赤い糸を編み込む


※高校時代



「…………」

『…風魔くん、何ですかそれは』

「雑誌だな」

『それは見れば解りますよ雑賀さん。今のは開いてるページに対する疑問です』

「マフラーだな」

『ですよねー』



雑賀さんと一緒に寒いねとカイロをシャカシャカやってた昼休み

バッと現れた風魔くんがババッと私の前に広げたもの。それは雑誌で特集された手編みマフラーのページでした



「…………」

『まさかのまさかですがこれを私に編めと?』

「…………」

『言っときますが、私は編みませんからね』

「…………」




バサバサバサッ!!!!



「おお…」

『ちょ、「何…だと…!?」みたいな顔しないでください。何故、編んで貰える前提だったんですか』

「…………」



あまりの衝撃に雑誌を落とした風魔くん。いやいや此方が驚きですよ

私のどこを見て編み物ができると確信しましたか。そして笑わないでください雑賀さん




「ふふ、作ってやればいいだろう?お前の手作りならば風魔は何でも喜ぶ」

『何気に歪な仕上がりが決定事項なんですね。じゃあ雑賀さんが編み方を教えてくれますか?』

「…………さぁ、昼休みが終わってしまうな。次は何だったか」

『誤魔化しました!雑賀さんが下手くそな誤魔化しをしました!』




しかし昼休みが終わるのも事実。そそくさと席を去る雑賀さん、そして…


雑誌を拾い上げ、しょんぼりと自分の席に戻っていく風魔くん…なんだか…少しだけ、ほんのちょっとだけ申し訳ないです




『…………はぁ、』




仕方ありませんね…日頃、お世話になってるお礼ですよ

頼れる雑賀さんは今回は頼りにならない。仕方ない、私が話せる人の中で一番編み物が得意そうなのは―…









『マフラーの編み方教えてください、かすがさん』

「断る」

『即答ですか』

「私は忙しいんだ、わざわざお前に割いてやる時間はない」



しっし、と私をあしらうのは隣のクラスの金髪美少女かすがさん

一年の時に同じだった彼女と私はまさに正反対。まぁ相手は雑賀さんと並ぶ学園のマドンナですからね

そしてまぁ、私と彼女は性格が合わない犬猿の仲というわけです




『いいじゃないですか少しくらい。かすがさんは料理は私とどっこいどっこいなのに裁縫の類いは上手…むぐっ』

「お前のその余計な一言が腹立つんだ…!」

『むぐぐむぐ(褒めてます)』



私の頬を片手で挟みギューッと押さえるかすがさん

やめてください、ただでさえ変顔なのに更に残念な顔になっちゃいます




「雑賀に教えてもらえばいいだろう?アイツはお前にベッタリじゃないか」

『あの雑賀さんでも苦手な分野はあります。それにどうせ上杉くんに編むんでしょう?ついでですよ、ついで』

「なっ、なな何をっ―…そりゃ…喜んでくだされば、いいなと…」

『熱々ですねかすがさん。流石は我が校の有名カップルですね』

「べ、べつに私はあの方と私はお付き合いしているわけじゃ…」

『有名ですよ?上杉くんと新体操部のかすがさん、なのに野球部じゃないって流石は上杉くん期待を裏切ってくれ…いたっ』

「あの方と私を馬鹿にしているのかっ!!?」

『馬鹿にしてません、上杉くんも「ふふっ、おもしろいことをいいますね」と褒めてくれました』

「褒めてない上に本人に言ったのかっ!?馬鹿かっ!!」



たぶん成績はかすがさんより下ですね、と返せば彼女は怒りを過ぎて呆れたようで

仕方ないから教えてやるって。ありがとうございます



『一応、道具と毛糸は持参してます』

「準備はいいな…赤い毛糸か。私は青だ」

『上杉くんを想ってですか、妬けますね』

「う、うるさい!そういうお前は誰に作るんだっ」

『風魔くんです』

「…なんだ、風魔か」

『………あれ?』



ああそうと反応薄く、かすがさんはさっさと自分の準備を始めてしまう

おかしいな、私の口から異性の名前が出るなんて今までそうなかったはずなのに驚きもしない



「別に意外でもないからな。お前が風魔と一緒に居るのはよく見かける」

『盗撮ですか』

「違う!お前も風魔も単体ではあまり見ないんだ…特に風魔はな」

『かくれんぼが得意ですからね風魔くん。私は単に存在感がないだけです、居ても居なくても変わりません』

「あのな、そういう意味じゃ…はぁ、まぁいい。とにかくお前たちはお似合いだ」

『何という勘違い、風魔くんに失礼ですよ』

「ふん、じゃあお前は満更でもないのか?」

『…………』




黙った私にしてやった顔のかすがさん。綺麗な笑顔を私に向けながら、さぁ編むかと毛糸を手に

…私も、赤い毛糸を取った









『……風魔くん、おはようございます』

「…………」

『今日も寒いですね、あ、カイロ…ありがとうございます』

「…………」



朝、登校中の風魔くんに挨拶すると、ほらよっとカイロを渡された

温かいですね。素直にお礼を言うと気にするなって片手を挙げる


その風魔くんは長い前髪の少し下、高い鼻の頭を赤くしている寒いんですね




『…カイロ、返しますよ?』

「…………」

『そうですか、要らないですか…えっと、その…』

「…………?」

『…私だけ暖かいのも不公平なので、これ、風魔くんに差し上げます』

「…………」




どうぞ…と彼に差し出したのは、一見はボロボロな赤い布だった

しかしよく見ればそれは毛糸。一部はぎゅっと、もう一部はゆるっと、編まれたそれは歪ながらもマフラーです



「…………」

『…貴方が編めと要求したからじゃありません。かすがさんと仲良くなる手段として師事しただけです』

「…………」

『ボロボロな布切れですが寒さしのぎにはなると思います。必要ないなら雑巾にしてください』

「…………」

『今すぐに電柱に吊るすなり捨ててかまいません、ですから…』

「…………」

『…そんな嬉しそうな顔、しないでくださいよ』



私からマフラーを受け取った彼はじっとそれを見つめながら、確かに、喜んでいた

そしてふわりとそれを首に巻き付けた風魔くん。その擦りきれた感じもまた、何故だろう風魔くんなら似合ってしまいます



「…………」

『…貴方が使うと言うなら止めはしません。本当に風魔くんは物好きなんですね』

「…………」

『いや、私も大概変人なので。結局は似た者同士ということなんでしょうか』

「…………」

『…それも嬉しいとは、やっぱり風魔くんは変な人です』




すでにヨレヨレなマフラーの端を引っ張ってみる

びよんと情けなく伸びたそれを見て、ああ、やっぱり私は不器用なんですねと笑いたくなった








「…………」

『え、何ですか風魔くん。また雑誌のマフラー特集ですか』

「…………」

『…手編みのお礼に私にもマフラーを用意してくれると?』

「…………」

『ああ、お構い無く。先週、雑賀さんと買い物行った時にお揃いのマフラー買いましたから』

「…………」




バサバサバサッ!!!




『いや、だから「何…だと…!?」みたいな顔しないでください』








20131221.
Σふうまつり!

と言いつつ初めてかすがさん登場です^^
こんな仲で二人はお付き合いしてないんですよまさか


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