寝苦しい。
なにか圧迫されている気がする。
でも目を開けてもいつも通りの天井。
「……苦しい。」
寝返りを打って、呼吸が止まった。
「すー……すー……。」
「……なにしてんの?」
「……バレたか!やっぱり?」
「そりゃバレるでしょ。」
何故かレオがいた。
わざとらしい寝息を立てていたで頭をこつんとしたら、ぱちっと目が見開いて輝かしい瞳と視線が合う。
何でいるの?そもそも母よ、入れちゃいかんでしょう。
なんて、母とレオの仲の良さを考えたら注意するのも無駄だなと思った。
「今何時だ〜?」
「えぇ?……深夜二時ですけど。」
凄い時間にいるな、レオ。
普通に考えたらありえないけど、親もレオも普通じゃない。
「ナマエ!」
「近くで大声禁止。」
「む。……ナマエ。」
次は、掠れるような声で名前を呼ばれる。
なにと短く返すと、同じ布団にもぐっているレオが緩やかに目を細めた。
「誕生日、おめでとう。」
はっとした。
そういえばそうだった。誕生日だった。
「……もしかして、一番に言いたかったとか?」
「と〜ぜんだろ♪」
大きく頷いた相手に、夜潜入してきた呆れなんて消えて喜びがじわじわ広がる。
私も大分普通の路線から外れていっている。
多分、レオと出会ってからは特に。
「起きたらおまえに伝えたいこと、たくさんあった。」
ぽつりとつぶやかれた言葉に、いつもの弾け飛んだ笑顔はない。
けれど、いつだか拝んでしまったくらい瞳も宿してはいない。
紳士的な、それこそ『Knights』のリーダーらしい大人びた雰囲気。
なんだか喉が渇いた。
「いつも俺の傍にいてくれてありがとう。」
「こっちのせりふ。」
「いつも俺を信じてくれてありがとう。」
「たまに疑ったけど。」
「いつも俺の帰りを待ってくれてありがとう。」
「諦めたときあったけど。」
へらり、とレオが笑った。
昔みたいな、純粋で、清らかで、可愛らしい笑顔。
ああ、これが好きだった。
「おれ、ナマエがすきだ!だいすきだ!」
「……私もだよ。じゃないと一緒にいない。」
いつも、レオは伝えてくれる。
楽しい。苦しい。面白い。たいくつ。好き。嫌い。
そんな感情に私の人生は充実に満ちている。
いなかった期間は長かったけれど、帰ってきてからのレオはまたたくさんのものを私へ与えてくれた。
私はそんな彼との空間が好きだから。
レオがどんな気持ちで好きだといつも笑顔を振りまいてくれているのかは分からないけれど、私は彼が拒まない限りは傍にいると思う。
「また陽が昇ったらたくさん祝うからな。」
「海でも見に行く?」
「ナマエが望むならっ!」
「後、レオのソロステージも見たい。」
「うぇあ〜さっすがナマエ突拍子のないこと思いつくなぁ。いいぞ♪」
「後は……考えたら言うね」
「ああ!ハッピーバースデーは一日歌い続けてやるっ♪」
きっと、甲高いバースデイソングが脳に刻まれる。
嫌いな音楽ならご遠慮願いたいけど、レオなら大歓迎。
「たくさん、歌って。私のために。」
「ああ。おまえのためだけに、俺も歌いたいんだ。」
夜はなんだか寒くて、布団の中に唯一ある熱に寄り添った。
レオはふふんと鼻を鳴らしてぎゅっと私を抱きしめてくれる。
小さな体なのにどうしてか全身が包まれた。
目を覚ましたら、朝陽よりも輝かしい笑顔が待っている。
今までで一番安心して穏やかな夢へと落ちていった。
≪第四章【完】≫
アイドル科の王さまと普通科の娘 Fin.