アイドル科の王さまと普通科の娘 | ナノ

アイドル科の王さまと普通科の

Act.57  揺れる水面に隠れた小波


「で? なにその顔、いかにも悲劇のヒロインです〜って感じしてチョ〜うざい。」


今の心情に更に負荷をかけてくるあたり、瀬名さんは本当に鬼畜だと思う。


「まあまあ、泉ちゃんも心配なのは分かるけど、言葉は選んでちょうだいよォ。」
「誰が心配してるって言ったわけぇ?」
「フフッ、素直じゃないんだからっ♪」
「うざーい。」


不快そうに眉を寄せているけれど、その瞳は気まずそうに横に向かれている。
これは、ナルちゃんの言うとおり心配してくれているのだろうか。


「それで? どうしたの?」
「ん、ストレス発散したい。」
「はあ?」


この返しは想定内だ。
いや……ナルちゃんを呼び出したのに瀬名さんが来ることが想定外だった。


「あらあら。何か嫌なことでもあったのかしら。」
「嫌なのかな?」
「自分のことでしょ。」
「そうなんですけど。」


胸に手を当ててみる。
瞼を閉じると真黒な世界に浮ぶのは、先日のレオの件。

いつだって陰で努力をして無理をして、それを悟らせない笑顔を振りまく彼。
そんな彼の隣に居た自分が初めて見た彼の姿。

……いや。
昔のように表立って真摯に物事に向き合っていたかつての彼を彷彿させる。
それを、電話越しの「ルカ」に見せるのは、一体――。


「何か、あったのね。」
「……うん。」
「辛かったのかしら。」
「そうなのかな。でも、胸が痛い。」
「ったく、ストレスは見当違いなんじゃないのぉ?」
「でもこの正体が掴めない。」
「あんたが分からないもの、こっちが分かるわけないでしょ〜?」


ごもっともだ。
それでも脳裏にこびり付く情景が酷く心を動揺させる。
どうしようもないほどの感情に対処しきれず、こうしてナルちゃんを呼び出したわけだ。


「そうねェ〜本当は原因を追究して、問題を解決するのがいいんでしょうけど。」


それが出来たら苦労はしない。


「分かった! アタシに任せてちょうだい♪」
「ナルちゃん……。」
「大切な親友が困ってるんですもの、放っておけないわ!」
「ありがとう。」
「ウフフ、どういたしまして♪」


ナルちゃんに相談して良かった。
ほっと息をつくと、小さな音が立つ。
視線をずらすと瀬名さんが頬杖をつきながら大げさに息を吐いた。


「しょーがないから、俺も手伝ってあげる。」
「え、」
「なぁに? ナルくんには頼めて俺には頼めないってわけぇ?」
「まさか。瀬名さんも、忙しいのに……。」
「分かってるなら、いつまでもウジウジしてないでよね。」


うざぁい、と美しい唇から気遣いの言葉が溢れてきた。
それは酷く嬉しい。


「で。任せてって案でもあるわけ?」
「こういう時は、辛いのを忘れるくらい楽しめばいいのよ!」
「だーかーら。その楽しめる案があるのって聞いてんの!」
「やだァ、それを一緒に考えるのが泉ちゃんのお仕事よ?」
「はぁ!? ちょ、なあに俺任せ!?」
「当然よ〜♪」


ふふんと鼻で笑うあたり、ナルちゃん凄い。
瀬名さんなんて若干青筋立ってるけど。


「あのねぇ……!」
「ナマエちゃんから呼ばれたって言ったら、問答無用で同伴してきたの誰かしらァ?」
「ちょっと、誰が」
「ナマエちゃんのことだ〜い好きなのに、助けてあげないのかしらァ?」
「あのねぇ! だから」
「こーんなに困ってるのに? 泉ちゃんったら放っておくのォ?」
「〜〜ッもういいから! オカマのくせにうざい!」
「ウフフッ。」


なんだろう、この目の前のやり取り。


「ったく。俺が考えてやるんだから、感謝してよねぇ。」
「うん、ありがとうございます。」


ふんっと視線を逸らして、瀬名さんは席を立つ。
一足先に帰るようだ。何でもこの後人と会う約束があるとか。
瀬名さんを見送って、ナルちゃんと2人でティータイムを過ごす。


「も〜泉ちゃんってば本当に可愛い♪」
「不器用なのかな。」
「フフッ、大切な相手ほどね。」
「これじゃ好かれた人大変だ。」


執拗に嫌味言われて、追いかけられてそう。
失礼極まりない想像を飲み込むように、カップに口付ける。

顔を上げると、さっきまでの笑顔とは反転して眉を下げているナルちゃんが映る。


「それで? どうしたの?」
「……うん……。」


カップを置いて、目の前にいる年下の姉に甘んじることにした。





×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -