「ンン〜。」
考え込むこと数分。
「ん〜ん〜。」
「……。」
「んン〜?」
「……。」
珍しく、なかなか答えが出てこないらしい。
それを何となく精神で待ってみる。
「んんー……ん、ぅ……。」
「……ん?」
何か、別の声色が。
「ねむ……。」
「……そう。」
彼はどこか気だるそうにそう呟くと、私の隣に座りこんだ。
置かれたラジカセからは、小さいながらも音楽が聞こえる。
「ナマエ……。」
「なに?」
「……ん、ぅ、」
「……レオ?」
「……。」
どうやら、人の名前を呟いて夢路についたらしい。
もしかしたら夢路の門で私にでも会ったのだろうか。
「レオー?」
「……。」
「……おやすみ。」
きっと、彼も彼で疲れているのだろう。
隣で静かな寝息をたてる彼の寝顔は、酷く可愛らしいものだった。
一度席を立ってラジカセを足元に引き寄せる。
音量を更に小さくして、心地よいBGMのもとで裁縫を再開した。
「――たん……。」
「?」
「……。」
たん?
……なんだろう。
何かしらの食べ物の名前でも呟いたのだろうか。
「るか、た……。」
「……。」
……。
愛らしい名前の食べ物だこと。
だ、なんてくだらないことは言うつもりはないけれど。
「……どうやるんだっけ。」
手元にあるそれは、どこまで進んだのか分からない。
さて、記憶を遡らなければならない。
教本を一瞥して、一息吐いた。
「やっぱり鬼龍さんに教えてもらえないかなぁ。」
きっと、彼を通じれば鬼龍さんとコンタクトとれると思ってはいる。
ただ、あの人も自分の所属する『ユニット』活動があるだろうし、多忙そうだ。
時間をわざわざ割いてもらうのは、さすがに申し訳ない。
「……ちゃ、…か。」
「……寝言多いね。」
そういう私も、傍から見れば一人ごとが多いのだろうけれど。
「る、か……ちゃ、だ…んぅ。」
「……はぁ、」
不思議と、集中力が途切れる。
手元のことに手中が出来ず、心地よかったはずのBGMも煩わしい。
「!」
すると懐が震えた。
ポケットに入れていたスマホのバイブレーションだ。
どうやらメールを受信したらしい。
「ナルちゃん……?」
メールを開くと、そこにはナルちゃんからの短い文章が。
『王さま知らないかしら?』
思わず、隣を見やる。
「…………。」
「……んぅ、…すぅ…♪」
彼は酷く心地よさそうに、寝息をたてていた。
作曲に夢中になると止まらない彼は、当然だと言うように睡眠時間さえも削る。
何度、徹夜したという事実を知ったことか……。
その彼が、今までの疲労に耐え切れずに休息の中を漂っている。
「……ふふ。」
しかも、こんな可愛い顔でだ。
穏やかな表情で眠る彼に、手元は嘘を吐いた。
するとそれを喜ぶように肩に彼の重みを感じる。
「――ナマエ、……。」
「現金。」