上手の上手はほくそ笑む


『みんなー、これから知らないお兄さんと、変態なオジサンに会うから失礼のないようにね』

「ぶちょーどのでござるか?」

「ぶちょーって何だ、さきち」

「私は知らん」

『えっとね、とにかく変態な人』

「ふふふふ、お待ちしていましたよお子さん方」

「「「あれだっ!!!」」」



弁丸くんと竹千代くん、佐吉くんが一斉に部長を指差した。こらこらダメでしょ



「…お子さん、また増えましたか」

『ゴワゴワ頭な竹千代くんと素敵前髪な佐吉くんです』

「よろしく!」

「……………」

「おひさしゅうござる、ぶちょーどの!」

「ふふふ…私のことは明智、ぶちょー、パパ、好きに呼んでくださいね」

「変態でよかろう」

『こらこら松寿くん、初対面の人にいきなりダメでしょ』

「…………」



ビキッ、明智部長が固まった

理由は言わずもがな私の隣に立つ松寿くんである。彼とも初対面だ



「また…中学生ですか」

『従兄弟ってことにしときます』

「ナキ、我は帰る」

『まぁまぁ、ここにもたくさん本あるから、ね?』

「…………」

「ああ…ナキさんに頭を撫でてもらえるなんて羨ましい!ぜひ私も―…」

「寄るな変態っ!!」

「ぐはっ!!!?」

『あ゛』



部長が目の前からぶっ飛んでいった。そしてヒラリと着地したのは佐助くん、また君か!



「さ、佐助、ダメだよ!相手は一般の人なんだからっ」

「じゃあ弥三郎は、あの変態がナキさんに迫るの黙って見てるわけ?」

「それは嫌だけど…」

「はは、佐助が蹴ってなかったら俺がやってたよ」

「笑顔で怖いこと言わないでよ宗兵衛っ!!」

「ま、また増えましたか…しかも、ずいぶん大きい二人ですね」

『まだ12、3歳ですよ。ポニテな宗兵衛くんと愛らしい弥三郎くん』

「そして彼が…」

「っ―……!」



ギロリ、明智部長の目が鋭さを増した。その視線の先を辿っていくと…





「か…片倉だ」

「片倉さん、ですね。そちらは貴方のお子さんですか?」

「…梵天丸様は俺の子じゃねぇ、そして梵天丸様に近寄んなっ」

「ひっ、ナキーっ!!」



近寄ってきた部長に恐怖を感じたのか、片倉くんの後ろから私の方へ逃げてきた梵

私に飛び付いた瞬間、部長の殺気がパッと消えた



「ああ、ナキさんの方でしたか。なら私にとっても可愛い子ですね、ふふふふ」

「お、オレ、こいつヤダ!」

『うんうん、気持ちは分かるけどもう少し我慢ね』



二度目な弁丸くんや人懐っこい竹千代くんはまだしも、他の子は部長に警戒心丸出しだ

さすが部長、今日も際立った変態っぷりです




「ナキ、こっちの部屋で手続きを済ませろ」

「せんぱいどの!」

「ああ、よく来たな古めかしい子。今日も菓子を用意してあるぞ」

「かんしゃいたす!」

「他の子も来い、皆、古きよき素晴らしい名だな!」

『よかったねー、みんな』



歴史オタクな浅井先輩は、武将の幼名だらけでテンションが上がっているらしい。いや、みんな本物ですが

すでに餌付けされてる弁丸くんを筆頭に、みんな続々と中に入っていく。さぁ、早く書くもの書いて帰ろっか








「…………」

「おや…行っちゃいましたねナキさん」

「あ、ああ」

「貴方は行かなくていいのですか?私は今すぐにでもナキさんを追い掛けたいのですが」

「…………」



俺の前に立つ銀髪の男

俺も早く皆を追いたいが、こいつが前に立ち塞がっていて動けねぇ

鋭い殺気…こいつ…できる!




