ちちんぷいぷい魔法の笑顔


「ナキーっ!!」

『はいはーい、何かな竹千代くん…ん?』

「ずるいぞ竹千代!オレもっ」

「それがしもーっ!!」

『あはー、モテる女は辛い、よ…ね…』

「本当に辛そうな顔してんだけどっ!!?」

『さ、三人はさすがに重い、かな…ぐはっ』

「ナキっ!!?」



竹千代くんから始まり、弁丸くんと梵が次々と抱きついてくる

私は座ってるから、もはや乗られてるよねコレ。出るよ臓物的なもの



『待て待て君たち。順番にね、私は別に逃げないからさ』

「…じゃあ、先にべんまるとぼんてんまるだなっ」

『…………』

「ナキどのっ」

『…はいはーい、おいで二人とも』



ぎゅーぎゅー抱きついてくる梵と弁丸くんを受け止めながら彼を見る。側で大人しく待ってて…偉いと言うかなんと言うか

しかし突然こっちに背中を向けた竹千代くんは、タタタッと何処かへ走って行ってしまった…ん?



「さきちっ」

「…なんだ」

「次は、さきちもナキのところへ行こう!」

「ことわる」

「そう言わず行こう!」

「ことわる」

『………あは、』



珍しく居間に一人な佐吉くんを誘いに行ったのか

ニコニコ笑って手を差し出すけど、佐吉くんはそっぽを向いたまま。なんと言うか正反対だな君たち



『佐吉くん、竹千代くんと一緒においで』

「ナキもああ言ってるぞ!」

「ことわる。私に近よるな」

「う゛……」

『…………』



ギロリと睨まれた竹千代くんがしょんぼり項垂れて戻ってきた

それを見た梵と弁丸くんが私をそっと彼に譲る。そして両手を広げると…勢いよく飛び込んできた竹千代くん



「ナキ〜っ!!!」

『よしよし、偉いね。君はいい子強い子偉い子だ』

「竹千代、そんなに泣くなよ」

「ないちゃダメでござる!」

『…君らもいい子だねー』



三人まとめてぎゅーっとする私を、じっと佐吉くんは眺めていた






「さきち!」

「来るな」

「さきちーっ!!」

「寄るな」

「さきちぃぃぃっ!!!」

「次に私の名をよんだらざんめつするっ!!」

「………すまん」

「・・・・・」



ついに佐吉がキレてしまった。さっさと大谷の所へ戻ってく佐吉を眺め…竹千代は俯く

まったく、あいつも強情な奴だ



「竹千代、諦めろ。佐吉は他の奴等となかなか仲良くはできねぇさ」

「…こじゅうろうは、さきちが嫌いなのか?」

「あ?いや、そういうわけじゃ…」

「っ!!!うん、ワシもさきちと仲良くしたい!」

「…………はぁ」



さっきまで沈んでたくせに、パァッと笑顔でそんなことを言ってしまう

根っから明るい奴だな…前向きなのかバカなのか。そこは少し、ナキに似てると思った



「さきちが名前をよぶの、ゆるしてくれるまでワシは待つぞ!」

「そうか…頑張れよ、諦めろとか言って悪かったな」

「へいきだ!もう一回、行ってくる!」

「あ……」



走った竹千代がまた佐吉を見つけたようだ。佐吉!来るな!佐吉!寄るな!…のやり取りがまた始まった



「ったく…あまり走り回ると危ないじゃねぇか」

「さきち!」

「来るなと言っている!貴様ぁ…ざんめつされたいのかっ!!?」

「ざんめつじゃなく、仲良くしたい!」

「ことわるっ!!」



佐吉を追いかけまわす竹千代。佐吉は早く逃げたいと大谷を探すが見つからない

必死な佐吉に、竹千代が悲しげに顔を歪めた



「さきちは、ワシと仲良くしたくないのか?」

「必要ないっ!!」

「べんまるやぼんてんまるともか?」

「きょうみもないっ!!」

「ナキも?」

「っ―……アイツは関係ない!私にかまうなっ」

「さきちがイヤでも、ワシはさきちと友だちになりたい!」

「っ!!!?」



ズイッと差し出された手を見て佐吉は一度、目を見開いて固まった

それを見て喜んだ竹千代は、さらに佐吉へ近寄る。だが…



