彼と初めて、後の逢瀬場となる場所で出会ってから、度々あそこに行くようになった。
けれど、彼も私も、決して毎日ではない。自分が行きたい時に行く。
会ったときには言葉を交わして、昼食の時にはご飯を共にして。
そんな偶然とは思えない程の偶然が積み重なっての日々だった。
それが、3年になり彼が帰還してから、毎日に変化した。
彼も私も、何も約束づけてはいないが毎日あの場所にいた。
時々、彼が『ユニット』メンバーに引き摺られ来られない時や、私が試験勉強で行けない時もあったが。
それでも、ほぼほぼ毎日、必ずあの場所にいるようになった。
とは言えそれも、休日の何もない日は関係ない。
「……んっと、」
活力に溢れた子どもたちの声が耳に届く、公園。
付近一帯で最も大きな広場では、白黒のボールを巡って子どもたちが駆けている。
また、遊具の近くでは、小道具で何やら愛らしい遊びが始まっているようだ。
今日は天候も良く、風も弱い。頬を撫でる程度で逆に心地がいい。
そんな若い子たちを見ながら、私はベンチで1人裁縫中だったりする。
「あれ? ……んん?」
いつだかの【ジャッジメント】の際に、青薔薇のコサージュを製作した。
実はそれだけに止まらず、鬼龍さんのお手伝いとして衣装製作にも携わった。
とは言え、ボタン縫ったり、解れている部分を補強する程度であるが……。
ただ、その影響を少々受けて、裁縫の世界に手を出してみることにしてみた。
縫いものなんて中学の家庭科でリュック擬きを作った以来だ。
しかもその時なんて、指に何度針が刺さり、縫い目がなんと波打っていたことか。
「どうなってんの?」
趣味になれば楽しいだろう。
そんな気持ちもあって始めてはみたものの、なかなか上手くいかない。
家でやっても気が滅入りそうになるので、こうして外に出てみたが……。
「んー、……ここまでいったんだよね。」
膝元に教本を置いて戦っている姿は、以前と変わらない。
それでも脳裏に浮かぶのは、自分が少しだけとはいえ携わった衣装を身に纏い、ステージで輝く彼らの――彼の姿。
どうも心酔してしまっているのではないか。
そう思われても仕方がないほどに、脳内で彼の占める率は高かった。
もともと裁縫とはレベルが高いものだったのか。教本を手放せない。
あの鬼龍さんが、いかに凄い人物であるのがよくよく分かる。
いっそのことご教授願いたいくらいだ。
「……あ。」
そんなことを思いながら教本と戦っていたら、解決策を見出した。
さくさく進むものだから、手が動くこと動くこと。
耳に届く子どもたちの声ともう一種、軽快な音楽とタップが最高のBGMとなってくれた。
特にこの少し高い歌と、それに合わせるようなタップが――……
「……はっ!」
「ふんふふ〜ん♪」
「…………。」
なんか聞いたことのある声だと思ったら、まさかの彼だった。
「……なんでラジオ。」
まだ未熟な身体、細い肩の上に何故かラジカセを乗せている。
何故……?
「ん〜、ここをどうするかな。」
「…………。」
どうやら、ダンスの練習中らしい。
だからって何もラジカセ持参で、しかも公園でやらなくても。
そう思うものの、彼だからと納得してしまう自分がいる。
「レオ。」
届かないのが分かっているからこそ、彼の名を紡ぐ。
「んぁ?」
どうして今日に限って、彼はこんな早く反応するのか。
「ナマエっ! なんだおまえ昨日ぶりだなっ!」
「だね。ここで何してるの?」
「次のライブ用の曲作りをしてたんだ。」
まともな答えが返ってきた。
「踊ってたけど。」
「曲は完成したんだが、振り付けが納得できない!」
「なるほど。」
他のメンバーは?
だなんて訊ねるのはは無粋だろう。
「ナマエこそどうしたんだ?」
「…、」
「あ、待って! 言わないで! 憶測するから、妄想するから! おれの可能性を、宇宙の神秘が瞬く瞬間を壊さないでっ!」
「うんうん、分かった分かった。」
肩に乗せていたラジカセを足元に置いて、彼は腕を組む。
そのまま上体を反らして、まるで体全身で考えているようだ。