アイドル科の王さまと普通科の娘 | ナノ

アイドル科の王さまと普通科の

Act.36  30分後、捜しものはここに

「ンン〜。」


考え込むこと数分。


「ん〜ん〜。」
「……。」
「んン〜?」
「……。」


珍しく、なかなか答えが出てこないらしい。
それを何となく精神で待ってみる。


「んんー……ん、ぅ……。」
「……ん?」


何か、別の声色が。


「ねむ……。」
「……そう。」


彼はどこか気だるそうにそう呟くと、私の隣に座りこんだ。
置かれたラジカセからは、小さいながらも音楽が聞こえる。


「ナマエ……。」
「なに?」
「……ん、ぅ、」
「……レオ?」
「……。」


どうやら、人の名前を呟いて夢路についたらしい。
もしかしたら夢路の門で私にでも会ったのだろうか。


「レオー?」
「……。」
「……おやすみ。」


きっと、彼も彼で疲れているのだろう。
隣で静かな寝息をたてる彼の寝顔は、酷く可愛らしいものだった。

一度席を立ってラジカセを足元に引き寄せる。
音量を更に小さくして、心地よいBGMのもとで裁縫を再開した。


「――たん……。」
「?」
「……。」


たん?
……なんだろう。
何かしらの食べ物の名前でも呟いたのだろうか。


「るか、た……。」
「……。」


……。
愛らしい名前の食べ物だこと。
だ、なんてくだらないことは言うつもりはないけれど。


「……どうやるんだっけ。」


手元にあるそれは、どこまで進んだのか分からない。
さて、記憶を遡らなければならない。
教本を一瞥して、一息吐いた。


「やっぱり鬼龍さんに教えてもらえないかなぁ。」


きっと、彼を通じれば鬼龍さんとコンタクトとれると思ってはいる。
ただ、あの人も自分の所属する『ユニット』活動があるだろうし、多忙そうだ。
時間をわざわざ割いてもらうのは、さすがに申し訳ない。


「……ちゃ、…か。」
「……寝言多いね。」


そういう私も、傍から見れば一人ごとが多いのだろうけれど。


「る、か……ちゃ、だ…んぅ。」
「……はぁ、」


不思議と、集中力が途切れる。
手元のことに手中が出来ず、心地よかったはずのBGMも煩わしい。


「!」


すると懐が震えた。
ポケットに入れていたスマホのバイブレーションだ。
どうやらメールを受信したらしい。


「ナルちゃん……?」


メールを開くと、そこにはナルちゃんからの短い文章が。


『王さま知らないかしら?』


思わず、隣を見やる。


「…………。」
「……んぅ、…すぅ…♪」



彼は酷く心地よさそうに、寝息をたてていた。
作曲に夢中になると止まらない彼は、当然だと言うように睡眠時間さえも削る。
何度、徹夜したという事実を知ったことか……。
その彼が、今までの疲労に耐え切れずに休息の中を漂っている。


「……ふふ。」


しかも、こんな可愛い顔でだ。
穏やかな表情で眠る彼に、手元は嘘を吐いた。

するとそれを喜ぶように肩に彼の重みを感じる。


「――ナマエ、……。」
「現金。」





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