アイドル科の王さまと普通科の娘 | ナノ

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Act.28  【ジャッジメント】の開幕が訪れる


会場には、多くの人だかりがあった。
これほどの人たちが集まる、今日のステージ。
普段からの動員数なのか、それとも今日は特別なのか。


「ほう? 迷える子猫が一匹、見事に目立っておるのぅ♪」


なにこの寒気。
少し気ダルそうに、それでいて掠れた甘い声が耳に届く。


「どちら、様ですか。」


彼は同伴者をつけると言っていた。
理由は他から手を出されないため。
まさかこれは、その手を出されそうになっている感じなのだろうか。
意味がない、意味がない。


「そう怯えるでない。」
「と、言われても。」
「困ったのぅ、警戒しないで欲しいんじゃが。」


黒く、波打った髪。
そこから覗く深紅の瞳が怪しさしか含まない。
同い年……? どうも年上に見えるのは、口調のせいだろうか。


「我輩のことを聞いとらんのかのぅ。」
「……。」
「ほれ、零じゃ。朔間零。」


さくま、れい?
残念ながら初めて聞く名前だ。


「知りません。」
「おお、そうかそうか。寂しいのぅ。」
「あの、もういいですか?」
「主、ナマエじゃろうて。」
「……そうですけど。」


目の前の彼は腕を組みながら、目を細めた。
そしてこちらの名前を確認しを得ると、肩を揺らして笑いだす。


「はっはっは。これはまた! 月永くんも困ったものじゃ♪」
「え?」


なぜ、そこで彼の名前が。
その疑問が生じた後、すぐにやっと理解できた。
この人が、彼の口から「変なやつ」と飛び出てきた同行者?


「彼のことじゃ、我輩のことを伝えておらんかったのかのぅ。」
「あ、……すみません。名前を、聞いていなくて。」
「そうかそうか。そうであろう。」
「えっと、……失礼しました。」
「固くならずとも良い。歳は違えど同じ学年じゃ。緩く接してくれ。」


同じ学年……でも年が違う。
つまり、留学?


「にしても、さすがに数がちと多いのぅ。」
「彼が、出るから?」
「いや……月永くんのことは、ほぼ3年しか分かっておらぬ。ほとんどが、今日の【ジャッジメント】が目的であろう。」


ジャッジメント……。
一体、それは何なのか。
もう、聞いてもいいんだよね?


「ジャッジメントって、なに。」


訊ね方が淡白過ぎたのだろうか。
目の前の彼は目をぱちくちと瞬かせた後に、また肩を揺らして笑った。


「そうかそうか、彼は教えることなくステージに立とうとしておるのか。」
「ただのステージじゃ、ないの?」
「それは月永くんと長く居った主が、一番分かることであろうに。」


目を細められて、どきりとする。
そうだ。分かっている。ただのステージじゃないことぐらい。


「【ジャッジメント】とはすなわち粛清。」
「粛清?」
「簡単に言えば、『Knights』という『ユニット』の中での戦いじゃ。」
「……。」


それは、つまり。


「そう。月永くんが戦う相手は、今の『Knights』のメンバー。」
「――!」


仲間内で、やりあうっていうの?


「これは1年の時から時折あった【デュエル】ではあるが……今回は一味違う結末を迎えそうじゃ♪」
「……もし、彼が負けたら?」
「さぁのう。今までは月永くんたちが勝利を収めてきて、対抗者らは『ユニット』から脱退していったが……。」
「…………。」


本当に、戦うんだ。
そりゃナルちゃんにアクセントは頼めないよね。


「ほんと、バカ。」


帰還して、自分の『ユニット』を見てきた彼の顔が思い浮かぶ。
音楽そのものと同じくらい愛していた『ユニット』だ。
変化したそれに、彼は何を思ったのだろう。





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