クラス写真の右上さん


あの頃に戻れるなら私は、

悠々と黒歴史をつくる自分を張り倒してやりたい






『…………』

「…………」

『…………』

「…………」

『……おはようございます』

「…………」




彼と出会ったのは高校の入学式…の前日の朝

門なんか開いているはずのない休日に、校門でバッタリ出会ったのだ




「…………」

『…………』

「…………」

『…閉まってますね』

「…………」

『言っておきますが私は入れない前提で来ましたから。言うならば予備調査です』

「…………」

『入学前に通学の経路と距離、必要な時間を把握するためです。石橋を叩いてあえて回り道するタイプなので』

「…………」

『…………』




…何か喋ってくださいよ

赤くて長い髪が顔半分を隠し、物理的に私が見えてるのか見えてないのか解らない彼

…一人で喋っても言い訳がましく聞こえるからやめよう



『…今さらですが貴方も新入生ですか?』

「…………(コクッ)」

『そうですか…私と同じクラスにならないといいですね面倒ですから』

「…………」

『ああ、万が一同じクラスでも絡みに行かないので安心してください』

「…………」

『いや、よっしゃ俺に任せろみたいな顔しないでください、来ても絡みませんよ』

「…………」

『…しょぼんとしないでください』



何なのだろうか、彼は。喋らないし表情も変わらないのにずいぶん陽気な人だ

果たして会話かと言われると疑問だが、なるほど、なかなか話しやすいタイプである



『…でも私はそろそろ帰ります。貴方も用は済みましたか?』

「…………」

『そもそも貴方は何をしに―…あ』



そっと彼が門に近寄ったかと思えば、そこそこ高さのあるそれにヒラリ飛び乗った

そして私を見下ろす。まさか彼は…学校に忍び込みに来たのか



『…まさかの石橋を叩いてぶっ壊すタイプでしたか』

「…………」

『そしてその手は何ですか。入学前から私にも問題を起こせと言いますか』

「…………」

『……でも、こういうの嫌いじゃなかったりします』



伸ばされた彼の手を取ってみせれば、ぐっと引き上げられた

ここにきて初めて、彼の口角が動きを見せた気がする



『なに笑ってるんですか』



私の質問に答えることなく彼は飛び降り、さあ受け止めてやろうじゃないかと再び手を差し出してきた








『……なんだ、人は居ますね』

「…………」

『よく考えなくても入学式前日なら準備もしますか。当然と言えばそれで終わりです』

「…………」



ひっそりと身を隠し覗く体育館。そこにはすでに会場が準備されていて、先生っぽい人たちがマイクテストやら何やらしているところだった

…あ。あの人は間違いなく体育教員だ



『入学式となるとやはり念入りになるようですね』

「…………」

『生徒からしてみれば会場なんて二の次なんですが』

「…………」

『ああ、保護者向けですか。今時の保護者はなかなか口煩いでしょうからね』

「ずいぶん辛辣だな、聞けば教師が黙っていないぞ」

『え……』



隣の彼と同時にバッと振り向けば、私たちのすぐ後ろに美人な女の子が一人

こちらを見つめながらクスリと笑う、え、誰ですか。一緒にいた彼も気づけなかったらしい…彼女を悔しそうに睨んでいた






『……どなた様ですか』

「…ふふっ、」

『・・・・・』

「いやすまない。今時の女子高生でそれほど堅苦しい敬語も珍しいと思ってな」

『今時の女子高生にしては貴女の喋り方もどうかと思いますが』

「そうか?ならばいいじゃないか、お互い珍しい者同士だ」

『貴女と私なんかを一緒にしない方がいいですよ』

「…………」

『…よく考えてみてください。入学式前、学校に忍び込むバカは貴方と私くらいです』



そんな中、彼女は私たちと同じく敷地内に居る

それはつまり“正式に”呼ばれてるってこと



『彼女はきっと新入生代表挨拶です。リハーサルですか』

「ああ、目敏いな」

『ほら、やっぱり私なんかと一緒にしちゃダメな優等生です。私たちみたいに忍び込んじゃうバカと違います』

「・・・・・」

「…あまりバカと連呼してやるな。彼氏がへこんでいるぞ」

『私が彼女とか勘違いが凄まじいです。彼に謝ってあげてください』

「そしてお前は凄まじく謙遜するな」

『正論です』



自信なんてものはお母さんのお腹の中に忘れてきました

そう言えばやっぱりクスリと笑う彼女。緩やかなウェーブの髪が揺れた…やっぱり美人



『神様から何物与えられたんですか。そしてリハーサルに戻ってください』

