アイドル科の王さまと普通科の娘 | ナノ

アイドル科の王さまと普通科の

Act.40  帯びて伝搬するこの熱を冷やせ

「わはははは☆ 誘拐か? アブダクションされたのか? おまえは誰だ? 変わってないな? おれのことわかるかっナマエ!!」
「誘拐に近い連行かな。大丈夫、レオのこと分かるから。てか顔近い。」
「そっかそっか〜良かった良かった! ナマエがおれのことに認識できなくなんてなったら、ちょっと宇宙人と話し合わないといけないからなっ! おかえり、ナマエ!」
「えーっと……ただいま?」
「ん!」


どうしてこうなった。
と、思わず言ってしまいたくなる。


「レオ、」
「んぁ?」
「顔、近い。」
「そうか?」
「そう。」


ぐいっと近づけられた端正な顔立ちに、どうしても頬が熱くなってしまう。
きっと後部座席に座っている彼らにも、前方の座席に座っている彼らにも、同じことをされたら同じ反応になってしまうと自信がある。


「ちょっとぉ、うるさいんだけど〜。てかなんで普通に居るの。」
「私に言われても……。」
「ウフフっ、まさか司ちゃんと凛月ちゃんが、ナマエちゃんと一緒にいるだなんて思わないじゃなァい?」


「だからちょっと連れてきちゃった♪」
だなんてノリノリで、楽しそうに嬉しそうに言われたら何も言えない。
ただただ近づいてくる橙色を押しのけて、小さく息を吐いた。


「まさか、貴女が皆様の仰っていた『ナマエ』さんだなんて……。」


そして朱桜さんにも、名前だけ知られているという事実が嬉しいような、悲しいような。
一体全体『Knights』で『ナマエ』とはどういう意味をなすのか。
全ては、彼繋がりなのだろうが――。


「やっぱり、あんたがナマエだったんだ。『王さま』がしつこいから名前覚えてたんだぁ……♪」
「なんかごめんなさい。」


後部座席から聞こえるのほほんとした声の主は、朔間凛月という名前らしい。
【ジャッジメント】の際、会場案内(というか一応護衛?)してくれた零さんの弟さんとかで。
思い出せば既視感も何も、そっくりな外見をしている。さすが兄弟。
とは言え、凛月さんは零さんを何やら毛嫌いしている様子だけれど。


「私も、皆さまからお伺いしておりました。以前も行方を眩ましたLeaderを捕獲して下さったのがナマエお姉さまだと。この朱桜司、心より感謝いたします……!」
「う、うん。気にしないで、朱桜さん。」
「どうか私のことは司と、そうお呼びくださいませ!」
「あ、はい。」


捕獲って……、以前、彼がベンチで寝こけた日のことだろう。
あの時は本当に30分きっかりにナルちゃんと瀬名さんがやってきて、彼は2人に引き摺られてた――。


「待て、どこへ連れて行くんだ! 誘拐か! おれの名曲を遂に待ちきれなくなったのか!」
「じゅ〜ぶん待ったよ。」
「そうよォ? だからきちんと約束通りこの時間に来たんじゃないっ♪」
「何だ何だっ秘密の暗号か? おまえたちも交信できるようになったのかっ! やったな! うっちゅ〜☆」
「も〜うざぁい! 寝ててくれた方が楽なんですけどぉ。」
「ちょっと『王さま』、しっかり歩いてちょうだァい。」
「おおお引き摺られていく……!」


――そう、こんな感じだった気がする。
あの時に察した。彼があのように引き摺られるのは日常茶飯事なのだと。


「ふふっ、司ちゃんってばすっかりナマエちゃんに夢中ね♪」
「こ、これはお姉さまがとてもしっかりした方でいらっしゃるからで……!」
「はいはい、分かったわよォ。」
「鳴上先輩っ!」
「ウフフ、熱くなっちゃって可愛いんだからァ!」
「あ〜も〜チョ〜うざぁい! ライブ後で疲れてるんだから煩くしないでよねぇ?」
「ふぁ、ぁ……ついたら起こしてねぇ……♪」
「あ、凛月先輩、寝ないでください! もう少しで着くんですから!!」
「……ん、ぅ……♪」
「あらあらっ、凛月ちゃんってば本当に眠りにつくのが早いんだからァ♪」
「だからうざいってばぁ!」
「わはは☆ おまえたちは本当に面白いなっ! 愛してるぞっ!」


……バスの中が、凄く混沌としている。
アイドルのONとOFFの姿を目の当たりにしている気分だ。


「ねえ、なんで私ここにいるの?」


凛月さんが私の名前を呼び当てる直前でナルちゃんがやってきて、そのまま連行され、何故か流れで帰りのバスに同行。


「ん〜、……なんでだろうなっ!」
「だよね。」


それがちょっと嬉しく感じるのは、彼が凄く清々しそうな表情をしていること。
楽しそうな彼の顔は、私の心をも簡単に弾ませてくれる。


「ま、いんだけど。」
「ナマエ、今日はどうだった?」
「サイコー。」
「そっか!」


触れ合った肩が、じわじわと熱くなる。
それが心地良くて口元が緩むのを誤魔化すように、そっと口元に手を当てて欠伸のふりをした。





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