巡り会う戦友
「よいかっ!!青春とはおぬしらの歩みに合わせてはくれぬ、走れっ!!とにかく走り青春を駆け抜けいっ!!!」
『…ずいぶん熱血な先生ですね』
「夕陽と河川敷が似合いそうだな」
『今にも駆け出しそうです』
「む…そこっ!!私語はつつしまんかっ!!」
『…すみません』
「ふふっ、叱られてしまったな」
『………………』
教壇に立ち自己紹介という名の教育論を熱く語るのは、私たちの担任となった武田先生
そして早速注意されてしまった私と雑賀さんは、何の巡り合わせか席が隣同士
叱られたのに彼女は少しだけ楽しそう…いえ、そのちょっと無邪気なとこ可愛いですけど
「………………」
『そして風魔くんがずっとこっちを見てるんですが』
「我らの会話に入りたいようだな」
『それはまた物好きな』
「ふふっ、お前に近づきたいんだ。それこそ青春だな」
『はぁ…』
「安心しろ、お前に妄りに近づく輩は私がことごとく粛正しよう。私が守る」
『どうしましょう、雑賀さんがイケメンです。そして睨まないでください風魔くん』
「………………」
「またそこか!私語をせずワシの話を−…」
ドカドカドカッ!!!
『ん?』
「物凄い足音だな」
『そして近づいてきます』
「まー…!ちぃい……!がえたぁあぁあぁあっ!!!」
ガラガラッ!!!
「入学式の日を間違えたぁあぁあっ!!!!」
『おぅふ…』
何かの言い訳を叫びながら教室に飛び込んできたのは、足音の主であり学生服を着た大柄な男だった
ボサボサの髪を束ねた彼は武田先生を見た瞬間、顔を青ざめ頭を下げる。そして叫んだ無断欠席すみません!と
「にゅ、入学式が、今日だと思っていて…」
「うむ、昨日だったな」
「……はい」
「名は何だ?」
「く…黒田、です」
『黒田くん…』
そう名乗った彼を眺めながら、教室はひそひそと小さくざわめき出す
入学式をスルーするという高校デビューを飾った彼。皆の視線は流石に恥ずかしいらしい…そんな彼がふいに顔を上げた
そして…
「え……」
『ん?』
「っ、ナキっ!!」
『……………はい?』
私と目があった瞬間、パアッと明るい表情へ変わった黒田くん。次にドカドカと近寄ってきた、て、いやいや待ってください
「久しぶりだなナキっ!!合格発表以来だっ」
『………………』
「まさか同じクラスになるとはな…ははっ!やはり小生とお前さんには何か縁があるっ」
『……………』
「……………」
『……………』
「……………」
『…………?』
「覚えてないのかっ!!?」
『はい、まったく』
馴れ馴れしく話しかけてくる彼だけど、私は首を傾げ疑問符を浮かべる
どこかで会ったことがあるのだろうか、記憶にありません。そのむね伝えれば何故じゃっと叫ぶ
「合格発表で会っただろっ!!同じクラスになれるといいなって言って…!」
『…はじめまして』
「じゃないっ!!!」
『いえ、人違いじゃないかと。私のような普遍な女、ありふれていますからね』
「いやいやハッキリ覚えているぞ!なんせ制服が可愛かっ…」
ダンッ!!!
「うおっ!!?」
「お前…黒田といったな、新手のナンパか…!」
『ちょ、立たないでください雑賀さん、大丈夫ですからっ』
力強く机を殴りつけ立ち上がった彼女が黒田くんの胸ぐらを掴んだ
咄嗟にお手上げポーズをとる彼に、雑賀さんの眉間へ更にしわが寄る。応援の拍手を送らないでください風魔くん
「誤解だ嘘じゃないっ!!本当にナキとは知り合いで−…!」
「そうやって知り合いを装い小石に近づくつもりか…!いいだろう、表へ出ろ」
『一応ホームルーム中です雑賀さん』
「タイマンか!ううむ…ワシの若い頃を思い出す、拳で語る青春も良い!」
『先生は率先して止めてあげてください、片方は女の子です』
…とはいえ片や首席入学のイケメンマドンナ。片や入学式をスルーして更に遅刻してきた男子学生。優勢なのは明らかに雑賀さんだ
クラスの女子も雑賀さんへ熱い視線を送る…茶化した口笛を吹かないでください風魔くん
『大丈夫です。可能性は限りなく低いですがナンパされたとしても、雑賀さんと比べるとどの男も霞んで見えますから』
「ふふっ、それは嬉しいな。私はそうあり続けられるよう努めよう」
「小生の立場がっ!!くそ、高校デビュー初の友達がお前さんだと思っていたのに…!」
『…友達、ですか』
「………………」
『「聞き捨てなんねぇな」と言いたげに立ち上がらないでください風魔くん。これ以上ホームルームを修羅場に変えるのはいかがなものかと』
「おぬしら場所をわきまえんかっ!!続きは校舎裏か屋上じゃあっ!!!」
『そして教師らしからぬ提案』
クラス中がざわめくなか、私たちのコント染みた学校生活が始まる
20141120.