アイドル科の王さまと普通科の娘 | ナノ

アイドル科の王さまと普通科の

Act.33  奏でよう、祝福を受けた未来の名曲を


『不可能』とは誰が決めたのか。
誰か1人でも為せればそれは『不可能』ではなくなる。
世界中で無数に存在する可能性の中で『不可能』を見つけることがどれだけ困難か。

いつだって、『不可能』の先にはそれを可能とする『奇跡』が存在するのだ。


「ナマエっ!」
「!」


突然、茂みからニパリとした笑顔と共に橙色が飛び出してきた。
こんな飛び出し方をされたら誰だって驚くだろう。


「なんで後退するんだよ〜!」
「むしろなんでそこから出てきたの。」


髪に葉っぱを絡ませながら、彼は立ち上がる。
はて、練習の時間ではないのだろうか?


「練習は?」
「サボった!」
「は?」
「あそこは息苦しいからな! やっぱりもっと広大な場所で無限に広がる宇宙をみんなで感じるべきなんだ! うっちゅ〜☆」


【ジャッジメント】が終わり、彼が『王座』に帰還しても、彼自身が変わりはしなかった。
それをどこか嬉しく思うと同時に、ちょっと残念さも覚える。


「ナマエもそう思うだろ?」
「思わない。」
「なんで!?」
「なんでも。」


自然に出てしまう溜め息を吐いて、弁当袋を広げる。
これを嬉々として覗き込んでくるものだから、一部貰うのは既にお約束になっているのだろう。
昼食を餌に、上手く躾けてこればよかった……。


「はい、」
「……。」
「……食べないの?」


もしや嫌いなものでも入っていたのだろうか。
弁当箱の中身、本日のサンドウィッチを見るが、今までと大して変わらない。
変わらないから、飽きたとか? そんなこと吐き出したら一生食べ物はあげない。


「要らないなら、食べちゃうけど。」
「ナマエ!」
「はい?」
「おれは怒ってるんだからなっ!」
「え、なに急に。」


いきなり頬をぷくりと膨らませ、彼はジト目でこちらを見てくる。
地面に座り込んでいる彼に対し、こちらは割と大きな岩に腰を掛けている状態だから、必然的に高低差が生じた。
あ、可愛い。


「怒ってるんだって!」
「それは分かったから、何に対して?」
「むっ……!」


何故分からないのか、と言わんばかりの眼差し。
けれど、こちらとしては突然「怒った」と言われて原因は見当もつかない。


「薔薇!」
「ああ、」


検討ついた。


「おれだけのアクセントって言ってたのに、結局他のやつらにもやったら意味ないだろ〜!?」
「作りすぎた。」
「そんな理由!? 面白いけどっ、でもおれは許さない!」


どうやら、【ジャッジメント】用の衣装に加えることになった『王さま』のアクセントについてらしい。
悩みに悩み、すとんと落ちてきたそれはまさしく薔薇のコサージュ。色は青。
これを『王』の胸元につける予定で誠意製作したが、作りすぎた。
どうしたものかと鬼龍さんと苦笑し合った時に、せっかくなんだから皆つけてしまえばいいという極論に至ったのだ。

結果として、『王さま』のアクセントにはなりきらなかった。


「マント用意したでしょ。」
「あれはいい長さだった! わはは……っじゃなくて!」
「罰。」
「んぁ?」
「私に最初で最後のステージ見せるつもりだったレオへの罰。」
「…………。」


いや、コサージュを渡した時はそんなこと全く知らなかったんだけど。


「……ごめん。」
「ううん。レオがスッキリしてくれたから嬉しい。」
「ナマエ?」
「これでやっと、君のステージを思う存分見れるんだ。」
「……おうっ! 大天才が生み出した最高の曲を、聴かせてやるっ!」


残り半年近くしかないけれど、それが今までで一番最高の一時になりそうだ。


「で、なんで青なんだ?」
「薔薇の色のこと?」
「そうそう。」


勝手に人のサンドウィッチを取って、もぐもぐ食べながら彼が問うてくる。


「花言葉。」
「んぁ?」
「調べてごらん。」
「お、いいな教えてくれないそれっ!」


『不可能』を可能にした、青い薔薇の存在。
君が目の前にいるそれこそがまさに、一種の『奇跡』。

カミサマはいないけれど、まるで神の祝福を受けたかのような天才さんに、今はただ浸りたい。



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<第二幕【完】>




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