多感なお子様だれに似た


『先輩ー!書類の方、書き終わりまし…おぉう』

「ん?さすがだなナキ、貴様は相も変わらず手早い」

『そして部長はなに我が子を餌付けしてんすか』



バイトや内職の手続きを終えて先輩のところに向かうとなんじゃこりゃ

座る浅井先輩の前にはたくさんのお菓子の山。そしてその隣では、口一杯にお菓子を頬張った弁丸くんがいた



「むぐ、…ナキどの!」

『あはー、たくさん貰えてよかったね』

「いい食べっぷりだ古めかしい子!遠慮はするな」

「こころえた!」

『…………』



人懐っこさと古めかしい言葉遣い。先輩はずいぶん弁丸くんを気に入ってるらしい

…そしてもう一人。私が奇妙な声を出した原因が隣に座っていた





『…先輩のくれた饅頭は美味しいかい、文系少年』

「悪くはない」

「松寿丸はナキの従兄弟だったか。こいつもいい食べっぷりだ!」

「…………」

『…………』



にぱぁと笑って頬張る弁丸くんに対し、松寿くんはただ黙々と食べ続けていた。一口が小さいな君は



『つか、先輩もなにしてるんすか』

「ん?夕飯にはまだ早いだろ?」

『そっちじゃありません』

「じゃあ何だ?」

『いきなり魔王攻略とかそんな無茶な!』



弁丸くんみたいに初期の可愛いモンスターじゃないんですよ?クイーンですよ?

あの松寿くんが自分の隣に座ることを許すなんて…餌付け恐るべし



『いきなり攻略されるとは…!私も無理だったのに』

「ナキは何を言うておる」

「さぁ…とにかく食べろ。早くしなければとられてしまうぞ」

「む…だれがとるのでござる?」

「ああ、今日来る子供は貴様らだけではない。もう一人―…」

「ナキーっ!!!」

『お?』



ドーンと背後から何かが体当たりしてきた

梵や竹千代くんよりも大きな衝撃。何とか支えて振り向けば、ズリズリと背中に頬擦りする頭が見えた




「ナキどのっ!!!?」

『あはー、襲われてないから大丈夫だよ弁丸くん。そして…久しぶりだね蘭丸くん』

「ああ!わざわざナキに会いに来てやったんだっ」

『そうかいそうかい、ありがとね』



だから離れてねー、と頭のチョンマゲを引っ張る

すんなり離れた彼は蘭丸くん。織田社長の親戚らしく、前からちょくちょく会社に出入りしていた

実に生意気盛りな少年である




「蘭丸!勝手に入って来るなと何度も言っただろうっ!!」

「蘭丸がお前の言うことなんかきくわけないだろっ、それにロビーに部長は居たぞ」

「…部長が、貴様の侵入を見逃したのか?」

「なんか固まって動かなかった」

『なぜじゃ』



副社長との仲に匹敵するほど蘭丸くんと部長の関係は最悪だ。とは言っても口喧嘩は小学生クオリティ

その部長が彼をスルーするなんて…何があったのやら




「………奴は何者ぞ」

「ん?蘭丸は兄者の親族でな…前からナキを気に入ってベタベタと甘えている」

「…………」

「濃姫さまのお気に入りでもあるからな、強く言ってもきかな…おい、松寿丸?」







「…貴様、」

「ん?何だお前、見ない顔だな」

『蘭丸くん、この子は松寿くんって言って―…』



ベチャアッ!!!!



「ぎゃあぁあぁっ!!!?」

『あ゛』

「…………」

「な、なにすんだよっ!!ぺっぺっ!」

「………ふんっ、」



ツカツカとこっちにやって来た松寿くん。その手には先輩が買ってきたケーキがワンホール

嫌な予感と思ったら見事に的中し、次の瞬間には蘭丸くんの顔面にぶち当てられていた



「しょーじゅどの!甘味がもったいのうござる!」

『おや、弁丸くん。発言がだんだん私に似てきたな』

「何という悪影響!いや、それより大丈夫か蘭丸っ!?」

「うぅ…何だよお前っ!!いきなり蘭丸に何すんだっ!?」

「貴様の面を見ると腹が立った…故に手頃な甘味で封をした」

「何という理不尽っ!!!」

「ナキーっ!!!お前なんかナキに叱られちゃえっ!!」

『えぇー…』



私の背中にまわって蘭丸くんが吠える。先に顔を拭きなさい

私、説教とか苦手なんだけどな。しかしまぁ今のは確かに理不尽である



『松寿くん、蘭丸くんに謝ってあげて?』

「…断る」

『でも急に顔面ケーキはダメだよ。最近のバラエティ番組でもなかなかやらないんだから』

「話がそれているぞっ!?」

『すんません…松寿くんの方がお兄ちゃんなんだし、ね?』

「…………」



ムスッと唇を尖らせ明らかに拗ねた松寿くん。君らしくないな…普段はいい子の代表なのに。いったい蘭丸くんの何が気に入らないのか

そう悩んでいると気の短い蘭丸くんが顔を拭いてこっちにやって来た



「おいお前!ナキを困らせてんじゃねぇぞ!」

「…………」

『平気だよ。もっと手のかかる子はたくさん居るから』

「けどっ…!」

『ごめんね蘭丸くん、せっかく会いに来てくれたのにね。新しいケーキいる?』

「いいのかっ!?えっと、じゃあチョコレートの…ぎゃあっ!!!」

「…………」

『松寿くん!』



今度は蘭丸くんの足を踏んづけた!今のは完全に松寿くんが悪いと私は強めに手を引っ張った

蘭丸くんと距離をとる。じっと私を見上げる彼



『松寿くん!』

「…………」

『っ…はぁ、すみません浅井先輩…先に帰ります』

「あ、ああ」

『弁丸くん、後で佐助くんや片倉くんたちと帰ってね』

「う、む…」

『…………』




私は黙ったままな松寿くんを引っ張って会社を出た

確かにロビーでは部長が固まってたけど、今はそれに構う余裕はなくて…隣の問題児が先だ



『松寿くん…なんで君の機嫌が悪いの?』

「…………」

『………はぁ』




言ってくれなきゃ解らないよ…ただでさえ、君は一番分からない子なんだから








「……ナキ、帰った」

「今日はタイミングが悪かったな蘭丸。しかし、どうしたのだ松寿丸は」

「弁丸、佐助が呼んでたよ…って、松寿は?」

「やさぶろうどのーっ!!」



側に居た弁丸が走りだし、自分を呼ぶ弥三郎に飛び付く

受け止めた弥三郎は様子がおかしいと顔をしかめ、次に不安そうに私を見てきた



「えっと…」

「ああ、松寿丸が急に駄々をこねはじめてな。ナキが連れて帰った」

「松寿が…あの、すみませんでした…」

「なんでお前が謝るんだよっ」

「え、と…ごめんなさい」



高い背が一回り小さく見える、そんな表情に違和感を感じるが深くは聞かない


眼帯で隠れていない右目が、何処か遠くを見ている気がした






20120519.
続く→
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