背伸びでも届かない


アナタに差し出したとしても、ボクの手には何もないようだ






『佐助くん、佐助くん』

「っ―…何さ、何度も呼ばなくても聞こえてるんだけど」

『ごめんごめん、あのさ、明日の買い出しなんだけど―…』

「…………」




たまにこの人が、俺をどんな風に見てるのか無性に気になることがある






「はぁ…俺がナキさんから頼まれてるのってさ、女中やら何やらと変わらないよな」

「さすけは、りっぱなしのびでござるよ?」

「あ、うん、ありがとね弁丸さま」

「思春期忍者ではないのか?」

「思春期忍者ーっ」

「お前らはうるさい!」

「いてっ!!?」

「…………」



頑張れ、負けるな、と応援してくれる弁丸さまに対し、俺をバカにしたような佐吉と梵天丸

その頭を殴れば梵天丸には直撃、佐吉はサラッと避けやがった



「思春期は多感だから広い心をもってやれ、とぎょうぶが言っていた」

「こじゅうろうも、佐助は優しく見守ってやれって言ってたぞ!」

「なにそれ完全に俺を下に見てるだろっ!?」

「さすけは年下でござるよ?」

「いや、そういう意味じゃなくて…!」

「背も下だぞ」

「悪かったなっ!!」




とにかく、頼られてるとは少し違うこの扱い

納得なんかできないけど…じゃあ俺は、どんな風に見て欲しいのだろう








『…はい、じゃあ一人一パック卵さん持ってね』

「落とすなよ、さきち!」

「貴様こそよそ見せず歩け、竹千代」

「むぅ……!」

『うん、卵さんばっかり見てても逆に危ないよ弁丸くん』

「………はぁ」



安売りだとやって来たすぅぱぁって店

俺の持つカゴに積まれた食材と、ちび達が抱えた卵の入れ物。ちなみに片倉の旦那や宗兵衛たちは違う店に買い出しだ

ここにはナキさんと俺、弁丸さま、佐吉、竹千代、そして―…




『あ、こら刑部さん!アナタは卵持つの禁止っ』

「…落とすわけなかろう。そこまで覚束ぬ足ではないわ」

『卵云々じゃなく転んじゃ危ないじゃないっすか、ゆっくり行きましょ』

「ぎょうぶの分は私が持つ!」

「では、さきちの分はワシが持つ!」

『あはー、じゃあ竹千代くんの分は私が持つね。これでいいですか?』

「ヒッ…嗚呼、そうよな」




「・・・・・」

「さ、さすけ!顔がこわいぞ!」

「……別に」



杖を使って歩く大谷の旦那に寄り添うナキさん。たまに手を掴んで引っ張ったり、腕を絡めて支えたり

対する俺が持つのは買い物のカゴで…妙な虚しさにまたため息をついた



「…何だろうなぁ、この感じ」

「ヤキモチか」

「なっ―…!な、何言い出すんだよ佐吉!」

「だって猿はヤキモチばかりだから見てて楽しい、とぎょうぶが言ってたぞ」

「また大谷の旦那っ!?つか、や、ヤキモチとかそんなんじゃないし!」

「おもち好きでござる!」

「いや、だからね弁丸さま、そういう意味じゃなくて…」

「あぁーっ!!!」

「うぉっ!?大声出すなよ竹千代っ恥ずかしいだ―…!」

「ぎょうぶっ!!!」

「は?」



竹千代が大声を出してすぐ、佐吉が叫んで走り出す

その方向を見れば…体勢を崩した大谷の旦那を、ナキさんが支えてるところだった



『ちょ、大丈夫ですか刑部さん!あのカップル、ぶつかっといて謝罪もなしとか…!』

「ヒッ…安心せよ、奴らは直に破局する」

『あれ、刑部さんが言うとなんか洒落にならないんすけど』

「ぎょうぶっ!!?」

「ぎょうぶーっ!!!」

「嗚呼、平気ゆえそう心配するな佐吉、竹千代。すまぬなナキ」

『いえいえー、これくらい』

「…………」

「よかったでござるな、さすけ!…さすけ?」

「……はぁ、嫌だな俺って」




転びかけた旦那を心配して、佐吉や竹千代のように気にかけるべきなんだろう

なのにそれを見た俺が感じたのは、もっと黒々とした感情。そして―…




「…遠いん、だよな」




腕を回し抱き合うようなその姿

ナキさんと大谷の旦那のその様は、子供な俺から見ればとてもお似合いだと思ったんだ






「はぁ…身長の問題じゃないんだよな、こればっかりは」

「身長ならしっかり食べてしっかり寝る!そして元気に遊べばそのうち伸びるよ!」

「…アンタの妙な説得力に腹が立つ」

「ははっ、酷いなぁ」



…結局のところ、この手の話は宗兵衛にするのが一番なんだろう

俺の独り言みたいな話にうんうんと頷き親身に聞いてくる



