アイドル科の王さまと普通科の娘 | ナノ

アイドル科の王さまと普通科の

Act.31  騎士は忠義を誓い、剣を向けた


赤と青が対立する世界で。
騎士と王が静かに対峙している。

自分は、アイドルのステージをどこか用意された甘い舞台だと思っていたのかもしれない。
用意された衣服、用意された台詞、用意されたダンス、用意された歌。
何もかもが与えられ、それを最大限に活かすだけのステージだと。

だがどうだ。この目の前で繰り広げられている激闘は。
今まで、ここまで果てしのない可能性を秘めた激昂の行方を見たことがあったか。
傷つきあいながらも笑顔で、真剣にパフォーマンスを繰り広げる彼らに、胸が痛んだ。
同時に、何故ここまでするのと言ってしまいそうになるほど、悲しくなった。
瞼を閉じれば、一気に熱く込み上げてくるものがある。

けれど、目を反らすことは出来なくて。
瞼を開いて、彼らの生きざまを目に焼き付ける。


「おれには何でもできるし何でも分かるって、勘違いしていたんだよ。やりたい放題やってさ、たくさんのひとを傷つけた。取り返しがつかない失敗をしてから、ようやく気付いたけど。遅かったんだよ、あまりにも。」


いつも自信ありげに、自由奔放に振る舞っていた王は、静かに首を横に振る。
自分は無責任に逃げたのだと、自嘲してみせた。


「ほんとはさ、この場にいる資格なんてないんだよ。おれはそんな、情けない、恥ずかしいやつだ。」


眉を下げて、無理に笑って、それが遠くからでも十分に分かってしまうからこそ、一層、瞼から溢れ出してくるものを止められなかった。


「騎士に傅かれて、忠誠を尽くされる価値なんてないんだよ。」


いつだかから、彼は『王』は『王』でも、『裸の王』と自身を称すようになった。
きっとその言葉の裏には、彼が今吐き出した本音が全て詰まっていたのだろう。
それを一度も、誰にも言わず、会えてこの場で放ったのには深い意味がある。

彼にとって『Knights』は青春そのものだと、その話は何度か聴いたことがあった。
その時の彼の瞳は、かつての輝きを思い起こさせるほど煌めいていて、同時に深いどん底を感じさせるものだった。

彼は『Knights』だけが心残りだと発言し、けれどこのステージを経てその心配は無用なものだとまた無理に微笑んでみせた。


「『Knights』はおまえらのもんだよ、あとは好きにしろ。」


その言葉はそのままの意味で。
彼は戦いを終えた時、立ち去ることを確かに宣言した。

彼は、この学院に帰還してから、ずっとこれを考えていたんだと思う。
だからこそ、あの場所での逢瀬を欠かさずにしてくれたし、だからこそ今までライブに呼んでくれなかったんだろう。

自分が今まで至高としてきた『ユニット』の、最後の輝かしい舞台を見せるために。
『王さま』の、最初で最後のステージを華やかに飾るために。
なんて、勝手な人なんだ……。

そんなこと、この席に座るまで分からなかった。
それが堪らなく悔しくて哀しくて、涙がまた溢れてくる。
嗚咽を押し殺しながらそれでも前を向いて、彼らの姿を目に焼き付ける。

これで終わりにすると?
私に、このステージしか見せないつもりなのか。
どうにかしてほしくて。どうにもできなくて。
むず痒い思いに胸が張り裂けそうになっていた時に、緋色の王は首を横に振った。


「いいえ。Leader、我が侭ばかり言わないでください。あなたには、まだ教えてもらいたいことが山ほどあります。」


『王さま』を取り戻すべく王となった騎士は、確かに、そう言ってくれたのだ。
にっこりと純粋な笑みで微笑みかけて、黄昏の君は外套を翻した。


「自己紹介から始めましょう、ようやく帰還された我ら『Knights』の王よ。」





×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -