司くんも凛月くんも、私に初めてのライブを提供してくれると言った。
それが凄く嬉しくて、まだ決まってもいないライブの日時が気になって仕方がない。
レオには、決まり次第すぐに教えてもらうように約束を取り付けよう。
外で流れる音楽をバックミュージックと化して、スケジュール帳を開いた。
3連休があけるとすぐに小テストがある。気合で乗り切ろう。
週末には親と買い物に行く予定がある。事情を説明したら延期してくれるはず。
来週には友人とカラオケとケーキバイキングに行く約束をしている。これは頭を下げよう。
ああ、ライブはいつなのかな。
こんなに心が弾んだことがあっただろうか。
まるで初めておもちゃを与えてもらったかのように、忙しなく喜びを覚える。
早くこのステジュール帳に書き込みたい。
「ライブって、どんなんだろ。」
この間の【ジャッジメント】や合同ライブとはきっと、空気は違うのだろう。
最初から最後までが『Knights』による、彼らのためのものなのだから。
「……。」
スケジュール帳上の、土日月に書かれた『合宿』の文字を指でなぞる。
もう、今日で終わりだ。なかなか充実した3日間だったと思う。
初日で英智さんが訪れた時は正直はらはらしたけど、問題は生じなかったし。
司くんや凛月さんを中心に、仲良くなれたと思う。
瀬名さんとはちょっとまだ分かり合えていない部分はあるけど、嫌われてないのならありがたい。
ナルちゃんは相も変わらず優しくて、本当に大好き。
レオだって、いつになく輝いているものだから……。
「お礼。」
そうだ。
こんな素敵な3連休をくれた皆に、何かしらお礼をしたい。
とは言え今から用意となると限りがあるわけで……。
何かないだろうか、と思いながら周囲を見渡す。
こんな立派なコテージだ。何かしらあるはず。
「……。」
ふ、と目についたそれに脳がピーンの反応する。
昨日は昼頃、夏をまだ感じさせる暑さではあった。
けれど今日はどうやら気温が下がっているようで、比較的冷える。
ただ、そんな冷えも動いていれば大した問題ではなかった。
鼻をくすぐる香りが、部屋に充満している。
せっかくだからサプライズでもしてみたいと思いつき、窓を解放した時だった。
「ナマエ――っいるかー!?」
「!」
初日の時と同様に、扉を押しあけて彼が戻ってきた。
「ん? 何してるんだ?」
「……空気の、入れ替え。」
「そっかそっか! なんか甘い匂いするもんなっ。それよりナマエ、今時間いいか?」
「うん、平気。」
特に何もすることはない。
予定は全て終えられた。
「よしっ、今から移動だ!」
「え、どこ?」
「ん〜海辺!」
「すぐそこじゃない。」
「まあな!」
自然な動作で、彼に手首を掴まれる。
ここから伝わる体温が温かい――。
「霊感が湧いてくる時さ、」
「ん?」
部屋を出ようと、一歩足を踏み出した途端、彼が口を開く。
「身体に刺激が走るんだ。脳が咄嗟に喰い付いて『これだ!』って反応するみたいに。」
「うん。」
「そしたら、瞬間的におれの頭に世界が生み出される。あの時の刺激ほど心地良いものはない。」
「そっか。」
「おれが初めて音楽に触れた時も、こうだった。」
レオが、初めて音楽に……。
一歩、また足が扉に近づく。
「ナマエ、」
「なあに?」
「おまえにも感じて貰いたい。この刺激を、音楽の素晴らしさを。」
扉が開かれると、蛍光とは別の眩しい自然の光に包まれた。
夕陽が海で反射しているんだ――そう認識して、反射的に瞑っていた瞼を開くと。
「そして、おれたち『Knights』を知ってくれ。」
光に包まれた彼の緩やかな表情と共に、
「ま、初心者でも楽しませてあげるから、覚悟してよねぇ。」
「ウフフッ。ナマエちゃんに見てもらえるなんて緊張しちゃうわ〜♪」
挑戦的に微笑み、
軽やかにステップを踏み、
「初めては、やっぱり大事にしないとねぇ。」
「本日はただ1人、お姉さまのために尽力を尽くしますね!」
艶やかな瞳を向けて、
自然なエスコートをしてくれる、
「ナマエ、おまえに『とっておき』を届けてやる!」
誰よりも高貴な騎士たちがいた。
「――……うん!」
彼らは、私に届けてくれる。
初めての曲を、初めてのライブを、彼ら自身の全てを。