「佐助は難しく考えるなぁ、そんなのナキちゃんに好きって言っちゃえばいいじゃないか」

「ばっ―…ち、違うそんなんじゃないっ!!俺はガキ扱いされたくないだけだ!」

「うんうん、佐助くらいの年齢は複雑だよね」

「お前も同じような年齢だろ…!それに…俺は…」

「ん?」

「…………」




分かってるんだ、つり合うとか似合うとか、そんなのは見た目の問題じゃない

俺とナキさんの間には長い時間の差があって、年齢だけじゃなく…距離的な時間も



「…ここは、俺らが生まれた時よりずっと未来なんだ」

「え?あ、うん、そうだな」

「本当なら、俺らとナキさんは会うはずがなかったんだよね…」



遡ってしまえばもっとずっと、俺たちの間には時間があって。たぶん別の世界の人って表現が近いんだろう

俺がそれを繋ぐなんて到底無理で…また深いため息をついた俺に対し、宗兵衛は困ったように頬をかいた



「うーん、難しいなやっぱり…佐助はナキちゃんよりずっと年下だから不満なんだろ?」

「…ガキ扱いされたくない」

「でもさ、俺らの方がナキちゃんよりずっとずっとずっと前に生まれてるんだ」

「…………」

「それに比べたら二人の年の差なんて微々たるもんだと思うけどなぁ」

「っ―……」

「それに、恋に年齢を持ち込むなんて野暮ってもんさ!」

「だから恋じゃない!恋なんかじゃなくて、これ…は…」

「佐助?」

「これは……っ―……」




そもそもの話


俺はああだこうだと言えるほど、この気持ちが何かなんて知りやしなかった




「…………」

「だからさ、その自分を見て欲しいってのが恋だと思うんだけどなぁ」

「……宗兵衛は、恋ってどんなものか知ってるのかよ」

「もちろん!その人を思うだけで笑ったり苦しくなったり、不便だけど嫌じゃないよ」

「…………」

「時間の問題なんか気にしなかったらさ、あとは素直になるだけじゃないか?」



俺がナキちゃんを呼んでくるよ!なんて相変わらずなお節介を始めた宗兵衛

素直になれ、なんて何を言えばいいのか。立ち尽くす俺の所へ血相変えたナキさんが走ってきたのは直ぐだった







『佐助くんが苦しんでるとか言うから飛んできたのに…!あのマセガキ騙しやがったな!』

「(…宗兵衛、なんか、ごめん)」

『本当に大丈夫なんだよね?ちょっとダルそうだけど』

「へ、平気!」

『ん、そっか。佐助くんは頑張り屋さんだからねー、体調悪かったらすぐ言ってね』

「っ―……!」



俺が平気なのを確認して、ちょっと低い俺の頭を撫でてくるナキさん

途端に思い出したのはナキさんと並ぶ大谷の旦那の肩の位置。並んだ二人の身長差。互いに気の合う年の近さも―…




「…………」

『…佐助くん?』

「……、……なら…」

『ん?』

「俺が…子供じゃなかったら、俺のこと…」




好きになってたのかな、





『………へ?』

「っ!!!?い、今のは、何でもない!違うっ!!」

『え、なになに、今のって告白?』

「だから違うっ!!俺は、ナキさんがいくつでも、仲良くしてあげるって言ってるの!」

『…………』

「〜〜っ!!!」



思わず口走った言葉に慌てる俺と、やっぱりニヤニヤと余裕で笑うナキさん

だから、違うんだ、そんな意味じゃなくて…ああ、もうっ




『でも佐助くんが大人になったら私、おばちゃんになってるよ?』

「っ―……!」

『でも平気?』

「お、俺はナキさんがいくつでも、気にしないし!」

『そっかそっか、それを10年後に言って頂戴よ』

「そ、れ…!」

『10年後に君の黒歴史になってなきゃいいなぁ、私』

「…………」







「佐助!どう?告白は上手くいっ―…いてぇっ!!?」

「何してんだよお前は…!」

「え、もしかしてフラれた?ごめんな!次がある!」

「宗兵衛っ!!そもそも告白なんかするわけないだろ!」

「え?じゃあ何ですっきりした顔、してるんだよ」

「…………」



不思議そうな顔をする宗兵衛を無視して、俺はさっさと台所に向かう

今日の夕飯当番は俺なんだ。こっちに来てからだいぶ腕が鍛えられた気がする




「…10年なんかあっという間じゃないか」




初めて、恋しいという気持ちを知る





20130920.
←prevbacknext→
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -