アイドル科の王さまと普通科の娘 | ナノ

アイドル科の王さまと普通科の

Act.51  夜の住人は静かにほくそ笑む

ふと目が開いた。
眠りにつく時も、目が醒める時も、いつだって唐突だ。
慣れない布団、慣れない香りに包まれながら、暗闇の中視線を動かした。
温かさを惜しみつつ毛布の中から手を取り出して時間を確認する。
時刻は深夜だ。3の数字が眩しく映った。

普段ならこのまま、まだ寝れると瞼を閉じるところだけれど、どうにも口が枯渇を訴える。
残念ながら部屋に飲み物は置いていないので、渋々立ち上がって部屋を出た。

静かで暗い廊下に恐怖が湧かないといえば嘘になるが、下手に音を出して皆を起こしてしまった後の方が怖いので我慢をする。
きっと、瀬名さんが一番怒るのだろう。それも冷めた瞳でこちらを見下ろしながら。
……そういえば、昼間、彼は何を伝えたかったのだろうか。


「……っひ、」


途端、身体が飛び跳ねる。
誰もいないと思っていたリビングに、何かが確かにいる。
黒い塊がぬめりと動いて、思わず後ずさりをしてしまった。


「……すっごい声。」
「…………、」


黒い塊から、聞き覚えのある声が聞こえる。


「起きてる〜?」
「お、起きてる……。」
「そ。ならいいけど、こんな時間になに?」
「いや、それ、こっちのセリフ……。」


髪まで黒いから、尚更分からなかったが、声の主は凛月さんだった。
本当に、ビックリした……。


「電気付けましょうよ。」


皆を気遣ってくれたのかもしれないが、暗闇の中で灯りが無いのはつらいだろう。
手を壁に当ててスイッチを探るとそれはすぐに見つかった。
パチッという音と共に暗闇から解放される。


「別にいいのに。」
「いや、見えないでしょう。というか、こんな時間にどうしたんですか?」
「こんな時間だから起きてるの。」
「?」


もしかして凛月さん、夜型?
それにしては随分とまあ遅くまで……。


「明日、体持ちませんよ。」
「ん〜朝がねぇ、辛いんだよねぇ。代わりに出て?」
「いやいや。」


こてん、と首を傾けられても断りしか返せない。
それにしても今の可愛く映えたなぁ。


「え〜……ダメなの?」
「ダメですねぇ。というか無理ですねぇ。」
「残念♪」
「――そうに見えないのは私だけでしょうか。」
「うんっ。」


元気に頷く姿は、昼間とは大違いだ。


「凛月さん、思いきり夜型なんですね。」
「ん〜?」
「だって、夜の方が元気じゃないですか。」
「そうだよ、だって俺、吸血鬼だから♪」


……。
……そういう設定?


「設定とかじゃないんだけど、ん〜説明するのも面倒なんだよねぇ。」
「はぁ……、」


王さまにモデルの騎士2人に、御曹司の騎士、吸血鬼の騎士って。
ラインナップが凄すぎる。どこのRPG。


「血、吸わせてくれるなら証明できるけど。」
「謹んでお断りさせて頂きます。」
「ふふ、残念……♪」


凛月さん、凄く楽しそうだ。
夕暮れ時の時点では酷く汗まみれで疲労感いっぱいだったのに。


「夜型なのは分かりますけど、早めに休まないと本当に朝辛いですよ? ただでさえ苦手そうですし。」
「そうなんだよねぇ。【ジャッジメント】に向けて日中へ対応できるようになってはいるけど……。」


やっぱり眠いし。
そう呟きながら、彼は欠伸を1つ。


「あんたは早起き、得意?」
「凛月さんよりは遥かに。」


得意というほどではないけれど、比較をすれば得意にならざるを得ない。
頷きながら言葉を返すと、凛月さんは満足そうに微笑んだ。


「じゃあ、明日起こしに来て。」
「え?」
「よろしく。」
「ちょ……!」


早朝とはいえ、単身、男子の部屋に入れと!


「あ、そうそう。」


階段に一歩足を乗せながら、凛月さんは振り向く。
これがなんとなく、あの時の瀬名さんを思い出させた。


「きっとね、セッちゃんはあんたのこと嫌いじゃないよ。」
「はい?」
「良かったねぇ。俺も嫌いじゃないから、安心して。」


それだけを告げて、凛月さんは手を振りながら自室へと戻っていった。


「……セッちゃんっていうのは、」


瀬名さんのこと、だよね?






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