こどもの日だけど


『…は?地区の運動会?』

「ああ、ここ最近参加者が減っているようでな。協賛している我が社としては活気を戻したいんだ」

『だからって私も参加ですか』



昼休み。浅井先輩が頭を下げるから何事かと思えば地区の運動会だって

そりゃ確かにね、私もまったく参加してなかったけども



「貴様の家は子供も多い、協力してくれないか?」

『うーん…ちびっこは喜んで参加するだろうけど、思春期組がですね…』

「頼む!兄者は貴様の子が来ると信じ、ビデオカメラを新調したんだぞっ!!?」

『え、ちょ、社長も巻き込んだんすか、先輩ずるい』

「脚立やらレジャーシートも人数分用意するらしい。当日は兄者直々に朝から場所とりだ」

『むしろそれ、返事はイエスorハイですね!』




……というわけで




「運動会だっ!!」

「うんどうかいだなっ!!」

「うんどうかいでござるっ!!」

『ほらほら、走らないの元気トリオ。運動会は逃げないよ』



オーッ!と高らかに拳を突き上げる梵、竹千代くん、弁丸くんの三人組

ついにやって来た地区の運動会。体を動かせると楽しみにしていた三人は、目をキラッキラに輝かせていた



「ヒッ…佐吉、ぬしも混ざらぬか」

「興味がない」

「…何故、昼間から人混みの中で我が走らねばならぬ」

「い、いや、昼間だからする祭りだと思うよ…」

「黙れ姫若子」

『こらこら、そこも喧嘩しないの』

「ナキ!」

『あ…』



トラック脇、絶好の撮影ポジション。そこから手を振る美女は濃姫さんだ。荷物を抱えた浅井先輩も居る

その隣には脚立に登った織田社長の姿。やばい、立派なカメラを手に持ってますよ



「ふふ、今日は天気も良くて運動会日和ね」

『はい…あ、社長、場所とりお疲れ様です』

「ぜひもなし!ナキよ…今日の映像は後日、会社を挙げて上映会を執り行う」

『なんすかそのプレッシャーっ!!?…って、あれ、明智部長は居ないんですか?』

「あら、残念だった?」

『笑えない冗談はやめてください濃姫さん』

「明智部長は松永副社長と共に仕事だ」



うわ、最悪の組み合わせ。上映会ってその二人に対する嫌がらせですか社長。今頃すさまじく凍てついた空気の中、仕事をしてるんだろうな


…まぁ、ともあれ。子供たちが思い切り体を動かせる機会をせっかく与えてもらったんだ



『よし、みんな!今日は遠慮せず本気で勝っちゃいなさい!』

「見ててよナキちゃん!俺、カッコイイとこ見せるからっ」

「お、俺もまぁ、軽く勝ってあげるよ。余裕だけどね」

『あ、中坊トリオは遠慮してね。ちびっこに見せ場は譲りなさい』

「「っ!!!?」」

「我は競技など出ぬ」

「梵天丸様、怪我だけはせぬようお気をつけください」

「おお!任せろ小十郎!オレが一番目立ってやるぞ!」

「い、いえ、ですから怪我だけには気をつけ―…」

「ワシも!」

「それがしも!」

「…………」

『あはー、なんかいろいろ不安なんだけど。競技しかり他しかり』




ヤル気満々な子供たちをモデルに、社長は早くも撮影を開始していた








『んー…あ。はじめはかけっこか、定番だよね』

「走るだけか?つまらぬなぁ」

『そう言わないでください刑部さん。足の速い男の子はクラスのヒーロー、英雄なんですから』

「そうか…佐吉、ぬしは出ぬか?」

「出ない」



かけっこに出場する子を呼ぶアナウンスが響いた。一目散に駆けていく元気トリオを後目に、佐吉くんは興味がなさそう

シートに座る刑部さんに寄り添ったままだ。下手すると閉会までこの調子かも



『佐吉くん、一等賞の子はお菓子がもらえるんだよ』

「いらん」

『そ、そうですか…』

「まぁ言うな佐吉。一番となればそれこそ誉れよ」

「…………」

「同世代、身内ならば梵天丸に負けたくはなかろう?ぬしの本気を見せればよい」

「…私が一番だと、ぎょうぶはうれしいか?」

「ヒヒッ、もちろん」

「…分かった」



刑部さんの言葉にスッと立ち上がった佐吉くんは集合場所、本部テントまで走っていった

相変わらず仲良しさんだな…嫉妬するぞ刑部さん



『けど佐吉くん細いしなぁ…しかも梵と一緒ですよ?大丈夫ですかね』

「ヒヒッ!佐吉を嘗めるでないわ、瞬きも惜しみ見ておれ」

『へ?』





位置についてー

よーい……どんっ!!!



ビュンッ!!!



『って、速っ!?佐吉くん速っ!!』

「ヒーヒヒヒッ!!佐吉は足の速い子故、同世代なんぞ敵ではないわ」

「梵天丸様ーっ!!もっと足を上げてくださいっ!!」



合図があった瞬間、すさまじい速さでトラックを走り出した佐吉くん

速い、めちゃくちゃ速い。大人も真っ青な速さに他の子はもちろん同い年な梵も追い付けなかった

…他の子のトラウマになるぞ佐吉くん



「ただ…不安もある」

『な、何ですか』

「佐吉は足は速い。しかしその速さ故…」

「ぎゃあっ!!?」



ずざぁあぁぁっ!!!



「…曲がる際にはよく転ぶ」

『佐吉くぅぅぅぅんっ!!!?』



トラックのコーナーで足がもつれ、顔から転んでいった佐吉くん!

ああ、綺麗な顔は無事だろうか…解っていても心配な刑部さん含め、佐吉くんの動きを私たちは見守った

そして存外早く立ち上がった佐吉くん。再び走り出しそのままゴール!




『やったね佐吉くん、一等賞!次から走る子たちのテンションは地まで落ちてるけどね!』

「佐吉、鼻は擦れておらぬか?痛くはないか?」

「平気だ、一番はとったぞ!」

「嗚呼、ようやった佐吉。さすがよ、サスガ」

「…………」



賞品を貰ってさっさと戻ってきた彼。刑部さんに褒めてもらえてとても満足そう

ちょっと赤くなった鼻をゴシゴシ。そして次は私のもとへ駆けてくる…ん?



「ナキ、これはやる」

『え…でもこれ、佐吉くんが貰った賞品だよ?』

「私はいらん、もともとナキにやるつもりだったし」

『あ…ありがとう、佐吉くん…』

「…………」



私にお菓子を押し付けたら、ダッと刑部さんの後ろに逃げてしまった。照れちゃってこの子はもう!

ぎゅっと顔を隠す佐吉くんの仕草に、私と刑部さんは幸せすぎてどうしようもないです






「ワシも菓子をもらったぞ!」

「それがしも、もらえたでござる!」

「…………」

「梵天丸様、次の競技で佐吉を倒しましょう!かけっこだけが運動会ではございませんっ」

「………うん、」

「…ぼんてんまる、ワシのを少し分けてやる」

「…それがしも」

「〜〜っ!!!?」

「て、テメェら!梵天丸様に情けをかけんじゃねぇっ!!」

『あはー、やっぱりさい先不安じゃん』






20130505.
続く⇒


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