アイドル科の王さまと普通科の娘 | ナノ

アイドル科の王さまと普通科の

Act.41  更なる高みはまだ雲の上

いくらアイドルと言えども、まだ業界の門を叩いてすらいない者が多い。
彼らもまた、その中の人間に過ぎない。

学院に着いてから、業者の方と共に持ち出していた器材を下ろしたり、衣装を運んだりと忙しそうだった。
私たちが到着する前に、同じトラックとすれ違ったことから他の『ユニット』はもう片付けを終えたのだろう。
手伝おうと身を乗り出したが、ナルちゃんと司くんを筆頭に見事に遠慮され、門の外でぼーっと待ちぼうけである。

彼らがすべての仕事を終えて出てきたのは20分後だっただろうか。
予想よりも速かった。


「あ〜ダルかったぁ。」
「もう泉ちゃんったら。おじいちゃんみたいよォ?」
「オカマのくせに働かなさすぎ!」
「そうかしら? だって、凛月ちゃんがオネムなんだものォ。運ぶ人必要でしょォ〜?」
「くまくんもこーゆー時ぐらい、起きててよねぇ。」
「ん、ぅ……今日は朝から起きてたから、眠たいんだよねぇ……。」
「こっちだって眠いってばぁ!」


そんな、やりとりをしながら。


「大変お待たせしてしまい、申し訳ありませんお姉さま。」
「ううん、大丈夫。お疲れ様です。」
「ありがとうございます。」


司くんは懐っこい性格なのか、それともただ非常に礼儀正しいのか。
真っ先にこっちに駆け寄ってきてくれた。


「んじゃ、片付けも終わったことだし俺帰るからぁ。」
「アタシも! 早く汗を流したいわ。」
「……んぅ…ふぁ、ぁ……♪」


これは勝手なイメージだけれど……。
まだ高校生だ。ライブへの参加も1つの大きなイベント行事。
だから、終わった後に「お疲れ様でした会」のようなものをやると思っていた。


「解散?」
「そうだけどぉ、何? 文句あるわけぇ?」
「いえいえ、とんでもない。」


瀬名さんが疲れたように息を吐いて、首元に手を当てた。
そしてそのままいち早く踵を返し、一歩足を前に出すと――


「まぁ待て!」
「はぁ?」
「あらん、何かしら『王さま』。」


引き留めたのはにこにこ顔の彼で。


「ナマエの前であまり言いたくないが、」
「ん?」
「今日のステージは酷かった!!」
「はぁ?」
「えっ、」
「…ん、むぅ…?」
「り、Leader!? 何を突然……!」


彼の表情が一変して、真面目な顔になる。
鋭く挑戦的で野心を秘めたような瞳が『Knights』のメンバーを映す。


「特におまえだ、おまえ!」
「わ、私ですか……!」


彼が厳しく射止めたのは、『Knights』一年生の司くん。


「一見、おれらと息が合っているように見えて全く合ってなかったぞ。ワンテンポもツーテンポも遅れている。なんだ、おまえは引っ付いてくるアヒルか? ってくらいにだ!」
「うぐっ……!」
「口と体だけ動かせばいいってものじゃない。その指先も、足先も、自分の身体を自由に操りきれていないのがバレバレだ。っていうか、そもそもの個人技が未熟すぎる! 一度も研いだことのないボロボロの使えもしない刃のようだ!」
「まぁそれ、今更だけどぉ。」
「瀬名先輩までっ!」
「このままじゃ、おれの還ってきた『Knights』はまだまだ輝けない! 煌びやかに、紳士的に振る舞えないまま衰退の道を辿って行く一方になってしまう……!」


彼は音楽に対して、誰よりも真摯な眼差しを向けていると、そう思っている。
だからこそ言葉は厳しく、直接的だ。

司くんもきっと自分の至らなさは重々理解しているのだろう。
それを彼に指摘されたのが悔しいのか、何なのか。
司くんは端正な顔立ちを歪めて、拳を握りしめていた。

その様子を見て、彼はふっと笑みを零す。
腰に手を当てて、普段通りの笑顔で――


「合宿するぞ!!」





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