アイドル科の王さまと普通科の娘 | ナノ

アイドル科の王さまと普通科の

Act.53  初めてのライブをお届けください

この3連休は実にあっという間だった。
私はご飯作ったり、タオルや衣類を洗濯したり、水やスポドリを渡したり。
その程度しかできはしなかったけれど、何となく彼らと一緒に居られていることに喜びを覚えていた。
『Knights』という『ユニット』そのものについて知らなかったからこそ、彼らとの交流は感慨深いものだ。
特に凛月さんや司くんと仲良くなれたのは、かなり大きな収穫なのではないだろうか。


「へぇ、今練習してるの新曲なんだ。」
「そ。この間、俺たちのとこにそういう依頼がきたの。」
「レオが作った曲で?」
「そうなるねぇ。」
「あの人の作曲の才能は認めざるをえません。」


昼食終わりの休憩時間で、ちょうど凛月さんと司くんとお話タイムに入った。
どうやら外部から『Knights』宛てにユニットソングの依頼が来たらしい。
今回の合宿では、この新曲を中心に練習をしているとか何とか。
それにしても依頼が来てものの数日で曲を書き上げるレオは、本当の意味で天才だ。


「今回の曲、結構好きなんだよねぇ。」
「あ、それ分かります。」
「そんな?」
「はい。私だけかもしれないですが、とても心に浸透してくる温かい曲なんです。」


そういう司くんの表情は、どことなく穏やかだ。
思わずこちらの心もそうなってしまうほど、漂う空気が温かい。


「いつ発売?」
「まだそこまでは。収録が順調にいけば、そうかからないと思います。」
「そっかそっか、楽しみにしてるね。」
「はいっ!」


せっかくだから、全員のサイン貰っちゃおう。
きっと一生涯の宝物になると思うし、将来を見据えたら激レアものになりそうだ。


「その前に次の単独ライブでお披露目か。」
「2曲もあれば、きっと観客の皆様も喜んでくださりますね。」
「なんたって一番初めに聞ける場があのライブだしねぇ。」
「へぇ、そういうものなんだ。」


じゃあライブに通っている人たちは、他の人よりも新曲を先に耳にしているってことなんだ。
まったくもって、そういうことは良く分からないから、初耳だ。


「え、お姉さまご存じなかったのですか……?」
「うん。」


意外だと言わんばかりの司くんの表情に、些か申し訳なさを覚える。
けれど事実だし、すんなりと頷くと、彼は小首を傾げた。


「今までの『Knights』のライブでもそうやってきていると、先輩方から耳にしておりましたが……。」
「あぁ〜、そうだけどぉ。ナマエは例外だよねぇ?」
「え? ああ、はい。そうですねぇ。」


気だるげに伏せられた瞼から覗く深紅には慣れそうにない。
というか、名前で呼ばれるとは思わなくて少しびっくりした。


「と言いますと?」
「だってナマエ、あの【デュエル】が初めてのライブだしぃ。」
「そうだったのですか!?」
「デュエル? ……えっと、この間のやつだよね。そう、あれ初めて。」


ジャッジメント、じゃなかったけ?
なに。デュエルの類義語? 専門用語なの?
勉強したほうがいいのだろうか……。


「で、では今の今までは一度も?」
「ごめん。」
「あっ、いえそういう意味でいったのでは……少々、意外でしたので。」
「そう?」
「はい。」


司くんは表情豊かだ。
嫌そうな顔したり、不思議そうな顔をしたり、喜んだり驚いたりと鮮やか過ぎる。


「Leaderや瀬名先輩たちと交流が深い様子でしたので、1年生のころからライブに参加して頂いていたのだと思っておりました。」
「あぁ……。」


まあ、そう思われても仕方がないのだろうか?


「行きたかったんだけどね。」
「え?」
「レオが、見に来てほしくなかったみたい。」
「Leaderが、ですか……?」
「これだけ聴くと、意外でしょ?」


凛月さんはくすりと声に出して笑う。


「あの頃はライブやっても、決して自由じゃなかったからねぇ……いくら開放的に披露したところで結局、囲われた檻の中での足掻きだったんだよねぇ。」
「檻の中での、足掻き……。」
「そんな拘束された空間に呼びたくなかったんだろうし、見られたくもなかったんだと思うよぉ。」


余裕だってなかったしねぇ。
凛月さんの言葉が、なんだか重くのしかかる。
自由、だなんて単語を何度聞いたことだろう……。


「だからね、【ジャッジメント】が初めて彼が私を招いてくれた、私にとって初めてのライブだったの。」
「あれが……ですか。」


司くんの表情は決して明るくはない。


「彼は、あれを私に見せる最初で最後のステージにするつもりだったと思う。」


――「『Knights』はおまえらのもんだよ、あとは好きにしろ。」


彼の言葉が脳裏で流れる。
あの時の表情を、決して忘れはしない。
決して。


「……、」
「だから、私は『ありがとう』を送ったの。」
「え?」
「司くんが彼を退き止め、受け入れてくれたから。」
「お姉さま……。」
「きっと司くんのあの言葉が無かったら、私はこうして皆と喋れてもいないし、一生『Knights』のライブは見られなかったからさ。」


放置していたグラスから、からんと音がする。
釣られて手元を見ると、大きかった氷が溶けて形を崩していた。


「司くん。」
「はい。」
「本当に、ありがとう。」
「……とんでもないです。ですが、受け取らせて頂きます、その言葉を。」
「うん。」


かけられた時計に視線を移す。
そろそろ、レッスンの再開時間だ。


「ある意味で、次の単独ライブが初なんだよねぇ。」
「そうなりますね。この話を聴いてしまった以上、この朱桜司、懸命に次のライブに望ませていただきます。」
「そうそぉ、前の合同ライブが俺たちの実力だと思われるのも困るし、ちょっとだけ頑張ってみようかなぁ?」
「すっごく、楽しみにしてる!」
「お任せください、お姉さま。」
「期待しててねぇ〜♪」





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