彼と会わなくなった。
約束をしているわけではない。
けれど、いつだって何だかんだ彼と遭遇していた。
会わない日が続いても、期間なんてたかが知れていた。
今回もきっと忙しいのだろう。そう思っていた。
彼とは、半年も会っていない気がする。
……気のせいでは、ないだろう。
「ねっむ。」
秋が訪れ、同時に睡魔が酷く押し寄せてくるようになった。
去年は彼の季節を感じさせない明るい声色が響いていたのが、今年はない。
早く聴きたいと、肌寒いのを我慢して彼と逢瀬を重ねる場所に居座る。
意外と、自分の中で彼の存在が大きいことを悟る。
「ねえ、ちょっと。」
「はい?」
どこか気だるけに声をかけられ、欠伸を押し殺して振り向く。
「…………。」
「……なに。」
「いえ、……むしろご用件をどうぞ。」
振り向くと、そこには端正な顔立ちをした男生徒が立っていた。
声色から感じたとおり、少々だるそうに目を細めているその人に、一目見て秘めた魅力を感じた。
「あんたがナマエ?」
「そう、ですけど。」
眉目秀麗とは、まさにこの人のためにある言葉なのではないだろうか。
けれど、その美しい顔立ちも今は疲労感に満ち満ちていた。
「『王さま』から何の連絡もないわけぇ?」
「……はい?」
王さまって……誰? この学院にそんな存在いたっけ。
アイドル科に『皇帝』がいるのは風の噂で知っているけれど、『王さま』は初耳だ。
「なぁに、もしかして『王さま』が誰かすらも知らないの?」
「はぁ、まぁ……。」
「信じられな〜い!」
彼はわざとらしく声をそうあげると、すぐに溜め息を吐いた。
深々しいそれが、その『王さま』とやらの関係を示しているように感じたのは、何となくだ。
「『王さま』のことだから、てっきり自分のことばっかり話してると思ったけど、違うんだぁ。」
「その『王さま』とやらが誰か知らないので、なんとも返せません。」
「本当に検討もつかないわけ〜?」
訝しげに、それでいてどこか苛立った表情を浮かべられては口ごもってしまう。
検討、検討ねぇ……『王さま』なんて自分の身近にいただろうか。
そもそも、この目の前にいるこの人は一体どこの科なのだろう。
ネクタイの色からして2年の同期であることは間違いないけれど、見たことが無い。
つまり、普通科の男生徒ではないということだ。
「ちょっと、人の顔ジロジロ見ないでくれる?」
こんなクセのある男生徒がいれば、絶対に知っている。
ということは、……この美貌、まさか。
「もしかして、アイドル科の人ですか。」
「はぁ〜? それすら分かんないのぉ? っていうか俺のこと知らないんだ。」
「知りませんねぇ。」
「あっそ。ま、いいけど〜?」
明らかに『いくない』ようで、不満げな表情を彼は露わにした。
どうにも、掴み兼ねる。
アイドル科の人がわざわざ訪ねに来た。
自分の名前も向こうは知っている。
と、いうことは、自分のことを知っているアイドル科の人物と、彼は繋がりがあることになる。
つまり、だ。
「……月永レオ絡み?」
「なぁんだ、きちんと頭は動いてるんだ。」
「はぁ、」
どうやらビンゴだったらしい。
「俺は瀬名泉。あんた『王さま』の現状知ってんの?」
どこか疲労感を帯びて、どこか哀しげに、どこか縋るように。
そして、どこか苛立っているかのように、彼は言葉を吐き出した。