「私の評価など所詮は部活による集団の成果だ。個ではそれほど有能な人間ではない」

『それは鏡見てから言ってください』

「…………」

『そして貴方も何故、鏡を持ってるんですか。本当に出さなくて結構です』

「…………」

『解りました、ありがとうございます、だからしょぼんとしないでください』

「ふふ、お似合いだな」

『…………』



どうやら私が何をやっても何を言っても彼女にとっては楽しいらしい

劣等生を見て楽しいですか、そう問えばまさかの「そんなはずない」との答え



「私はお前を誰かと比べて劣っているなどと評価しない。安心しろ、見る目はあるつもりだ」

『そうでしょうか…貴女みたいな優秀な人が、私を解るとも思えないのですが』

「ふむ…なるほど、お前の言うことは最もだ。ではどうするか…」

『・・・・・』



私の嫌味全開な言葉を彼女は真面目に考え出した、悩んでる、綺麗な顔の眉間にシワが寄ってる

悪い子じゃないんだろう…だからこそ、私と関わるのは避けた方がいいのに




「…では、どうすればいい?」

『…………はい?』

「私がお前の気持ちを知るには何をすればいい?考えたが思い付かなくてな…」

『いや、知る必要は特にないかと』

「それは困るな。私はお前を解りたい」

『それ私も困ります…が…うーん』




…例えば、ですよ?







「…それはいいな、よし、それにしよう」

『は?いや、何言ってるんですか、流石にヤバイですって』

「言い出したのはお前だ」

『まさか実行しようとするとは思いませんよ、実は馬鹿なんですか』

「ふふ、私はお前の言う馬鹿をやってみたいんだ」

『…………』



すでにヤル気満々な彼女は今からでも決行しようか、と意気込んでいる

これは…妙な人に関わってしまったのは、私の方かもしれない



『……はぁ、乗り掛かった船です。貴方も参加してくださいよ』

「…………」

『バッチコイみたいに親指立てないでください。そこはハッキリ断りましょうよ』

「お前の彼氏の方がノリ気だな」

『だから私なんかは彼女じゃありません。彼が困ってるじゃないですか』

「…………」

「っ…ふ…ふふ、満更でもなさそうな顔をしているじゃないか」

『えぇー…』




まさかの貴方まで大概な変人さんでしたか

……でもまぁ、やっぱり。私も馬鹿するのは嫌いじゃありません



「ああ、名乗り遅れたが私は雑賀だ。下の名では呼ぶな、いいか?」

『はい。私は小石です、宜しくお願いします』

「…………」



サッと彼が掲げた中学の学生証には、風魔という大層な名前が書かれていた







「ナキーっ!!」

『ん?どうしたの梵、走り寄ってきて今日も可愛いね』

「これ!この絵のこいつ、ナキだろ?」

『おぉう…懐かしいもの引っ張りだしてくるな』



洗濯物を畳んでいたらパタパタと可愛い梵がやって来た。その手には…高校時代のクラス写真

近くにいた小十郎くんも手元を覗き込んできた



「こりゃ…昔からひねくれた顔してんな」

『ひねくれた顔で悪かったねコノヤロー。どうせ不細工ですよー』

「は?い、いや、性格がひねくれて見えるってだけで…!」

「ナキは可愛い!ふしあなだぞ、こじゅうろう!」

『あはー、君の方が可愛いよ梵』

「・・・・・」

『懐かしいなぁ…あの頃は馬鹿しちゃったなぁ』

「っ……そう言えば、なんでテメェはこんな端に写ってんだ?」

『……あは、』




彼が指差したのは写真の右端。小さな円が三つ並んで私と雑賀さん、風魔くんが写っているんだ



『馬鹿したの。ちょっと大事な式典をエスケープ…サボっちゃってね』

「そりゃ…馬鹿だな」

『哀れみの顔で馬鹿とか言うんじゃないぞ堅物男子!むしろ私は止めた方だ!』




出来上がったクラス写真を眺めて彼女は嬉しそうに笑ってた

思えば彼女は…そんな悪さを、馬鹿を、できる環境に無かったのかもしれない




『…まぁ、だからこそ私にも…友達ができたんだけどね』








『…やっぱり雑賀さんだけでも入学式行きましょうよ、内申に響きます』

「響いた時はその時に考える。それに今、お前と居る方が私には有意義だ」

『何ですか何でイケメンなんですか雑賀さん、惚れるじゃないですか』

「…………」

『貴方と過ごすのも有意義ですから、拗ねないでください風魔くん』

「ふふ、モテるな小石」

『冗談きついです』

「ふ、ふふっ」






20131008.
キリ番987654ムト様へ
雑賀さん、風魔くんとの出会いの話!

こうやって親友となれました^^


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