アイドル科の王さまと普通科の娘 | ナノ

アイドル科の王さまと普通科の

Act.35  軽快な音楽を聴かせよう

彼と初めて、後の逢瀬場となる場所で出会ってから、度々あそこに行くようになった。
けれど、彼も私も、決して毎日ではない。自分が行きたい時に行く。
会ったときには言葉を交わして、昼食の時にはご飯を共にして。
そんな偶然とは思えない程の偶然が積み重なっての日々だった。

それが、3年になり彼が帰還してから、毎日に変化した。
彼も私も、何も約束づけてはいないが毎日あの場所にいた。
時々、彼が『ユニット』メンバーに引き摺られ来られない時や、私が試験勉強で行けない時もあったが。
それでも、ほぼほぼ毎日、必ずあの場所にいるようになった。

とは言えそれも、休日の何もない日は関係ない。


「……んっと、」


活力に溢れた子どもたちの声が耳に届く、公園。
付近一帯で最も大きな広場では、白黒のボールを巡って子どもたちが駆けている。
また、遊具の近くでは、小道具で何やら愛らしい遊びが始まっているようだ。
今日は天候も良く、風も弱い。頬を撫でる程度で逆に心地がいい。

そんな若い子たちを見ながら、私はベンチで1人裁縫中だったりする。


「あれ? ……んん?」


いつだかの【ジャッジメント】の際に、青薔薇のコサージュを製作した。
実はそれだけに止まらず、鬼龍さんのお手伝いとして衣装製作にも携わった。
とは言え、ボタン縫ったり、解れている部分を補強する程度であるが……。

ただ、その影響を少々受けて、裁縫の世界に手を出してみることにしてみた。
縫いものなんて中学の家庭科でリュック擬きを作った以来だ。
しかもその時なんて、指に何度針が刺さり、縫い目がなんと波打っていたことか。


「どうなってんの?」


趣味になれば楽しいだろう。
そんな気持ちもあって始めてはみたものの、なかなか上手くいかない。
家でやっても気が滅入りそうになるので、こうして外に出てみたが……。


「んー、……ここまでいったんだよね。」


膝元に教本を置いて戦っている姿は、以前と変わらない。
それでも脳裏に浮かぶのは、自分が少しだけとはいえ携わった衣装を身に纏い、ステージで輝く彼らの――彼の姿。
どうも心酔してしまっているのではないか。
そう思われても仕方がないほどに、脳内で彼の占める率は高かった。

もともと裁縫とはレベルが高いものだったのか。教本を手放せない。
あの鬼龍さんが、いかに凄い人物であるのがよくよく分かる。
いっそのことご教授願いたいくらいだ。


「……あ。」


そんなことを思いながら教本と戦っていたら、解決策を見出した。
さくさく進むものだから、手が動くこと動くこと。
耳に届く子どもたちの声ともう一種、軽快な音楽とタップが最高のBGMとなってくれた。
特にこの少し高い歌と、それに合わせるようなタップが――……


「……はっ!」
「ふんふふ〜ん♪」
「…………。」


なんか聞いたことのある声だと思ったら、まさかの彼だった。


「……なんでラジオ。」


まだ未熟な身体、細い肩の上に何故かラジカセを乗せている。
何故……?


「ん〜、ここをどうするかな。」
「…………。」


どうやら、ダンスの練習中らしい。
だからって何もラジカセ持参で、しかも公園でやらなくても。
そう思うものの、彼だからと納得してしまう自分がいる。


「レオ。」


届かないのが分かっているからこそ、彼の名を紡ぐ。


「んぁ?」


どうして今日に限って、彼はこんな早く反応するのか。


「ナマエっ! なんだおまえ昨日ぶりだなっ!」
「だね。ここで何してるの?」
「次のライブ用の曲作りをしてたんだ。」


まともな答えが返ってきた。


「踊ってたけど。」
「曲は完成したんだが、振り付けが納得できない!」
「なるほど。」


他のメンバーは?
だなんて訊ねるのはは無粋だろう。


「ナマエこそどうしたんだ?」
「…、」
「あ、待って! 言わないで! 憶測するから、妄想するから! おれの可能性を、宇宙の神秘が瞬く瞬間を壊さないでっ!」
「うんうん、分かった分かった。」


肩に乗せていたラジカセを足元に置いて、彼は腕を組む。
そのまま上体を反らして、まるで体全身で考えているようだ。





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