アイドル科の王さまと普通科の娘 | ナノ

アイドル科の王さまと普通科の

Act.38  時間が許す限りのティータイム

「『Knights特別臨時マネージャー』? なァにそれェ?」
「しらな〜い。どーせあいつの考えることなんて分からないしぃ。」
「だよね、知らないよね。」


ナルちゃんを呼んだつもりが、何故か瀬名さんも来た。


「ちょっと、なぁに? 見ないで気持ち悪い。」
「えぇー……。」


しかもツンツンしている。
少しばかり対応に困っていると、ナルちゃんがくすくすと可愛らしく笑った。


「もう、泉ちゃんってば。せっかくナマエちゃんと久々に会えたのにそんなツンケンしちゃダメじゃなァい!」
「別に会いたくもなかったしぃ〜。」
「そんなこと言っちゃって! ナマエちゃんと会うこと知った途端、着いてきたのどこの誰だったかしらァ?」
「ナルくんうざ〜い! 黙っててくんない?」
「ふふっ。」


……どうやら、彼は会いに来てくれたらしい。自分から。


「あんた、なんともないわけぇ?」
「はい?」
「急に戻ってきて、どうせろくな再会もしなかったでしょ。」


あぁ、瀬名さんは分かっていらっしゃる。
その言葉を受けて、脳裏には彼がやっと戻ってきた日が浮かんだ。

あの日。
地面には、懐かしい五線譜が描かれていた。
それを辿って思わず走ったら、遠いところに橙色がぽつんと。
こちらに気付いた翡翠が私の姿を捕らえると、彼は初めて会ったときのような笑顔で「ナマエっ!!」と――

そして……


「遅いぞ!!!」
「っきゃ!」
「ちょっ、なぁに!?」
「……って言われた。」
「はぁ!?」
「えっと……それは、ウチの『王さま』にかしら?」
「そう。」


目の前で端正な顔が歪んでいるのを、是非彼に見せてあげたい。
いや、むしろファンの人たちにも見ていただきたい。
……レアな表情をなさっている。


「信じらんない!」
「さすが『王さま』と言うべきなのかしら。」


2人揃って、重々しいため息を吐いた。


「てかあんた、よくあんな社会不適合者と一緒にいられるよねぇ。」
「元はそうじゃなかったし。」
「でも、思考回路掴めなかったでしょ。」
「まあ。」


そこは否めない。


「なァに? 『王さま』の昔話?」
「そうそう、昔は真面目だったって話。」
「誰よりも瞳がキラキラ輝いてて、綺麗だったって話。」
「んまぁ!」


だからと言って、今の彼を否定する気は全くないのだけど。


「あの時ほどじゃないけど、今の瞳も悪くない。」
「そ〜お? あんな壊滅的な性格よりも、前の方がよっぽどマシだけどぉ。」
「ふふっ、2人とも『王さま』のこと好きなのね!」
「誰があんなやつ。」
「瀬名さんは素直じゃない。」
「はぁ? ちょっとぉ、ケンカ売ってんの〜?」


不機嫌そうに、ぎらつく目を向けられる。
けれどそこに恐怖は感じなくて、それよりもふわふわそうな銀髪に触れたいと感じた。
それは関係ない?


「ところで、話し戻るけど『特別臨時マネージャー』って何なわけ?」
「さぁ? ナルちゃんとかなら知ってるかなって思って。」
「知らないわねェ。何かするのかしら?」


瀬名さんも知らないのでは、完全に彼の独断なのだろう。
本当に、大丈夫なのかなぁ……気まぐれで発しただけならいいけれど。


「そうだっ、明後日ライブに参加するの! 午後に1曲だけの出番なんだけど、良かったら来ない?」
「行く行く。」
「俺たちの姿しっかり焼き付けときなよぉ?」
「任せて!」
「ふふっ、頑張らなくっちゃ♪」





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