走れ、我慢の子!


『あ…竹千代くん。口元ベタベタじゃん、動かないでね』

「むぐっ?」

「ナキ、それくらい自分で拭かせろ。甘やかすな」

『はぁ、これだから君は堅物男子なんだよ片倉くん』

「なんだとっ!?テメェがそんなだからっ―…」

「やれ、ガキに嫉妬とは見苦しいぞ片倉」

「みぐるしいぞ!」

「嫉妬じゃねぇっ!!!」



朝から元気ですねお二人さん。朝食くらい静かに食べて欲しいものだ

今日も仲良く睨み合う大人組を流しつつ、竹千代くんのゴワゴワ頭を撫でる。それがしも!と弁丸くんが飛んできた



「…………」

『ん、どうしたの竹千代くん』

「ナキの手、少しガサガサしてる」

『え…ああ、最近は炊事とかの量が増えたからね…荒れちゃったか』

「ナキちゃん、女の子なんだから気をつけた方がいいよ?」

『この家に女は一人だけだし仕方ないよ。あはー、紅一点?』

「自分で言うなっ!!!」

「大丈夫だぞナキ!オレのうちに来たら、もうナキはなにもしなくていいからっ」

『役職は?』

「こじゅうろうの嫁!」

「ぼ、梵天丸様っ!!!?」

「・・・・」



メキッ、佐助くんのお箸が悲鳴をあげたよどうしたの

隣の弥三郎くんがビビったじゃないか。しかし彼の謎の苛立ちにちびっこは気づかないらしい



「じゃあ、それがしもナキどのをおよめにするでござる!」

「ダメだぞ弁丸!ナキはこじゅうろうのよ…むぐっ!!?」

「お願いですから黙ってくださいっ!!」

「じゃ、じゃあ俺もお姉ちゃんをお嫁さんに…」

「・・・・」

「ひぃっ!!?」

「ぎょうぶはどうする?」

「ヒッ、われにも選ぶ権利をくれぬか佐吉よ」

『どういう意味ですかコノヤロー』



刑部さんは別にしろ、子供たちはなかなか嬉しいことを言ってくれてる

朝からほっこりした気持ちになれた、そう思ったけど…





「ワシも、ナキみたいなお嫁さんがほしいぞ!」

『…………へ?』

「……………」



竹千代くんの一言の違和感は、私と…黙々と食べ続ける松寿くんしか気づかなかったらしい









『…………』

「ナキ、この筆はもう使えぬ」

『え…あ、これはシャーペンだから芯を新しく入れたらいいよ』

「そうか…」

『…………』

「…竹千代のことは気にするな」

『っ…………』



そう私に声をかけた松寿くんは、この前買ったシャーペンの芯を探し始めた

そっか…君も気づいてたんだ




『…弁丸くんも弥三郎くんも、私をお嫁さんにしてくれるってさ』

「ああ」

『梵と佐吉くんは、片倉くんと刑部さんの嫁にしたいって』

「ああ」

『…竹千代くんは私みたいな人、お嫁さんにするってさ』




それはつまり…




『私が武将の妻になれる身分じゃないって解ってるんだよね?』

「他の者に遠慮をしておるかも知れぬ」

『それ、余計に質悪いよ』



私の苦笑を横目で見ながら、彼はカチリとケースを開けた


思い返せばこの子たちが来た日…竹千代くんはただ黙って座っていた



『弁丸くんみたいに泣いてないし、君みたいに誰かを攻撃してなかった』

「あれは自己防衛よ」

『片倉くんや佐助くん、佐吉くんみたいに私に敵意も向けてこなかった』



あの子はあの子なりに、自分の身に起きたことを受け入れている

普段は悪さをする筆頭だけど…




『…鳴くまで待とう、か』

「は?」

『我慢、してるのかな…竹千代くんなりに』

「貴様は…あの一言だけで、よくぞそこまで話を広げられるな」

『そりゃどうも、性分なもんで』

「損な性分よ」

『でも気に入ってるよ?』

「…………」







「べんまるーっ!!…べんまる?ぼんてんまる?」

「ああ、竹千代。梵天丸様と弁丸なら遊び疲れて寝てるぞ」

「そうか…」

「弥三郎か宗兵衛に遊んでもらえ」

「二人はおつかいに行ったぞ」

「佐助か松寿丸は…」

「ワシをいじめるからやだ!」

「いじめではなく教育ぞ」

「ぎゃあっ!!?」

「あ゛」



我の知らぬ間に文句を言う竹千代を、背後から蹴飛ばした

案の定、慌てて距離をとる竹千代。今回もすべて貴様が悪い



「うぅ…!」

「松寿丸!竹千代をいじめてんじゃねぇよ!」

「こやつも姫若子の次に気に食わぬ。故に蹴る」

「理屈になってねぇぞ!」

「そうだそうだ!」

「…………」

「ひっ!!?ナキーっ!!!」

「……ふんっ」



再び我が蹴りの構えに入れば、竹千代は一目散に逃げ出した

……ナキの所へ



「まったく…面倒なガキよ」

「テメェもガキだろ」

「黙れ堅物」

「ナキの影響うけんなっ!!!」







「ナキーっ!!しょうじゅまるが―…ん?」

「た、竹千代っ!!?」

『ん?』

「……さすけ?」



ナキの声が聞こえて台所に飛び込めば、そこには佐助も一緒だった

竹千代を見て慌ててナキと距離をとる佐助。さっきまで触れるほど近くに並び、何かを見ていたのに



『少し待ってね、もうすぐ説明が終わるから』

「…せつめい?」

『うん、佐助くんが台所の器具…カラクリの使い方知りたいって』

「ひ、昼間は暇だから、俺たち…ナキさんの手伝い、ちょっとくらいはしてもいいかなって」

『ありがとう、すごく助かる』

「っ…これくらい、別にいいよ」

「…………」



次はこれだと言って水回りの説明を始めたナキ

それを聞いて理解するわけではないけれど、竹千代は側で終わるのをずっと待つ



『んー…まずはこれくらいかな?』

「全部教えてくれていいよ、俺、理解できるから」

『竹千代くんが待ってし、残りは明日にでも教えてあげる』

「…分かった」

『竹千代くん、ごめんね待たせちゃって』

「ワシはへいきだぞ!」

『うんうん、大人しく待てて偉いね』

「…………」



駆け寄るナキ越しに見えたのは、台所をもう一度確認する佐助の姿


もし家事を佐助と分担したなら、ナキの手はスベスベに戻るのだろうか?自分は…




『竹千代くん、どうしたの?』

「ナキ!ワシも何かてつだう!」

『…ありがと、でも竹千代くんは今でも十分頑張ってくれてるよ』

「?」




松寿丸に蹴られた時の涙は、とうの昔に引っ込んでいた






20130327.
続く→
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