思い出は鮮やかな青
アナタが忘れても思い出せる、そんな記憶を残したい
「じゃーん!見ろっ小生自慢のカメラを持ってきたぞっ」
「確かに性能は良さそうだな…よし黒田、謙信様を撮ったあかつきには私にも写真を渡せ」
「では私は小石の写真を貰おう」
「いやいや個人の写真じゃなく皆の写真を撮るからなっ!?ちゃんと防水機能もある、川でもへっちゃらだっ」
『なるほど…防水ですか』
「落とすなよっ!?防水だからって川に落とすなよっ!?」
『おや、なぜ私の心の中が読まれてしまったのでしょうか。黒田くんの思わぬ特技』
「顔に書いてあんだよ、顔に!」
「ふふ、こんしんのふりですね。これはぜんしんぜんれいをとしてこたえねばなりません」
「上杉までなに言ってんだっ!?お前さんらには絶対に触らせ…って、こら風魔っ!!返せっ!!」
「………………」
『…ふむ、』
男子組がバーベキューセットを組み立て、女子組が野菜やお肉の準備を進めるアウトドア
卒業前の思い出作りが目的だからか、自慢気に黒田くんが取り出してきたのはマイカメラ。風魔くん、高そうなので返してあげてください
「…どうした小石?」
『私、写真が苦手なんです』
「そうか…安心しろ、無理強いはしない。それに防水だろうと火には弱いはずだ」
「燃やす気かっ!!?」
『いえ、そうじゃなく…皆さんの青春の思い出に、私が映り込んでいいのでしょうか』
記憶とは薄れるもの。人間は忘れていく生き物だから
けど写真になったなら、それは長く人生の中で残り続ける。楽しい、懐かしい…思い出したくない過去であっても、写真は事実だけを残すんだ
「小石は、今日のことを忘れるつもりか?」
『忘れるかもしれません…でも、雑賀さんのことは忘れられません』
「…ふふっ、私もだ。私は思い出す道具としてではなく、懐かしむために写真が欲しい」
『…私がそこにいてもいいのでしょうか?』
「もちろんだ。すでに私の思い出は、お前で満たされている」
『雑賀さん…』
「・・・・・・」
『風魔くん、炭をがっしゃんがっしゃん叩かないでください。もちろん貴方も思い出に焼き付いてますから』
「…おい黒田、風魔が炭を叩いているアレは、お前のカメラじゃないか?」
「なぜじゃあぁあぁあっ!!!?」
「さて、ひをおこしましょう」
「だから燃やすなっ!!!」
…結局、誰もダメだとは言わなかったから、私は思い出に残ってもいいらしい
ワイワイとバーベキューセットを囲むみんなを見て…この華やかなメンバーの中に私がいるのかと、今更ながら疑問がわく
「ったく、雑賀や風魔は素でやらかしてるが上杉は確信犯だろっ」
『…黒田くんも、この輪の中では異色ですよね』
「ん?なんだ、どういう意味だ?」
『いえ…思えば合格発表の時から私と黒田くんは場違いだったのかもしれません。お互い不思議な巡り合わせですね』
「そりゃマドンナやエースと比べちまうと、小生もナキも見劣り……え?」
『え?』
「ナキ、お前さん今…小生と初めて会った時の話を、したのか?」
『はい、そのつもりで…あ』
ああ、そうだ。高校入学後、再会した時に私は黒田くんのことを忘れていた
そして、改めてはじめましての挨拶をした。それが今、何故か中学時代の出会いを思い出している。互いの受験番号も会話もはっきりと
『いつの間に…無自覚でした』
「そ、そうか!そりゃ彼氏との出会いを忘れたままってのもおかしいよな!」
『は…彼氏?』
「いやいやいいぞナキ!どんどん小生を記憶に残せ!忘れないようになっ」
『…自信はないです』
「ならまた思い出させてやる!小生はナキを絶対に忘れんっ」
『………………』
「あ……な、なんだか今の、別れの挨拶みたいだったな。いやいや違うぞっ!!卒業したって、小生は、ナキを…!」
『黒田くん、カメラさんがまた風魔くんの手に渡りましたよ』
「は……って、風魔っ!!勝手に撮るなっ!!小生もまだ数枚しか撮ってないんだぞっ!!」
『……おやおや』
記念すべき風魔くんの初撮影
それは慌てて駆け出す黒田くんと、それを眺める私のツーショットでした
20151008.
まだ続く