オカンの階段のぼる


『ぎゃあっ!!?もうこんな時間っ!!』

「ナキさん!これ忘れてるよ、慌ててどうしたのさっ」

『あ、財布!今日は副社長が来るから急いでんの!』

「ふくしゃちょー?」

『私が間に居なきゃ部長と戦争だから、ごめん、朝食は勝手に食べといて!』

「………へ?」







…というわけで、台所に立ち悩む俺が居るわけである



「飯なんか作れるわけないじゃん…なに任せてくれてんのさ」

「さすけ、おなかすいたでござる!」

「腹へったぞ!」

「はいはい…大人しくしといてくれよ、お二人さん」



じっとこっちを見上げる弁丸さまと梵天丸。期待しても美味いのなんかできないよ

ナキさん、いつも何作ってたっけ…味噌汁?



「野菜も味噌もあるな…魚ってあったかなぁ」

「…玉ねぎはやでござる」

「弁丸、野菜もちゃんと食わなきゃ大きくなれねぇぞ」

「う゛ぅー…」

「こじゅうろうは好き嫌いないから、あんなにでかいんだぞ!」

「そのうち俺が抜いちゃうからねー…あった、魚」



鮭…切身になってるから焼くだけでいいや

あとは味噌汁の具だな。適当に切ってぶち込も…




「ダメだぞサル!」

「うぉおっ!!?ちょ、俺ってば今、刃物持ってるからねっ!?体当たり止めてくんないっ!?」

「そんなに大きく切ったら中まで火が通らないぞ!」



突然、俺に体当たりしてきた梵天丸。やだやだ、子供と一緒に台所とか怖い

しかも一丁前に文句つけてきたからねコイツ



「それに、弁丸が一口で食えねぇ」

「う゛…はいはい、もう少し小さく切るよ!切ればいいんだろっ!?」

「弁丸、野菜がイヤならすりつぶして混ぜてもらえよ」

「うむ!」

「・・・・・」




…………あれ?

なにこの違和感、待て待て怖いぞこの子

さっきから調理に異常にこだわってない?固まる俺を二人は不思議そうに見ていた



「梵天丸って…料理するの?」

「こじゅうろうがしてた」

「へぇ…て、えぇっ!!?あの人、料理できんのっ!?」

「こじゅうろうは何でもできるぞ!」



い、意外だな…あの強面で頭固くてナキさんや大谷の旦那にいじられてる人が、なんて

しかも上手いとか。誇らしげな梵天丸にイラッとした俺、ちょっと大人げない



「それがしも、こじゅうろどのの料理を食べてみたい!」

「じゃあ今度頼もうぜ!おどろくぞ弁丸っ」

「えー…それなら今、頼まない?代わりに朝食作ってもらおうよ」

「今作ったら、ナキだけ食えないだろ!」

「なかま外れはダメでござるよ、さすけ!」

「はいはい、ナキさんにも旦那の飯を食わせるんでしょ?」

「ああ!ナキ、絶対よろこぶ!」




……………ん?




「…………」

「さすけ?」

「…ナキさん、やっぱ喜んじゃう?」

「うん、だって前に“てれび”で料理作ってる男見て、いいな〜って言ってた」

「……………」

「だから、こじゅうろうとナキはやっぱりお似合いだ!」

「それがしも、おにあいになりたい!」

「ダメだぞ弁丸!こじゅうろう限定だからなっ」

「…………」






「…どう?」

「…ちょっと塩辛いかもしれない」

「はぁ…やっぱり?」

「さ、さっきよりは美味しいよ!頑張って、佐助」

「…………」



隣で味見してた弥三郎に慰められる。年下のくせに背が同じくらいとかイラッとするんだけど

それ以上に、うまくできない料理が腹立たしかった




「はぁ…だいたい、忍がまともな味覚なわけないじゃん」

「味見ができなきゃ難しいもんね。でも上達はしてると思うよ」

「そりゃどうも」



何杯目かになる味噌汁を飲んでため息をついた。味噌汁って誰が作っても同じじゃないの?

慣れないことはしないに越したことないけど…負けちゃいけないこともあるんだよ!



「特に片倉の旦那にはね!」

「(小十郎、たいへんだなぁ…)」

「弥三郎、なんか助言とかない?姫若子だろ?」

「姫若子って言うなよ!…助言って言われても…」



うーんと唸って考える弥三郎。そりゃ一朝一夕に上達しないって解ってるさ

でも、ちらつくから。忙しそうに台所に立つあの人の姿


…役に立ちたいじゃん、そしてどうせなら…喜んで欲しい



「あ…俺、お姉ちゃんの料理が好きだな」

「っ…………」

「みんな同じの食べてるけど、たまに違うんだよ。佐助は知ってた?」

「え……」




佐吉は小食だから量は少なめ

弁丸さまと竹千代はたくさん食べるけど、みんなより小さく切ってある

松寿丸は一番先に入れて、食べるときまでに少し冷ましておく





「俺、食べるの遅いから一口が多くなるように具が大きめなんだ」

「…………」

「宗兵衛の量はまちまちで…少なかったらまたお姉ちゃん怒らせたのかな、て」

「みんな…違ってんの?」

「うん!すごいよね、皆を見てくれてるんだよ」

「…………」




あの人は…なんでそこまでできるのかな

手間なんかかけても言わなきゃ解らないじゃないか。事実、俺は気づいてなかった



「弥三郎はさ、それに何で気づいたの?」

「え…え、と…その…お姉ちゃんには言っちゃダメだよ?」

「ああ」

「…いっつも見てるから、かな」

「っ………」

「だから分かるんだ、お姉ちゃんは俺たちをとっても大事にしてるよ!」

「………」

「だから俺、お姉ちゃんの料理大好きなんだ!」




…美味しいわけじゃないけど

うん、否定はしない






「…ナキさん、」

『どうした佐助く…って、それ、ミソスープ?』

「つ、作ったんだけどさ…味見してくれない?」



仕事から帰ってきたナキさんに作った料理を出してみた

何だ何だとパタパタやってきた数名。大谷の旦那もこっちを見てる



「それがしも!」

「ワシも!」

「先にナキさん!後でちゃんとあげるからさ」

『あはー、佐助くんの手料理?お手並み拝見じゃない?』

「あ、あんまり期待しないでよ!不味いなら吐き出してよね」

『うんうん、じゃあいただきます』

「…………」

『…………』



一口、ナキさんの口に味噌汁が吸い込まれていった

味見はしたけど…この人の口には合うんだろうか?一緒にいた弥三郎も緊張した顔だ

じっと味噌汁を見つめるナキさん、そして…




『…佐助くん、』

「っ………」

『私に毎朝、味噌汁をつくってくれない?』

「…………へ?」




ナキさんの言葉の意味が理解できなくて後ろを振り向いたら―…


キラキラに顔を輝かせた宗兵衛と、持ってた湯飲みを落とした大谷の旦那と、顔面蒼白な片倉の旦那がいた






「こじゅうろう!サルに負けんな、こじゅうろうの料理の方がうまいぞ!」

「は…はい…」

「ぎょうぶ、さっきのはどういう意味なんだ?」

「ヒッ…ナキのこと故、他意はない…はず」

「いいなぁ佐助!ナキちゃんの胃袋掴んじゃってさ!」

「へ?え?」

「隠し味は愛情?」

「!?!?!?」







「お姉ちゃん、お姉ちゃん!佐助の料理美味しかった?」

『うん、すごいね佐助くん。これからも頑張って貰うとして…だよ』

「どうしたの?」

『うーん…』





私一人の給料じゃ、ちょっと危なくなってきた






20130415.
←prevbacknext→
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -