変わらず焼き付く影
アナタを知ればもう逃げられないと、どこかのダレかが言いました
『……ふぅ、できました』
「私もだ」
「かすが…お前のアルバムは上杉の写真ばかりだな」
「う、うるさい!孫市のアルバムこそナキのっ…見切れてる写真ばかりじゃないか!むしろ何故見切れているっ!?」
「ふふ、小石は照れ屋だからな」
「………………」
「…風魔のアルバムのナキは横顔ばかりだな」
『ほぼ盗撮でしょうね。さて、あとはここに卒業式の写真を貼れば完成です』
放課後の教室。私とマドンナ二人、そして風魔くんがせっせと作っていたのは私たちだけの卒業アルバムだった
先日のプチ卒業旅行をはじめ、これまでの三年間に撮った思い出たちが詰まっている
どの写真にも共通して、意識的に見切れようとする私と意図的に映り込もうとした後藤くん、そして図らずも綺麗に撮られなかった黒田くんがいます
「………………」
『ん…どうしました風魔くん?そういえば風魔くんが映った写真は少ないですね』
「ああ、確かに…しかもお前、一年のクラス写真の時からまったく変わっていないな」
『風魔くん、一年の時から背、高かったですし。しかしこの少なさは寂しいものです』
「………………」
『お前の記憶には焼き付いてるぜ!みたいな顔しないでください。もちろん貴方みたいに影が薄くてキャラが濃い人を忘れたりしませんよ』
「それは結局薄いのか?濃いのか?しかし…これではナキのアルバムにもお前は残らないだろ」
「………………」
何てこった!という風に頭へ手を当てる風魔くん。いえ、当然じゃないですか
確かに風魔くんも写真が嫌いだ。私の思い出とやらのために強要はできないけど…何か、他に方法はないだろうか
私にとって、彼も数少ない大切な親友なんだ
すると−…
「ふふっ、ならば小石をデートに誘ってみたらどうだ?」
「は?」
『え?』
「………………」
それだっ!!という風に指を鳴らす風魔くんと、ふふっとカッコ良く笑う雑賀さん
そんな二人を見て間抜けな声を出した私とかすがさんは正しいと思う。どうしてそうなるのでしょうか
『デート…と言われて映画を選ぶとは。なかなか無難な選択をするんですね』
「………………」
『いえ嫌とは言っていませんよ。映画館の静かで暗い感じ、好きです』
さっそく次の休日、私と風魔くんは駅で待ち合わせをした
格好はもちろん私服。雑賀さんと巻き込まれたかすがさんにコーディネートしてもらったそれは、普段、私がまず着ることのない服だ
『…風魔くんはやはり真っ黒な格好ですね。もちろん似合ってますが、スタイリッシュで』
「………………」
『あ…照れましたか?あの風魔くんがまさかの反応』
「………………」
『…口が過ぎました。でも本当に似合っています。雑賀さんに言われたとはいえ貴方の隣に並ぶのはおこがましく思います』
「………………」
『あ……』
私がそう言った瞬間、少し先を歩いていた風魔くんが速度を落とし…私の隣に並ぶ
見上げれば真っ赤な髪。目は合わないのに見つめられている気がする、そう、ずっと前から彼はこんなだ
『…そうですね、今日はデートという名目でした。私なりにカップルっぽさを出せるよう善処してみます』
「………………」
『しかしカップルっぽさとはこれまた難題です。いかに私を彼女風に見せるか…ううむ…』
「………………」
『…さすがに手をつなぎはしませんよ。行動でなく雰囲気でぽさを出しましょう』
「………………」
私に伸ばそうとした手を自分の額に当て、なんてこった!という仕草を見せる風魔くん。ちゃっかり何をしようとしているのか
手をつなぐのはやめましょう。あくまで私たちは…仲の良いクラスメートです
『さぁ行きましょう風魔くん。私の記憶に焼き付けてくれるのでしょう?』
「………………」
これでも、楽しみにしていたんです。今日を−…
『ん?』
「………………」
『ああ、いえ…なんだか視線を感じたような気がして』
「………………」
『…風魔くんが分からないなら気のせいですね、気にしないでください。さぁ急がないと上映に間に合いませんよ』
「………………」
彼から手渡されたチケットは、私たちに不釣り合いな甘酸っぱい青春の恋愛映画でした
20151022.
風魔くんデート編