仕えるべき『王』が帰還した『Knights』は、更なる進化を遂げつつある。
――そう、学院が発行している記事が取り上げていた。
カメラ越しに映る彼らの、彼の姿はまさにどこか貫禄がある。
まだまだそんな歳でも何でもないはずなのに。
熱気溢れる会場を後にすると、肺いっぱいに新鮮な酸素が入ってきた。
あんなに熱く、優雅に、それでいて力強いライブに、まだ心臓がバクバク高鳴っている。
そもそもライブ自体が初めての自分には、予想以上の盛り上がりだった。
午後の部に出演した『Knights』は特に。
たった1曲、されど1曲。
彼らの歌い、踊り、喋るその姿はまさにアイドルそのものだ。
眩いばかりのステージで、彼らは本当に美しく輝いていた。
この胸のドキドキをどうやって静めようか。
「――お待ちください!」
熱気を帯びながら会場を後にしようとすると、ふと声がかけられた。
自分に向いた言葉なのかすら分からないのに自然と足が止まってしまう。
「あれ。」
踵を返すと、本日の主役の1人が息を切らしながら駆け寄ってきた。
幸い、周囲に人影はいない。
「もしやと思っておりましたが、来てくださっていたのですね。」
「いいの? アイドルがたかが観客1人に声かけて。」
「本当に、たかが観客なのでしょうか?」
ステージでは凛々しく、どこか色っぽく映った彼の瞳は、今は幼子のようだ。
好奇心を抑えられない欲が見えるそれに、思わず彼の姿を重ねた。
「貴女に問われた言葉を私は返しました。どうかお姉さま、次はこの私の質問にお答え願えないでしょうか?」
「……なあに?」
どうしてこうも、アイドル科の人たちは美しいのだろう。
顔の造形だけじゃない。心が、綺麗だ。
「お時間を頂けるのですね。感謝いたします。」
優雅にお辞儀をする姿は、演技なのか。
「お姉さま。お姉さまは、我らがLeaderをご存じなのですか。」
「……うん。」
「まるであの時のお姉さまは、Leaderの身を酷く案じて居られるようでした。何故あの時、私に『ありがとう』などと仰って下さったのですか?」
胸元に手を当て、小首を傾げる姿も素人目からですら見事だ。
まるで日頃から行っているかのような動作で、見惚れてしまう。
「お姉さま?」
「ああ、ごめん。」
思わずぼうっとしてしまった。
「ねえ、まず自己紹介しましょ。」
「!、そうですね。確かに私は貴女のことをまったく存じませんし……。」
私も、彼の名前をきちんとした形では知らないから。
「ご無礼をお許しください、お姉さま。私は『Knights』に所属しております、朱桜司と申します。以後、お見知りおきを。」
優雅な振る舞いは、もしや貴族?
私の中のキャッキフレーズはこれでいこう。
「ん。私は、」
「ちょっとー、ス〜ちゃ〜ん?」
「この声は……!」
こちらを遮るように、のんびりとした声が被さってきた。
朱桜さんがこれに反応し後ろを振り向くと、私にも相手の姿が見える。
「凛月先輩!」
「何してるの? もう皆着替え終わって後はス〜ちゃん待ちなんだけどぉ……。」
「それは大変申し訳ありません。少々、私用が御座いまして。」
「私用? それ、今じゃないとできないの?」
「え、ええ……まあ。」
ス〜ちゃんと呼ばれた朱桜さんの瞳が、こちらへと向く。
これを辿るようにして、凛月さんの視線もこちらへと移った。
深紅の瞳と目が合い、思わず瞬きを数回してしまう。
それにしても、黒髪に赤目とは、どうにも既視感が……。
「あれぇ?」
「先輩?」
「?」
その赤に見つめられると、こてんと凛月さんは首を傾げた。
「前に兄者と一緒にいた人だぁ……♪」
「兄者?」
「え、そうなのですか?」
いや、きかれても兄者が誰なのか……。
…………あれ、やっぱり既視感。どうにもどこかで見たことがある。
記憶を辿っていると、凛月さんは目を細めてほくそ笑んだ。
「あんな戦場に兄者が連れてたから、気になってたんだぁ♪」
「凛月先輩は、こちらのお姉さまをご存じで?」
「しらなぁい。……でも、想像はつくかも。」
「あらま。」
「あれでしょう? あんたが――、」