アイドル科の王さまと普通科の娘 | ナノ

アイドル科の王さまと普通科の

Act.32  透明な瞳が重なり、王が降臨する


目の前で大きな瞳をぱちくりとさせている少年は、実に愛らしい。
あれが、眩いまでの夕陽のような灯火を背に受けていた騎士だとは、俄かに信じがたかった。
けれど確かに自分のこの目は、彼と、王とを映していたのだ。


「あの時、確かに『王さま』は自らの敗北を認め退く道を選んだ。それを退き止め、戦いを望んだの他でもない貴方……どうして?」
「お姉さまは【ジャッジメント】にいらしてたのですね……。」


ずっと聴きたかった。


「教えて。」
「……あの時申し上げたことが全てです。私はまだ騎士としてもidolとしても未熟者な身。それでも、私は『Knights』の一員であり、忠義を誓うべき『王』に傅くべきだと感じました。」
「でも、その『王』を選ぶ権利もあるでしょう?」
「私が『王』と感じるのは、不服ながらあの人なのかもしれません。身勝手で、自由奔放で、何を考えているかよく分かりませんが、それでもあの人の立てる戦略は無駄がなく美しい。」


緋色の彼は、あの時と同じように静かに口を開き、静かに語ってくれた。


「瀬名先輩が仰ってました、彼は自分の身を犠牲にしてでも『Knights』を守ろうとしたと。それこそ、まさに『王』のaction――所業。これを全うし、少々疲れて休んでいただけの我らが『王』を、どうして追放なんてできましょうか。」


当然のことのように紡がれた言葉が、不思議と心に響いてくる。
一度も逸らされることのない藤色の瞳が、綺麗で。透明で。光に満ちていて。


「あんな『王』でも、君はいいと?」
「あんな『王』だからこそ、我らが騎士を纏められるのです。」


その瞳に、かつての彼を馳せた――。


「だからお姉さま、どうか我らが『王』をそのように仰るのは、」
「ありがとう、」
「え?」
「ありがとう。」


きっと目の前のこの騎士がいたから、王は帰還できた。
この人が居なかったらきっと、彼はこのまま学院に戻ってくることはなかった。
私と会うことも、もうなかったのかもしれない。


「ありがとう……。」
「お、お姉さま? 泣いておられるのですか? 何か、私はお気に障る発言でも……!」


慌てふためく姿は、なんだか彼にそっくりだ。
まるで瓜二つにすら感じて、胸がきゅんと締め付けられた。


「貴方が彼と出会ってくれて、本当に良かった……。」
「お姉さま、貴女はいったい……?」
「次のステージ、観に行くから。頑張って。」
「え、あ、は、はい!」


あの時の感情が防壁を打ち破ってまた流れてきそうで。
慌てて踵を返し、彼にそれだけを告げて立ち去る。

あの黄昏の君はなんという名前だったか――


「司ちゃん!」
「!、鳴上先輩……。」
「んもうっ! 買い出しが遅いから皆飽きて自由行動しちゃったわよォ?」
「えぇ!? ど、どうして引き留めて下さらないんですか!」
「司ちゃんが遅いのが悪いわァ。それに『王さま』が我慢できないって!」
「まったくどうしてあの人は……!」


はっと、彼は足を止めて振り返った。
もう姿は見えない。


「どうしたの?」
「……いえ。」
「?」


『王』を誰よりも想う娘が、彼の脳裏から離れなかった。





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