「ふふふふ、ナキさんは健気でしょう?貴方のために職探しとは」

「っ…ああ、アイツには世話になってる…これからもきっとそうだ」

「…………」

「テメェが職を紹介してくれたんだろ?感謝する」



いくら妙な人間だからとはいえ、コイツも恩人の独りになる

そう礼を伝えれば喉の奥、クツクツと気味悪く笑い出した男



「勘違いしないでください、私はナキさんとそのお子さんに…苦労して欲しくないだけですから」

「ああ…そうかよ」

「それにナキさんは少々じゃじゃ馬ですからねぇ、貴方も苦労しているのではありませんか?」

「っ―……!」



ぬっと俺に迫る男に思わず一歩、退いた

愉快そうに笑うが…何が言いたい、ぐっと睨めばさも可笑しいと口角をつり上げる



「おや?貴方にはそうではありませんか?」

「何の話だ」

「ナキさんにワガママなど言われたことありません?」

「っ…そんな、もん…」





…ねぇな

我を貫く奴ではあるが、それはガキのためだったり誰かのためだったり

自分のために他に害をなすことはない。少なくとも俺は…ワガママなんてやつ、聞いたことなかった



「日頃は私に変態だの寄るなだの禿げろだの…様々な暴言を吐くんです、嫌じゃないですけど」

「ああ、ナキじゃなくても吐くだろうな」

「彼女の気まぐれには振り回されっぱなしですが…こんな時、私を頼ってくれますからね」

「っ―……!」

「ふふふ、貴方は彼女に甘えられたことはありますか?」




言葉の詰まった俺を見て、それが返事だと男は更に笑みを強めた

甘えるだなんて…ナキが?想像がつかない、そんなアイツを俺は見たことがない



「…………」

「ナキさんに頼られて悪い気なんかしませんよ、ああ、貴方が頼りないだなんて言ってませんよ?」

「っ…い、や…事実…なんだろうな…」

「やれ片倉、何を言い負かされておる」

「うぉっ!!!?」

「っ!!!?」



カツン、と高い音が隣から突然聞こえた。驚いて振り向けばそこには笑って立つ大谷の姿!

そして側にはやはり佐吉。お前、ナキたちと一緒に行ったんじゃなかったのか



「…どちら様ですか?佐吉くんがなついているようですが」

「ナキと共に来たのだが、気づいていなかったか?」

「ナキさんの…貴方も同居人でしょうか?」

「ヒッ、もちろん、なぁ佐吉?」

「もちろんだぞ、ぎょうぶ!」



普段と変わらず仲のいい二人だが…男はその様子に固まっていた

そりゃ、さっきまで自分を警戒していたナキの息子(だと思ってる)が、見知らぬ男にベッタリだからな



「…………」

「ヒヒヒッ!睨むでない。われは刑部と呼ばれておる、よろしく頼むぞ部長殿」

「刑部さん…ですか」

「ぎょうぶ、中へ行かないのか?」

「ああ、行くか佐吉。菓子があると言っておったなぁ」

「私はいらん、ぎょうぶにやる」



右手にはナキが大谷にやった杖、左手には佐吉を連れてゆっくりと歩いていく

ただ、それを男は引き止めた



「貴方は…ナキさんに頼られたことはありますか?」

「…………」

「甘えてもらったことはあるのでしょうか」

「…はて、言われてみると思い当たらぬなぁ」

「大谷っ―…!」



そう答えた瞬間、男の表情が満足気なものとなった

優越感、だろうな。それが腹立たしく情けなく…悔しかった。早くこの場を去ろうと俺は大谷の元へ駆け寄る



「おい…!」

「急くな片倉、何を慌てておる」

「ナキさんに甘えてもらえないのは寂しいでしょう?勝ち気な子ですし難しいですかね」

「ああ、」

「聞く耳持つな、アイツが喜ぶだけだ」

「私も長い時間を共にすごして、ようやく甘えてもらえるようになりましたよ。ふふふふ」

「確かに、われらは共にすごした時間も短いであろ」

「大谷!」





だが、と笑った大谷は男に負けない意地悪い顔をしていた





「ぬしはナキに甘えたことはあるか?」

「………は?」

「・・・・・」

「ヒヒヒッ!!気は強いが優しい女よなぁ、確かにわれに甘えるなどせぬ、が」

「が?」

「われはずいぶんナキに甘やかしてもらっておる、ベタベタよ、なぁ佐吉?」

「?…ああ、」



分からず返事をする佐吉だが、男に衝撃を与えるには十分だったらしい

顔も髪と同じくらい真っ白だ、顔面蒼白ってやつか




「健気と言うたはぬしであろ?ナキに尽くしてもらったことはないか?」

「…………」

「ヒヒヒッ!我ながら面倒な性格と思うが…ナキのお陰でずいぶん良い思いをさせてもらっておる」

「っ………」

「ではな、行くぞ片倉」

「あ、ああ」








「…大谷、」

「ん?」

「いや…テメェの余裕は、正直すごいと思う」



ナキたちが居るであろう部屋へ向かう俺たち

大谷に合わせゆっくりと進む。俺の質問を聞いていた佐吉が思いきり首を傾げた



「ぎょうぶは余裕なのか?」

「ああ、あの男にあの切り返し…俺じゃ無理だった。大谷だからできたんだよ」

「余裕…」



じっと大谷を見上げた佐吉、そして口を開き何かを言おうとするが…




「佐吉、」

「む…」



大谷に頭を押さえられ、続きは遮られた

何だ、どうした…




「むぐ…だって、ぎょうぶ!ずっと怒ってたぞ!」

「は?」

「佐吉、」

「う゛……」

「…ヒヒッ、余裕などない。頭に血が昇ってちと喋りすぎた」



カツン、杖の音だけが廊下に響いた




「あの男の言い分に腹が立った…が、あんなことを口走るとはな」

「あんなこと?」

「嗚呼、」





われはどうやら、今の生活が良い思いらしい





20130419.
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