アイドル科の王さまと普通科の娘 | ナノ

アイドル科の王さまと普通科の

Act.54  予定記入なんて待っていられない

司くんも凛月くんも、私に初めてのライブを提供してくれると言った。
それが凄く嬉しくて、まだ決まってもいないライブの日時が気になって仕方がない。
レオには、決まり次第すぐに教えてもらうように約束を取り付けよう。
外で流れる音楽をバックミュージックと化して、スケジュール帳を開いた。

3連休があけるとすぐに小テストがある。気合で乗り切ろう。
週末には親と買い物に行く予定がある。事情を説明したら延期してくれるはず。
来週には友人とカラオケとケーキバイキングに行く約束をしている。これは頭を下げよう。
ああ、ライブはいつなのかな。

こんなに心が弾んだことがあっただろうか。
まるで初めておもちゃを与えてもらったかのように、忙しなく喜びを覚える。
早くこのステジュール帳に書き込みたい。


「ライブって、どんなんだろ。」


この間の【ジャッジメント】や合同ライブとはきっと、空気は違うのだろう。
最初から最後までが『Knights』による、彼らのためのものなのだから。


「……。」


スケジュール帳上の、土日月に書かれた『合宿』の文字を指でなぞる。
もう、今日で終わりだ。なかなか充実した3日間だったと思う。

初日で英智さんが訪れた時は正直はらはらしたけど、問題は生じなかったし。
司くんや凛月さんを中心に、仲良くなれたと思う。
瀬名さんとはちょっとまだ分かり合えていない部分はあるけど、嫌われてないのならありがたい。
ナルちゃんは相も変わらず優しくて、本当に大好き。
レオだって、いつになく輝いているものだから……。


「お礼。」


そうだ。
こんな素敵な3連休をくれた皆に、何かしらお礼をしたい。
とは言え今から用意となると限りがあるわけで……。

何かないだろうか、と思いながら周囲を見渡す。
こんな立派なコテージだ。何かしらあるはず。


「……。」


ふ、と目についたそれに脳がピーンの反応する。


昨日は昼頃、夏をまだ感じさせる暑さではあった。
けれど今日はどうやら気温が下がっているようで、比較的冷える。
ただ、そんな冷えも動いていれば大した問題ではなかった。

鼻をくすぐる香りが、部屋に充満している。
せっかくだからサプライズでもしてみたいと思いつき、窓を解放した時だった。


「ナマエ――っいるかー!?」
「!」


初日の時と同様に、扉を押しあけて彼が戻ってきた。


「ん? 何してるんだ?」
「……空気の、入れ替え。」
「そっかそっか! なんか甘い匂いするもんなっ。それよりナマエ、今時間いいか?」
「うん、平気。」


特に何もすることはない。
予定は全て終えられた。


「よしっ、今から移動だ!」
「え、どこ?」
「ん〜海辺!」
「すぐそこじゃない。」
「まあな!」


自然な動作で、彼に手首を掴まれる。
ここから伝わる体温が温かい――。


「霊感が湧いてくる時さ、」
「ん?」


部屋を出ようと、一歩足を踏み出した途端、彼が口を開く。


「身体に刺激が走るんだ。脳が咄嗟に喰い付いて『これだ!』って反応するみたいに。」
「うん。」
「そしたら、瞬間的におれの頭に世界が生み出される。あの時の刺激ほど心地良いものはない。」
「そっか。」
「おれが初めて音楽に触れた時も、こうだった。」


レオが、初めて音楽に……。
一歩、また足が扉に近づく。


「ナマエ、」
「なあに?」
「おまえにも感じて貰いたい。この刺激を、音楽の素晴らしさを。」


扉が開かれると、蛍光とは別の眩しい自然の光に包まれた。
夕陽が海で反射しているんだ――そう認識して、反射的に瞑っていた瞼を開くと。


「そして、おれたち『Knights』を知ってくれ。」


光に包まれた彼の緩やかな表情と共に、


「ま、初心者でも楽しませてあげるから、覚悟してよねぇ。」
「ウフフッ。ナマエちゃんに見てもらえるなんて緊張しちゃうわ〜♪」


挑戦的に微笑み、
軽やかにステップを踏み、


「初めては、やっぱり大事にしないとねぇ。」
「本日はただ1人、お姉さまのために尽力を尽くしますね!」


艶やかな瞳を向けて、
自然なエスコートをしてくれる、


「ナマエ、おまえに『とっておき』を届けてやる!」


誰よりも高貴な騎士たちがいた。


「――……うん!」


彼らは、私に届けてくれる。
初めての曲を、初めてのライブを、彼ら自身の全てを。





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