心に生じた蟠りというのは、原因が分からないからもやもやする。
いつまでもこのもやもやが、自分の感情を、言動を制御してしまう。
――喜ぶな。笑うな。楽しむな。悩め。苦しめ。堕ちてこい。
まるでそう悪魔が囁いてくるような感覚にすら陥る。
けれど、そのもやもやの正体が分かると、嘘のように心は明るくなる。
それが自分にとって、悪くないと思えたものであるほど、これは顕著にだ。
「……。」
私は今、まさにこれを感じている。
同時に心が「本当に? 嘘ではないよね?」と何度も問いかけてくる。
目の前でどこか楽しげに微笑むナルちゃんに、再度訊ねた。
「……妹?」
「そうよォ〜♪」
この短いやりとりはこれで、3度目だったりする。
「『ルカ』が、レオの、妹……。」
確かに可愛らしい妹がいるというのは彼の口から聞いたことはある。
けれど、それが「ルカ」というのは初めて聞いた。
「なら、この前の電話相手は、」
「その子で間違いないわよォ。王さまてば、妹の前ではすっかり人が変わるのよねェ。」
「……。」
「滅多に見せない表情や声色で、初めて豹変ぶり見た時は驚いちゃったわァ!」
そうであろう。
現に私も、あの時驚いた。
そして同時に――……同時に?
私は、同時に何を感じたのだろう。
「……。」
「フフッ、ナマエちゃんの悩みってそのことだったのねェ。」
「うん、ごめん。」
「いやねェ、謝らないでちょうだいよ! フフッ、」
ナルちゃん、さっきから凄く楽しそう。
「それにしても、そう……ナマエちゃんってば、んも〜!」
「な、なに?」
「フフッ、なんでもないわよォ?」
「うそ。なんか、楽しそうだし、嬉しそう。」
感じたことをそのまま口にすれば、ナルちゃんはさらに笑みを深める。
「そりゃァ……ねェ?」
「……。」
不思議と居心地が悪くなって、誤魔化すようにカップに口付けた。
「あっさり解決しちゃったけど、泉ちゃんどうしましょ。」
「あ。」
まさかもの分でストレスの原因が消えた、なんて言えない。
思わず視線を逸らしてしまった。
「偶には皆で遊びに行くのもいいわよねっ! 黙っておきましょ♪」
「えぇ…いいの?」
「いいのいいの! それよりもナマエちゃん、この後も時間空いているかしら?」
「うん。今日は一日。」
「良かったァ! それじゃ、行きましょ!」
「え?」
どこに?
その言葉を紡がせないまま、ナルちゃんは立ち上がる。
すぐに手荷物を持って、ウインクを1つ。
「お買いものよ♪」