同じ船に乗っかった


『………うーん、なぜじゃ』




首に回された男の腕、

突き付けられた鋭利な刃物、

そして―……




「この袋に金を詰めろ!人質がどうなってもいいのかっ!?」



お決まりなドラマ的セリフに、困ったものだと連れに視線を向ける

驚いた顔の副社長と顔面蒼白な部長。さぁ、平社員が銀行強盗の人質になりましたよ









『まったく…何で部長と仲良く買い物なんかしてるんすかね、解せないです』

「な、仲良くっ!!?今、仲良くって言いましたかナキさんっ!!」

『ファイブナインな皮肉っす。だいたい、平日の昼間に何してるんですか部長』

「貴女と同じく、有給をとったんですよ。少々私用で」

『私用に興味はないですが、せっかくの有給なら私について来なくてもいいじゃないですか』

「ナキさんのいる所に私ありです」

『はいはいソウデスカ』



今日は久々に丸一日の休みを貰った。この機会にと用事をいろいろ済ませようとしてるんだけど…隣には明智部長

あっちこっちフラフラついて来るから休めてる感はゼロだ




『あ…銀行、寄ってお金引いとこうかな』

「では私も…」

『来なくていいっす』

「銀行ですよ?ナキさんが銀行強盗にあってしまったら誰が救うんです!」

『警察です。それに銀行強盗なんてそんな…』



部長より先に歩き自動ドアの前へ。開いたそれをくぐってATM側へ向かう

平日の昼休み頃だから人数もそこそこ。スーツ姿な人もちらほら見え…る…ん?



『あ…』

「あ…」

「…これはこれは、」




奇遇だね、

私たちを見てニヤリと笑ったおじ様も、見慣れたスーツの男だった




『松永副社長っ』

「やぁ、君も振込かね?」

『私は引き出しですが、副社長が何にお金を振り込むか気になります』

「いやなに私用だよ」

『それが特に怖いっす』

「ナキさん、その男に無闇に近寄ってはいけません!」

『む…』



引っ張られた私の代わりに、今度は明智部長が副社長と向かい合う睨み合う

顔を合わせればこれなんだから…やれやれとため息をついて他人のふり他人のふり



「…卿は休日も彼女のストーカーかね。懲りない男だよ」

「私はナキさんが本気で拒むならば直ぐに身を引きますよ。貴方と違ってね」

「ほう、どんな状況下でもハイと言わせる自信がないと?」

「これはまた、貴方らしい考え方ですね」

「…………」

「…………」

『夕飯、何にしようかなぁ』



さっさとお金を引いて銀行を出ようとする。二人の喧嘩に私は全く関係はありませんよーっと

我関せずで出口へ足早に向かっていると、誰かが自動ドアを介して入ってきた


目深に被った黒い帽子、大きめのサングラス、顔の半分を隠すマスク…あれ、いかにもな格好だなと思ったけど気にせず隣を過ぎようとした


だけど―…




「ナキさんっ!!!」

『え……』

「動くなっ!!!」




そして冒頭に戻るのである






「この袋に金を詰めろっ!!!ありったけだ!」

『ありったけの割には袋が1つしかないんだ…』

「何か言ったかっ!?」

『うわー、タスケテー』




感情の隠らない助けてを言いながらも、意外と冷静な自分に驚いている

堅物男子との出会い頭には刀を向けられたからね。ナイフなんて可愛いものだ…いや、命の危機に変わりはないけど



「早くしろ!」

「は、はい…っ、あ、…」

『…………』




…袋を渡された銀行員のお姉さんの方が泣き出しちゃったよ。恐怖と焦りでなかなか用意ができないらしい

お金を運ぶ人、詰める人、あ、落とした。犯人さんもイライラしはじめて…



「〜〜っ!!!おい!早くしろ警察が―…!」

「退きたまえ、私がやろう。君は離れなさい」

「っ―……!」

『へ?』

「なんだ、お前が上司か?」




私のね!

