






「なんだ、お前さんも受かってたのか?」

『はい…貴方もですか?』

「何とかな!本当は推薦も取れるはずだったんだが、送った書類が手違いで戻ってきちまって」

『…そうですか』

「受験当日は腹痛やら渋滞やらで散々だったしなぁ…我ながらよく受かったもんだっ」

『ちなみに、何番ですか?』

「受験番号か?4番だっ」

『それはまた不吉な数字を…いきなり地味なメンタル攻撃ですね』

「うるさい!小生だってなぁ、嫌な予感はしたさ…そういうお前さんは何番だ?」

『44番です』

「変わらんだろっ!!?」

『失敬な。シを合わせて幸せですよなんちゃって』

「・・・・・・」





…無表情でそんなことを言う女は、正直気味が悪かった

冗談か本気か解らんな…今も話の途中だというのに、さっさと帰ろうとしてるんだ



………って、は?




「おいおい!もう行くのか?」

『はい、学校と両親に合格を伝えなければいけませんから』

「そりゃそうだが…!」

『私が受かるか皆、心配してました。今晩は赤飯ですね、あまり好きじゃありませんけど』

「……妙な喋り方するな、お前さん。本当に同い年か?」

『そっくりそのままお返しします。本当に現役中学生ですか?』

「老けてて悪かったなっ!!」

『いえ、いいと思いますよ。見た目も口調も古めかしくて』

「っ………!」




それでは、と今度はちゃんと挨拶した女子

その去っていく背中を見つめる、くそ、やっぱり制服は可愛いな。喋り方は全く可愛くないのに


だが―…





「おい、お前さん名前はっ!?」

『え?』

「小生は黒田官兵衛だ!たいそうな名前だろう?」

『…私、貴方の名前を尋ねた覚えはありませんが』

「いいから、な?ここで会ったのも何かの縁―…って、同じ高校に通うなら何かじゃないな、縁だ!」

『よく喋る人ですね貴方は………小石です』

「名前は?」

『………ナキです』

「ナキ、だな。じゃあなナキ!クラス、同じだといいなっ」

『それは神経を疑いますね。私と同じクラスだなんて面白くも何ともありませんから』

「…謙遜してるのか貶してるのかよく解らん返しだな」

『謙遜ですよ。では今度こそ、失礼します黒田くん』

「おうっ」




今度は女子…ナキの背中をしっかり見送る。妙な言葉選びと淡々とした口調。表情だってなくて可愛らしさは感じない

初対面の人間を相手しているとは思えない態度もまぁ、アレだったが…




「面白い奴だ、クラスが一緒だといいな」




そんなことを呟きながらさて、小生も合格を伝えるとするか





「えーと…おう、もしもし!又兵衛か?ははっ、受かったぞ!賭けは小生の勝ちだから、ジュース奢れよ?」




小生が真っ先に電話をかけたのは、生意気な幼なじみだった

小生が落ちると賭けていたアイツに合格を告げれば、電話越しに舌打ちが聞こえる。今日は素直に祝ってくれ!




「ったく…お、そうだ!早速友達ができてな、ほら、あの制服が可愛い中学校の女子で…ナンパじゃないっ!!」





そんな出会いの話





20141026.


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