アイドル科の王さまと普通科の娘 | ナノ

アイドル科の王さまと普通科の

Act.48  収穫は高貴な椅子を持つものが得る

高く、強く、箸を置いた音が耳に届く。
思わず私はそちらを見てしまったし、英智さんの口からも先の言葉は紡がれなかった。


「…………。」
「やだ、どうしちゃったの?」
「ちょっとぉ、静かに食べられないわけ?」


音をたてたのは、意外にも司くんだった。
てっきりレオがまた不機嫌になってしまったのではと焦った心はなんだったのか。
そんなレオは箸を口にくわえながら目をぱちくりとさせている様子だ。


「……申し訳ありません。」


静かに、低い声で謝罪が紡がれる。
これには私も戸惑う。
目の前の席でかくんかくんと眠りに入りそうな凛月さんが凄い。


「……大丈夫? 具合、悪い?」
「そんなことは……。いえ、やはり少々。」
「具合悪いなら、早めに休まないと。まだ合宿始まったばかりだから、ね?」
「……そうですね。せっかくお姉さまが作ってくださったのに料理も味わえず、空気を壊してしまい申し訳ありません。」
「ううん、気にしてないから。明日元気な挨拶聞ければ十分。」
「至極光栄です、感謝いたします。」


司くん、顔色良くないもの。
出会って全く経ってこそいないけれど、穏やかな表情が多かったから、今みたいに苦虫潰したような顔は辛そうだ。
私に具合悪いかと聞いてくれた司くんが、まさにそうだとは。
気遣いが足りなかったかな……。


「部屋まで1人で行ける?」
「はい。お気遣い痛み入ります。それでは皆様、若輩者が先に失礼することをお許しください。」
「はいはい、具合悪いから調子でません〜なんて言い訳聞きたくないからねぇ。」
「分かっております。」
「おやすみなさァい、司ちゃん。」
「おやすみ〜。」
「ありがとうございます、鳴上先輩、凛月先輩。」


司くんが席を立ちあがると、ちらりとレオを一瞥した。
彼は箸を咥えたままぼーっと司くんを凝視していた。
これに対して、司くんは何も言わずに優雅な一礼を見せて、部屋へと戻った。


「……。」
「……。」
「……。」


誰も口を開かない。
え、なんで?


「……大丈夫かな。」


さすがにどこか気まずくて、そう口を開く。
と、予想通りナルちゃんが反応を示してくれた。


「ウフフ、大丈夫よ〜きっと明日には治っているわ。」
「かさくん単純すぎぃ。」
「思わぬ収穫で驚いたな……ふふっ、」
「え? ん?」


皆、司くんの心配はしていないらしい。
それどころかナルちゃんは楽しそうだし、瀬名さんはいつも通り面倒そうに吐き捨てるし、英智さんもどこか好奇心を抑えられないような声色だ。


「……ふぁ、ぁ……俺も寝ようかなぁ。」
「リッツ、もういいのか? 大きくなれないぞ。」
「うん。『王さま』にあげるよ〜。」
「そっかそっか! じゃあ、ありがたくもらうなっ!」


一方で、凛月さんとレオは普段通り過ぎて……。
ちょっとついていけない。


「……。」
「フフッ、ナマエちゃんは優しいのねェ。でも本当に大丈夫よ。」
「……ナルちゃんが言うなら。」
「そうそう♪ せっかく一緒に作った料理だもの、美味しく食べましょ!」
「うん、そうだね。」


きっと明日には良くなっている。
その時に明るい「おはようございます」が聞ければいいや。

ナルちゃんの言葉に素直に頷いて、箸を進めた。
そこからは、時折会話が行われつつも静かな食事だった。
けれど苦ではなくて、大勢で食べるからこそ一層食事を美味しく感じる。
ナルちゃんが作ってくれたスープが激ウマ。

さすがに食後の片付けまでナルちゃんに頼るわけにはいかない。
これだけは自分にやらせてほしいと譲ってもらって、食器を片づけた。
すべてが終わるとほっと一息。


「お疲れ様、ナマエさん。」
「とんでもない。」
「ご馳走様、美味しかったよ。」
「ナルちゃんのお蔭だから。」
「そう、随分と謙虚なんだね君は。」


英智さんが柔らかな笑みを携えてくれる。


「さて、僕はこれでお暇しようかな。」
「やっと帰るんだ。お金置いてってくれてもいいけどぉ。」
「はは。考えておくよ。」


瀬名さんは厄介払いがやっとできたと本人の目の前で大きな溜め息を吐く。
こういう姿勢、凄い。ちょっと尊敬する……。


「ナマエさん、ぜひまた会おう。」
「あ、うん。」
「月永くん、合宿の成果を期待しているよ。」
「相変わらず上からだな〜。むかつくけど、その期待の上に行ってやるから首洗って待ってろ、わはは……☆」


レオも、もう普段通りだ。良かった。


「ふふ、それは嬉しいな。君の面白い一面も見れたし、今日だけでも期待以上だよ。」
「それは良かった良かった! 帰りは気をつけろよ、いつUFOにアブダクションされるか分からないからなっ。その時はうっちゅ〜☆ だぞ!」
「ありがとう。それじゃ、失礼するよ。」
「あ、気を付けて。」
「ナマエさんも、ありがとう。」


英智さん、何故扉の開け閉めだけでそんな優雅に映るんだ。
閉じられた扉の音とともに、再度、瀬名さんの重々しいため息が響いた。





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