女心と秋の空の気まぐれ


『あれ、刑部さんじゃないですか』

「む…ナキか。今が帰りか?」

『はい、刑部さんは…あ、佐吉くんと散歩でしたか』

「ああ、疲れて眠っておるがな」



仕事帰り。近道をしようと通った公園で刑部さんと佐吉くんを見つけた

散歩に来たらしい彼らはベンチに座っていて、刑部さんに寄りかかったまま佐吉くんは寝ちゃっている



『外も過ごしやすくなりましたからね…涼しいんですから、風邪には気をつけてくださいよ』

「それほど柔でない」

『いや、心配してるの貴方じゃなくて佐吉くんの方』

「・・・・・」

『あはー、冗談ですってば。刑部さんもひかないでください』



佐吉くんが心配します。そう言ったら左様か、とそっぽ向いちゃう刑部さん

あ、拗ねた。機嫌直してくださいよと私も彼の隣に腰掛ける




「…帰らぬのか?」

『今日は佐助くんが夕飯担当ですから。あ、焼き芋でも買いますか?』

「夕飯の前ゆえ遠慮しよう」

『私は別腹なので買ってきます。あ、鞄見といてくださいね!』

「…………」







『ただいまです…て、あ!勝手に鞄の中、漁りましたねコノヤロー』

「遅いぬしが悪い…これは何の書だ?」

『何って言われても…小説、物語ですよ』

「ふむ…」



一応三人分の焼き芋を買って戻れば、刑部さんが私の本を勝手に取り出し読んでいるところだった

ペラペラと読み進めるそれは…まぁ、言うならば恋愛小説だ。似合わない自覚はあるよ



「…若い」

『テーマが青春ですもん。甘酸っぱい初恋の話です』

「…………」

『現代は好き勝手に恋愛できますからね、刑部さんからすれば逆に面倒かも…ん?』

「…………」

『……好きなんじゃないっすか』



私の声なんか聞こえてないのか、黙々とページを捲っていく彼

めちゃくちゃ速読。そして…恋愛小説なんか読むんだなぁ意外



「…………」

『…あまり遅くなりそうなら、佐吉くん連れて帰っちゃいますからね』

「ならぬ」

『聞こえてるのかよ!佐吉くんが関わるとこれなんだから…あ』

「…………」



ふと見れば刑部さんの頭に落ち葉が一枚

気づいていないのか気にしてないだけなのか…しかし気づいた私は気になるわけで




『…動かないでくださいねー』

「…………」

『ん…よし、取れた』



私より高い位置の頭に手を伸ばし、落ち葉を摘まんで取ってやる

ここら辺では見ない葉…もしかしてずっと付けて歩いてた?



『あはー、なかなかに滑稽だったでしょうね刑部さん』

「…………」

『ぐ…!いつもの返事がないと、なかなか苦しいものですね』

「…………」

『…………』




……つまらない

読書に夢中な彼に対し私はその横顔を眺めるか、可愛い佐吉くんの寝顔を見つめるかしかできない

あ、焼き芋があったか。大きなそれをボキリと2つに折り、温かいうちに一口…うん、美味しい



『刑部さんどうしますー?冷めたら不味いですよ』

「…………」

『…ああ、聞こえてませんでしたねコノヤロー。佐吉くんもまだ寝てるしなぁ』



とはいえ一人で食べきるのも…刑部さんが言うように夕飯前だし佐助くんが怒るかなぁ…でも人数分は買っちゃったわけで



『刑部さん、食っちゃってくださいよ。大丈夫です、別腹別腹』

「…………」

『よくよく考えたら少食な佐吉くんに一本買ったのも間違いでした、せめて半分お願いです』

「…………」

『刑部さーん、刑部さーん』

「…………」

『むっ…!ほら、食べてくださいよ、あーんっ』

「ん……」

『……へ?』




………ぱくっ、


一瞬だけ近づいてきた刑部さんの顔に固まれば、次の瞬間には何事もなかったような彼の横顔

しかし、差し出した私の手の焼き芋は確かに一口分減っている。彼の咀しゃくにその行方は一目瞭然だった



『……へ?え?』

「…………」

『ぎょ、ぶ、さん?』

「…………」

『…………』




まさか…無意識なのか

本に集中したまま返事を返さない彼だが、その、今、私の手元から…




『え、ちょ、…う、うわぁ…なに、して…!』

「…………」

『っ………』

「…………」

『・・・・・』




一人で照れるのもバカらしいので、刑部さんの無防備な横っ腹に一撃をお見舞いすることにした







「…ぎょうぶ、何か、ナキが怖い」

「うむ…突然不機嫌になってな」

「…私が寝ている間に、何かあったのか?」

「…皆目検討もつかぬ、どうしたものか」

「…………」

「…佐吉、何故われを疑うような目をする」

「ぎょうぶが何かしたような気がするからだ」

「・・・・・」







20130915.
シグマwith関ヶ原の日!

ちょっと無意識な本気を出した刑部さん^^


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