いつの間にかお姉さんの隣に居たのは私の上司、松永副社長

さらりと銀行員に紛れてるが違和感がない。犯人さんもしっかり信じちゃってるようだ



「妙な真似したら人質を切るぞ」

『っ―……!』

「落ち着きたまえ、心配する必要はない」

『…………』



犯人さんが私の顔にナイフを添えるが、副社長は変わらず落ち着いたまま銀行員になりすます

安心していいと私に言いながら。説得力が半端ないです副社長








「さて…この袋ではこれが限界のようだ」

『やっぱり足りなかったか…』

「くそっ、」

「これで満足だろう?さぁ、これと彼女を交換してもらおうか」

「お前じゃなくそっちの細い男!金持ってこい!」

「おや…私ですか?」

「…………」

『おお…!』



この犯人さんも馬鹿じゃないらしい。体格のいい副社長が近寄ろうとした瞬間、お金の受け渡しに指名したのは細身の明智部長

確かに部長は細いし白いし…笑む彼に袋を渡す副社長は何処か不満げだ





「…しくじったらどうなるか覚悟しておきたまえ」

「ふふふ…何のご冗談を」





「ああ…重いですねぇ、ふふふ、持ち上がりませんよ、ああ…」

「は、早くしろ!引きずってこい!」

『…………』



パンパンにお金が詰められた袋を両手で持ち、ふらりふらりと此方へやって来た部長

重そうに運ぶ部長をハラハラと見守る他のお客さんや銀行員、犯人さん…けどね、私は知ってるんですよ




「やれやれ、やっとここまで…」




貴方は、そんなに柔な男じゃないでしょ?


フラフラとしていたはずの足が一歩、力強く踏み込まれた瞬間に床から離れた袋

ブワリと浮いたそれは男が身構える間もなく此方へ向かってきて―…!



ドカッ!!!!



「ぶぉっ!!!?」

『うわっ!!?』

「ナキさんっ!!」



顔面にお見舞いされた一撃に吹き飛ぶ犯人さんと、弾かれるように引き剥がされた私

その身体を受け止めたのは明智部長で、側でドカリと袋が落ちた音がした



『ちょ、助け方が乱暴すぎじゃないっすかっ!?下手したら私の頭にもブチ当たってましたよ!』

「私がナキさんを傷物にするわけないじゃありませんか!」

『そりゃ当てないと解ってましたけど!部長ならやっちゃうと思いましたけど!』

「もちろんです」

『…………』




何故か部長の腕の中。ざわつく周囲を気にすることなくヘラリと笑う部長…ああ、もう、




『…ありがとうございました』

「ふふふ、言ったでしょう?ナキさんを強盗から守るのは私だと」

『そうなんですけどね、まさか本当にやるとは思わないでしょ』

「本当にやらないでどうするんです?それに私はナキさんを―…」

「きゃあぁっ!!!!」

『っ!!!?』




部長の言葉を遮るように響いた女の人の悲鳴に振り向けば、いつの間にか起き上がっていた犯人さんがナイフを振り上げたところだった

それは間違いなく、私に向かって降ろされて…



「ナキさんっ!!!」

『ぶちょ……!』




私を庇うように抱き締めたまま、男へ背を向ける部長

けどそれよりも早く―…




カランッ、




「まったく…卿はやはり詰が甘いようだ」

「ぐっ…!」

「っ―……!」

『松永、副社長…!』




犯人さんの腕を掴み捻り上げ、カラリとナイフが床へと落ちた

やれやれと笑む副社長。悔しそうに睨む部長。しんと静まった後に…周囲からワッと歓声があがった




「無事かね?」

『お、お陰さまで』

「それはよかった。ところで卿も無事かね?」

「……お陰さまで」

「卿が居らずとも私だけで事足りたのだがね。役得をよくも奪ってくれたものだ」

「美味しいところをさらっておいてよく言いますね」

『ちょ、解決したのに喧嘩しないでくださいよ!ふ、二人とも―…!』

「…………」

「…………」

『か……かっこ良かったんじゃ、ないですかね…』




私の言葉に顔を見合わせた二人は、今度は声を揃えて…



「光栄だね」
「光栄ですね」




そう言って私に笑ってみせるんだ







「さて…警察が来る前に去ろうか」

『へ?事情聴取とかあるんじゃないですか?』

「いや、確かにそうだが私も彼も…」

「顔が割れるのは避けたいですから…ね?」

『やっぱりうちの会社、やばいことやってるんじゃないっすか』






20131129.
黒雪さんへ相互記念!

やっぱり部長が目立ちますが、Σの管理職最凶コンビです呉越同舟^^
相互ありがとうございます!引き続き宜しくお願いしますっ


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