アイドル科の王さまと普通科の娘 | ナノ

アイドル科の王さまと普通科の

Act.50  以心伝心にはまだ程遠く

軽やかなテンポが規則正しく流れる。
それは外から。
少しだけ不器用な、乱れたテンポが寂しく響く。
それは、手元から。

合宿2日目も問題なく終わりを迎えそうだ。
昼間に一度、司くんが「海で合宿といえば、watermelonを割るというのが庶民の遊戯であるとか……!」と目を輝かせてはいたが、


「あれって、人を疑えってことしか学べないよねぇ。」
「リッツの気合割りは見事だったな、わはは☆」
「ほんっと、あの時はマジでキレそうになったんですけどぉ。あんなの一生やらないし。」


などという、一体何があったのかと疑ってしまうほどの彼らの言葉で、却下の判決が下された。
これからスイカを買いに行くのも面倒だったから、司くんには悪いけれど助かった。
ところで。
庶民の遊戯って言葉が出てくる時点で、司くん庶民じゃない説浮上しているんだけど。

賑やかで明るい昼食も終えて、彼らは再びレッスンに励む。
今日は外から音楽が聞こえるから、きっと皆で一緒にダンスか歌の練習でもしているのだろう。
この間にできることと言えば洗濯や夕食作りなので、これに励んでいる。


「わはははは! いいぞ、もっと高く飛べ! そうだっ空を掴むような気持ちで羽ばたけ!!」
「王さま元気だねぇ〜。」
「おいおまえ! 躊躇は人の思考を妨害するだけの壁だ。そんなものはさっさと取っ払ってもっと自由に、鋭く自分自身を表現して魅せろ!!」
「んなっ、な、何をするのですかLeader……!」
「あらまァ。司くんってば水に濡れちゃって、更に可愛くになったわねェ♪」
「あつい、うざい。」


……。
随分と、にぎやかだ。

けれどこれを心地よく思っている自分がいる。
レオが傍にいる。レオの声が聞こえて、彼が輝いている表情が目に浮かぶ。
良かったと、還って来てくれて本当に良かったと、嬉しさは噛み締めるけれど、溢れてしまいそうだ。


「ちょっと、あんた……。」
「はい? って、瀬名さん?」


先程まで外にいたんじゃ。
そう思いつつ、手を洗って向き合うと、彼は綺麗な顔を歪めていた。


「水。」
「……あ、はい。」


彼の額には汗がびっしょりで、薄く開いた唇からは乱れた呼吸がされている。
すぐに洗いたてのカップに水を入れて、瀬名さんに差し出すと彼は一気に飲み干した。
それを見届けて、事前に用意していたタオルを手にする。


「っはぁ……、あー疲れた。」
「タオルどうぞ。」
「へぇ? 気がきくじゃん。」


口元をあげてタオルを受け取ってくれた。


「あっつい。」
「夕暮れ時なのに昼間のような気温ですね。」
「そのくせウチの連中元気すぎて、ついてけないわ。」
「瀬名さん、もしかして暑いの苦手なんですか?」
「なあに、だったら悪いわけぇ?」
「とんでもない。」


出会い当初、まるで猫だと思ったのは間違いではないらしい。
瀬名さんは更に深々と息と吐いて、タオルを首もとにかけた。
そして高い位置から、コチラを不機嫌そうに見下ろしてくる。


「てかあんたさぁ、何それ?」
「……それとは?」


指示語で言われても分からない。
エプロンが変? ……ではないと思う。極々一般的なやつだ。
それとも、顔に何かついている? ……いや、何もついていない。
一応顔を下に向けて全身を確認しても、問題はない。


「何か、おかしいですか?」
「おかしいっていうか、うざい。」
「うざい……。」
「それも、チョ〜うざい。」
「……チョ〜ですか。」


彼の怒りを買うようなことを、はてしただろうか。
ただの普通科の一般人が出しゃばって合宿に参加するなということ?
でも、それならあの時に反論をしていたはずだから、多分違うと思う。


「はたして何がチョ〜うざいのか、見当がつかないんですが。」
「はぁ?」
「えぇ……。」


マジでわかんないわけ? うざっ。
とか思われていそうだ。いや、きっとそう思っているに違いない。
瀬名さんの表情が信じられないとばかりに歪んでいる。
というか、歪んでいても良く映えるってどうなの。


「……はぁぁ、もういい。」
「えぇ……?」
「練習戻る。」
「はぁ、」


なんとも、消化しきれない終わり方。
瀬名さんはタオルをかけたままドアノブに手を置くと、何を思ったのか顔だけをこちらに向けた。


「どうせ暇してんだったら、水持ってくるとかしたらぁ?」
「あぁ、そうですね。暇ではないですけど。」
「最後余計。なんで俺がこんなことわざわざ。」


はぁ、と聞かせる用とばかりに最後、大きなため息を頂いた。






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