素直になれない卑屈者


ただワタシは、アナタに好きと言うだけでいいのに






「いいか、女の子は俺らよりずっと可愛くて小さいんだ。俺ら男が守ってやらなきゃいけないんだぞ」

「こころえたでござる!」

「女は弱いのか?」

「そうだぞ佐吉ー、手もちっちゃいし俺らが抱き締めたらすっぽり収ま―……いてっ!」

『弁丸くんと佐吉くんになに教えてんだよマセガキ!』



ちびっこに生意気なことを教えてたマセガキに一撃を

うずくまる彼と仁王立ちな私。弁丸くんから盛大な拍手を頂いた



「ナキどのはつようござるな!」

「…本当に女は弱いのか?私にはそう見えない」

『あはー、そうだよ女は逞しいよ。だから君らは私が守ってあげるからね』

「いてて…またそんなこと言っちゃってさ!ナキちゃんもか弱い女の子だよ!無自覚!」

『まだ言うかマセガキ…!』

「あはは、ナキちゃんが分かってくれるまで何回も言うよ!ナキちゃんはか弱くて可愛い女の子っ!!」

『・・・・』

「…弁丸、あちらへ逃げるぞ」

「しょ、しょうちいたした!」




…その生意気な口を、どうやったら塞げるのだろう








『……はぁ、』

「あらナキ、ため息が深いわ。どうかしたの?」

『濃姫さん…いや、えっと…』

「…またアレかしら。悩みがあるなら言ってちょうだい、私が何とかしてあげる」

『あ、は…原因が明智部長だったらずいぶん楽なんですけどね』



昼休み。いつもの浅井先輩や明智部長と絡まずボンヤリしていた私に濃姫さんが近づいてくる

忌々しく口にしたアレ、とは明智部長のことだ。いや、アレじゃないっす



「アレ以外にもナキを悩ませる人間がいるのね…!言ってごらんなさい、私に任せておけば大丈夫よ」

『心強すぎます濃姫さん……じゃあ、一つ質問いいですか?』

「もちろん、何でも聞いて」

『もし…社長に可愛いねって言われたらどうします?』

「…………え?」




ピタリ、私からの質問を受け固まった濃姫さん

でもしばらくして、その意味を理解したのかみるみる顔が真っ赤になっていった可愛いです



「な、何を言うのナキ!上総介様が、私にそんなこと、言うはずがないでしょう!」

『あはー、そのわりには照れちゃってるじゃないですか』

「ナキっ!!!〜〜っ―…う…嬉しいわ…!」

『…………』

「聞き間違いだと思うでしょうけど…あの人が、そんな冗談を言う方が信じられないもの」

『…そうですよね。本当にそう思うなら、軽々しく口になんか出せません』

「っ………ナキ?」

『あーあ…ほんと卑屈で嫌になりますよ』




自分が、


ため息と共に俯いた私の脳裏に浮かんだのは、年の割にしっかりしすぎたあの男だった

いや、しっかりじゃなくちゃっかり?