「私にさわるなっ!!!」

「あ…」



それを振り払い逃げ出す佐吉。それをやはり竹千代は追った

その先には…





『んー?おお、仲良く鬼ごっこかいお二人さん』

「ナキっ!!!」

「さきちーっ!!」

「来るな竹千代っ!!!」

「っ、バカ野郎佐吉っ!!前を見て走れっ!!!」

「え…うわっ!!?」

『佐吉くんっ!!!』




前を見ずに走っていた佐吉がドカッとぶつかったのは大きな棚

弾かれた佐吉は後ろに尻餅をつくが、それは大きく左右に揺れる


倒れはしない、だが、上に乗せていた引っ越しの名残である箱が傾き落ちる

その下には―…




「ナキっ!!!」

『え……』

「ナキーっ!!!」

『うわぁっ!!!?』





ガタンッ!!!




「ナキっ!!!竹千代っ!!!」

『いっ…たぁ…、…竹千代くんっ!!?』

「………ナキ?」




箱が、ナキの頭に落ちる直前だった

側に居た竹千代がナキを押し倒し、箱の落下から自分達をそらしたんだ

それに気づいたのは離れた場所に居た俺と座り込んだままな佐吉…ナキは何が起きたか解らず、放心したままだった



『え…と…』

「……………」

「っ、ナキ…竹千代っ…!」

『さ、きちく…片倉くん?えっと、何が…!』

「竹千代っ!!!」

「っ―……!」



二人に怪我がないことを確認し、俺はナキの上に乗ったままな竹千代の肩を掴んだ

振り向いたこいつも、状況がいまいち飲み込めてねぇ。ナキを助けたのは思わずだったんだろう



「…………」

「…よくやったな」

「え…」

「お前が突き飛ばしたから、ナキは怪我がなかったぞ。さすが男だ!よくやった!」

「……………」



俺の言葉にも放心したままな竹千代。だが今のでナキは何が起こったか理解できたらしい

すぐに竹千代を、力いっぱい抱き締めた



『ありがとう竹千代くんっ!!!』

「っ……ナキ…?」

『助かったよ、本当にありがと』

「…………」

『…竹千代くん?』

「竹千代、怖かったんだろ?」

「っ、…!」



頭を乱暴に撫でてやれば、竹千代の体が震える

危険を感じて咄嗟だったとはいえ、飛び込むにはかなりの勇気が必要だった


自分も怖かったはずだ。でもそれ以上にナキが傷つくのが怖かった



「我慢するな、怖かったなら言え。泣いちまえ」

「ぁ…、…!」

『…………』

「〜〜っ!!!?ナキが、あぶないと、おもって…!」

『…うん、』

「ワシ、さすけとちがって何も、できないから…!でも、ナキを、たすけなきゃ、て…」

『うん…怖い思いさせちゃったね。でも大丈夫!私はどこも痛くなんかない』

「お前が勇敢だったからだぞ、竹千代」

「ぅ、え…!」



しばらく声を出して泣いた竹千代。思いきり、我慢なんか無しに

俺とナキはこいつが落ち着くまでずっと頭や背を撫でてやった。それを見つめる佐吉も…




「た、けちよ…」

『あ……』

「う゛ぅ、…っぇ…!」

「竹千代っ」

「っ、さき、ち…?」

「わ、私は……!」



今にも泣き出しそうな佐吉を見た竹千代が、自分の涙をゴシゴシと力強く拭く

そして佐吉に向けて、ぐしゃぐしゃな笑顔を見せていた








「ナキーっ!!!」

『おー、またタックルからのホールドかい竹千代くん。よし、来いっ』

「ちょっと待ってくれ!さきちーっ!!!」

「っ―……」



また一人でいた佐吉くんのもとへ走った竹千代くん

服を掴みグイグイと引っ張った。今日は彼も渋々ながら私のもとへ




「………」

「ナキっ!!」

『よし、二人とも来いっ!!』

「っ!!!?」

「あははっ!!!」





竹千代くんの太陽みたいな笑顔には魔法の力があるようだ






20130403.
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