思い出は何色?
思い出の価値をはかろう
『雑賀さん、卒業旅行のアンケートはどこに投票しました?』
「北海道だ。カニを食べたい」
『選択理由が男子のそれです。私は沖縄にしました、ぜひ海を見たいですね』
「………………」
『言っておきますが風魔くん、いくら沖縄とはいえ卒業シーズンに水着は着ませんからね』
「………………」
『頭を抱えないでください。本命はやはり沖縄料理です』
「おうおう、やっぱりナキは色気より食い気か?」
『もちろんです黒田くん』
ホームルーム中に配られたアンケート用紙は、迫る卒業…の前に行く卒業旅行の行き先についての希望調査だった
北は北海道、南は沖縄、ちょっとお高い海外旅行まで選択肢は様々。最後にあった“武田家”は武田先生のご実家だろうか、たぶん道場です
「しかしナキは沖縄が良かったのか…小生は北海道を選んじまったぞ」
「…選択を誤ったか」
「おい、小生と同じの選んだからってそんな顔するな」
「………………」
『風魔くんも沖縄でしたか?それはもう堂々と私のアンケート覗きに来ましたからね。当然ではありますが』
「だが北海道でも沖縄でも、どっちにしろ美味い海の幸が待ってるんだ!楽しみだっ」
『…私は正直、団体は苦手ですから。どうやって集団行動を避けるか悩んでいます』
いや、集団だからこその卒業旅行なんだろうけど。気配を消して最後尾をついていく、それに限る
雑賀さんは女子に囲まれて撮影大会だろうし、風魔くんとご当地お菓子を探して時間を潰そうかな
「そうだな…小石も楽しむには少人数がいい。当日はこっそり抜け出すか?」
『あ…気にしないでください。卒業アルバム用の撮影もありますし、雑賀さんの写真がなければ乙女が悲しみますから』
「だが…ならば、我らだけの卒業旅行へ行かないか?」
『私たちだけ?』
「お、いいなそれ!さすがは雑賀、で、どこに行く?」
「そうだ、別荘地に行こう」
『…そんな軽い気持ちで別荘に来る日がくるとは思いませんでした』
「さすがはさいかのあととり…かぜがきもちいいですね」
「はい、謙信様っ!あぁ謙信様との避暑地…!」
『季節はずれな上に虫はわんさか。しかも風が吹けば肌寒いときました、あと…』
「おーまーえーは…!こんな時ぐらいは空気を読めっ!!」
『いひゃいれす』
雑賀さんの家が持つ別荘。隣のクラスの上杉くんやかすがさんも誘い、やってきたのはプチ卒業旅行
山の中は少し肌寒いなと腕をさすっていれば、雑賀さんが上着をかけてくれたどこのイケメンですか
「すまない…海の反対は山だと思った」
『それでさらっと別荘へ招待できるとはさすがです。いえ、お招きありがとうございます』
「………………」
『それに安心してください。虫なんか全滅だぜと殺虫スプレーを持った風魔くんが待ちかまえてます』
「任せたぞ風魔。ここは夜になると星空が綺麗に見える」
『星…』
「ふっ、まぁどんな星よりも小石の方が綺麗だがな」
『今日も絶好調ですね雑賀さん』
山奥の別荘ということで私たち以外に人はいない。なんとも贅沢な卒業旅行だと思う
少し遅れてやってきた黒田くんが抱えているのはバーベキューセット。外で星空を眺めながらの夕食になるだろう
「ふぅ…ったく、こんな所はナキと二人きりで来たかったがなぁ」
『………………』
「ん?どうしたナキ?あ、もしかするとナキも小生と二人きりの方が良かったと思って…!」
『山奥の別荘で若者グループが宿泊…事件が起こったら真っ先に黒田くんが狙われるな、と思いまして』
「勝手にころすなっ!!いや、確かに我ながら第一の被害者っぽいと思うが…!」
『後藤くんもそれっぽい顔をしています』
「又兵衛は留守番なんだからやめてやれ。来たがってたが名目は卒業旅行だからな」
『シロとクロもいますから。土産話で我慢してもらいましょう』
「ああ…あと、ナキ」
『はい?』
今ごろ猫ちゃん相手に愚痴をこぼしているであろう後藤くんには、帰りの駅でご当地の何かを買って帰ろう
そんなことを考えていると、黒田くんがトントン肩を叩いてきた。そしてコッソリ囁いてくる
「明日、帰る前に少しいいか?ちょっと付き合ってくれ」
『はぁ、かまいませんが』
「おう楽しみに待ってろ!あ、いや詳しくは明日なっ」
「おい黒田!荷物を運ぶぞ、謙信様に重い物を持たせるなっ」
「分かってるよっ!!風魔も持てよ、ってスプレー吹きかけてくんなっ!!」
『…旅行先でも変わらずですね』
変わらずではあるけれど、これは最後の思い出作り
それぞれの道へと別れる前に、忘れられない特別な何かを残すために
20150919.
卒業旅行編