アイドル科の王さまと普通科の娘 | ナノ

アイドル科の王さまと普通科の

Act.3  朝陽の笑顔と夕陽の輝き


高校受験は、人生にある壁の1つだ。
などと中学時代に教鞭を執っていた先生が言っていた。

クラスメイトも、志望校に受かるために必死に勉強していた。
将来は何になりたいとか。得意な分野を極めたいとか。いろいろ考えて。
部活が強いからとか。制服が可愛いからとか。さまざまな理由を持って。
皆がみんな、常にペンを握っていた。

そんな中で自分がこの学院を志望したのは他でもない。
家から近かったから。それだけだ。


「あ、しくじった。」


それなりの偏差値なので、勉学を怠ってはいない。
だからといって躍起になって机に向かったわけでもない。
落ちない程度に、それなりに勉強していただけだ。

そして、この学院に入学してからも、常に平均であり続けた。
点数が低いと馬鹿だと簡単な言葉で貶されてしまうし、逆に高いと高いで下手に着飾った言葉で褒められるか、遠目で見られるかだろう。
なんて生き辛い世の中なのかとどこか達観している自分は、平均で十分。


「……平均ラインか。」


多少、試験でしくじっても大して気にしない。
一瞬だけマズイと思って、すぐにテスト用紙は机の隅で永遠に眠るのだ。


「ねむ。」


学院にもそれなりに慣れ始めていた1年の頃だ――。


「ん?」
「ふぁ、ぁ……。」


いつもより早めに家を出たのは、朝方に親からしつこく早く帰って来いと言われたからだ。
はて、今日は一体何かあっただろうかと欠伸を噛み締めながら歩いていた。


「おーい、何か落としたぞ。」
「はいな?」
「コレ、おまえのだろ?」


ホラッ!
と、朝陽よりも輝かしい笑顔を向けられた。


「……どうも。」


誰だ。
そんなことを脳が発信する。


「こんな朝早くから登校か? 偉いな!」
「はぁ、」
「普通科のヤツだろ? 何かあんのか。」


大きく開かれた瞳は、高校受験に合格して輝いていた友人の瞳と似ていた。
けれど大きく異なるのは、今目の前にいる彼の方があまりにもその瞳が透き通っていたことだ。


「特に何も。」
「そうか。急いでいるようにも見えないし、そうだよな!」


本当は一時間目から試験あるけど。


「引き留めて悪かったな。」
「こちらこそ、拾ってくれてありがとうございます。」
「ん! 今度からは気をつけろよ。いつ背後の人間が拾って盗むかも分からないしな!」
「はぁ、鈴でも付けときます。」
「鈴か! それはいいな。歩くたびに音がうるさそうだ!」


音がうるさそうなのに、『いい』のか。


「んぁ? 待てよ。鈴の音か、歩くたびに鳴るんだよな。……!」


何故か、唐突に。
目の前の彼は鼻歌を歌いだして、ポケットから何かを取り出した。
そのままこちらに見向きもせずに、足早に先に進む。

変な人がいたものだ。
そう息を吐くと、地面に白い紙を発見した。


「あの、」
「待て、話しかけないでくれ。今、おれは懸命に脳内に流れる鈴を書き連ねている!」
「はぁ……でも落としたけど。」
「なに!?」


くわっ、と勢いよく振り向いた彼が、白い紙の存在に気付くと目を丸めた。
そしてすぐにニッと笑顔を浮かべだす。


「おれが落としてしまったんだな!」
「頭に流れる鈴よりも、これに鈴つけてみたらどうですか。」
「紙に鈴か? ん〜面白い。つけ方はさまざまだ、鈴も多種多様。この2つだけでも広い世界を作れそうだな。」


落とした紙を受け取ると、にっこり笑顔を浮かべていた彼が再度歩き出す。
だが3,4歩進んだだけでまた足を止めて、踵を返した。


「礼を言っていなかった! ありがとう、俺は月永レオだ! おまえは?」
「……ナマエ、です。」
「そうか! 感謝する、ナマエ!」


夕陽を思い浮かべる橙色の癖のある髪を揺らして歩く彼。
鼻歌を紡ぎながら歌うその彼が『王さま』たる存在だと知るのは、その後の出来事だった。


「試験頑張れよ!」
「…………なんで。」





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