「あんた『王さま』の現状知ってんの?」
そう言葉を吐き出した瀬名泉は、踵で地面を1度、強く蹴った。
「……何か、あったんですか。」
「ほんとに知らないんだ。あいつ何も言わなかったんだぁ、言う暇がなかったってわけでもないでしょうに。」
面倒くさそうに彼はこちらを見下ろす。
170はあるであろう身長は、見上げる程ではないが十分な高さを感じさせた。
「あいつ、今停学中だから。」
「……は、停学?」
「そ。」
……彼が、停学?
なぜ? あんなに音楽に誠意を込めて向き合って、愛している彼が。
どうしてこの学院で停学なんて事態になってしまう?
「なんで……。」
「話すの面倒。」
「は?」
「どうせ停学程度なんだから、そのうち戻ってくるでしょ。」
……そういうのなら、なぜわざわざ教えに来てくれたのか。
この場所を知っていることも驚きである。
「……うざいんだよねぇ。」
「うざ、?」
それは、紛れもなく『王さま』と称している彼のことだろうか。
「いっつもいっつも、ナマエナマエって。」
「え、私?」
「あいつがいないとイマイチ刺激が足りないだの、昨日は会えなかっただの、自由になってステージ見てもらうだの、チョ〜うざ過ぎ。」
す、凄い捲し立てる様に……。
「それなのに、や〜っぱり何も言わずに処分すんなり受けちゃって。」
「ほんっとうざ〜い!」と目の前の彼は顔を歪めた。
じっとその表情を見つめていると、不機嫌そうな瞳と視線が絡む。
「とにかく、伝えたから。」
「ど、どうも……?」
「…………。」
「……?」
何かを探るようにな彼の視線を受けて、どうにも居心地が悪くなる。
「『王さま』があーなって、あんた何も感じないの?」
「……、確かに彼は変わったけど、」
今更ながら、やっと理解した。
目の前にいるこの青年は、彼が言っていた『ユニット』のメンバーなのだろう。
そして、彼のことを『王さま』と呼ぶ辺り、それなりに敬意を持っていたのかもしれない。
「けど、音楽を愛する気持ちは何も変わっていないと思うから。」
「……あっそ。」
『王さま』を失って、目の前にいる気性の荒い猫は何を思っているのだろう。
そして『王さま』は今、どこでどのように過ごしているのだろう。
なんとなく、隣が寂しく思えた。