『…可愛い、可愛いね、女の子だね…そんなこと言われたって信じられないっすよ』

「…彼の話かしら?」

『えー…あー…違いますけど、なんか、上手く言えないです』




あいつが私の何なのか、なんて特に言えないし言わない

それでも最近、あいつが私を可愛いと言うたびにムカムカとしてしまうんだ。実に面倒



『私だけに向けられた言葉じゃないって知ってるからですかね』

「…ふふ、まるで浮気されてる彼女のようね」

『ちょ、妙な冗談やめてくださいよ濃姫さん。だいたい、私は年上が好みなんです』

「あら…じゃあ、その彼は年下なのね」

『墓穴掘った!』

「ふふ、いいじゃない。年下でも貴女を大事にしてくれる人なら」

『……単に優しいだけな気がしないでもないことも…いや、優しいだけっす』



また自分で穴を掘っていく

でも事実であって、再確認しているだけであって…また沈むだけである



「ナキ、もっと彼の言葉を素直に受けとればいいわ」

『えぇー、また難しいことを』

「貴女はもっと自信を持たなきゃ。その彼が言うみたいに可愛いもの」

『…………』

「ふふ…彼が貴女に、貴女の魅力を教えてくれたらいいわね」



そう言って笑う濃姫さん。そんな彼女に複雑な表情を送る

年下、といっても彼はまだ義務教育レベルなお子様である。そんなお子様に何を教えてもらえというんだろう


そして―…




『…私は、彼に本音で可愛いって、言ってもらいたいの…かな』




そんなまさか、








「ナキちゃーん!ちょっとこっち来てくれよっ」

『私を呼びつけるなんていい度胸してるじゃないマセガキ…で、なに?』

「文句言いながらも来てくれるナキちゃんはやっぱり優し…いたいいたい、だから耳は止めようよ!」



いつもの如く耳を引きちぎる勢いで摘まんだ私だけど、やっぱりマセガキはヘラリと笑うだけ

その笑顔を見て、ふと濃姫さんとの会話を思い出し腹が立った



『なんで私が君に振り回されなきゃ…!』

「ん?」

『っ…用がないなら私、行くんだけど。可愛い梵に癒されるって用事があるから!』

「じゃあその前に少しだけ俺に時間ちょーだいっ」

『は?』

「ナキちゃんの髪、結わせてよ」








「おー、さっすがナキちゃん。髪の毛さらっさらだ!」

『き、君がごわごわし過ぎなんじゃないの?』

「そうかな?でも、同じしゃんぷぅってやつ使ってるのにねー」

『〜〜っ!!?』



あれ、なにしてんだろ私

座った目の前には鏡があって、映るのは髪を弄られる自分の姿

その後ろでは慣れた手つきで宗兵衛くんが私の髪をいじいじ



「内職の手伝いして小遣いもらってさ。町を散歩してる時に可愛い店見つけて」

『そのリボン…髪紐を買ったわけ?』

「自分用だったんだけどねー、うん、やっぱりナキちゃんの方が似合うや!」

『っ―……』



女物にしか見えないそれは真っ赤なリボン。シンプルで特に可愛らしいとかそんなんじゃない

でも、何だろう、気に入らないとかそんな気持ちにはならなかった




『…私には似合わないよ』

「またそんなこと言う!似合ってるよ、すっごく」

『に、似合わないし!私はオシャレとか縁遠くて、そんなキャラじゃなくて…』

「そうかな?いつも可愛いから変化が解らないだけじゃない、どのナキちゃんも好きだけど」

『はぁっ!!!?』

「うわっ!?え、そんな驚くこと?」

『さらりと君が言うからでしょっ!!?』

「え?」

『〜〜っ、…いや…ごめん、気にしないで…』



本当に意味が解らないと言いたげに首を傾げるから…一気に冷静になる

いちいち反応してる私がおかしいのか…と落ち着けば、彼の表情はますます不思議そうなものになった



「どうしたんだい、ナキちゃん」

『気にしないで…君は私を可愛くするのに集中すればいいよ』

「え、難しいこと言うなぁ…いつも可愛いんだからこれ以上は無理だよ」

『そ、いう言葉を聞きたいんじゃなくて―…!』

「これだって単に似合うと思っただけだよ。あと、いつもと違うナキちゃんも見たいなって」

『っ!!!?』

「いろんな面を見たいと思うのは当然だろ?ほら、可愛い」

『………』




宗兵衛くんと同じように頭頂近くで結われた髪

ただ私はそれじゃなく、鏡越しに彼を見つめていた。ああ、何だろうな…何でだろう




『…やっぱり似合わない』

「えぇー!あ、じゃあ次はもっと下で結んでみようよ」

『まだやるの?』

「ナキちゃんが満足してくれるまでね!」

『…………』




そう笑ってリボンに指を絡めた宗兵衛くん。シュルリとほどいたそれのせいで、パラパラと髪が降ってきた

彼が指で遊ばせるそれはまるで、




『………赤い糸、』

「ん?」

『……な、なんちゃって』







20130927.
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