意識はふと、意図せずに浮上する。
視界に入ったのは木目。次に白い紙。そして、ペン先。
重い上体を起こすと、勉強中に寝てしまったことを悟る。
課題を終えて安心するも、テストのために睡魔と闘っていたのだ。
結果としては、敗北……なのだろうか。
「もう、朝……。」
少しだけ慌てて時計を見るが、時間は普段の起床時刻よりも少し早い。
ほっとしながら、窓の方へ視線を向ける。
ベージュのカーテンが太陽の陽射しを受けて明るく輝いていた。
椅子から立ち上がり、そのカーテンを左右にひく。
途端に襲ってきた陽射しに思わず目を細めたが、少しずつ順応していった。
普段と変わらない景色ではあるが、何となくいつもよりも明るい。
「……きれい……。」
今日は快晴と呼べる日だ。ほとんど雲が無い。
空は青というよりは水色一色で、時折白い雲がそれを覆う。
そんなキャンパスで何よりも輝いているのが太陽。
赤の発光よりも、今日は橙の発光に映る。
「……空、太陽、雲。」
ふと、衣装が浮かんだ。
基本色が黒やグレーというダークな色合いに対しての配色。
彼の映える橙色の髪に、手に嵌められた純白の手套。
そこに加えるアクセントは何か。
すとんと自分の中にそれが落ちてきた。
少しだけ軽くなった体に制服を纏って、リビングにくだる。
振り向いた母が「おはよう。早いのね。」と目を細めたのを、受け止めて頷いた。
試験は上々の出来だったと思う。
意識が落ちる程勉強した成果か、たまたま運が良かっただけか。
今となっては、どちらでもいい。
放課後に、急いで門を飛び出す。
「よう、早かったな。」
「鬼龍さんこそ……!」
学院から少し離れた場所で、鬼龍さんと合流。
さすがに自分の判断で全てを決められるわけではないのと、サポーターが欲しかったため約束づけた。
「その顔だ、決まったみてぇだな。」
「はい。お手伝いいただけますか?」
「当然だ。」
ニッと、微笑んでくれるその姿はたくましい。
早速鞄を肩にかけて歩き出す。
材料を購入して、試作品を一緒に製作する。
衣装を作ってくれた鬼龍さんにアドバイスを貰いながら、工夫を施す。
そして再度試作品を作って、今日は終了した。
言葉しか知らない『ジャッジメント』の開幕が刻々と近づいてきた。
「なあなあ! 結局、何にしたんだ? ん?」
「秘密。」
「えぇ〜?」
練習をしつつ、アクセントが気になる彼は、度々訊ねてくる。
「だがそれもいいなっ! 待ってろ、今妄想するからっ!」
「それもいいけど、ご飯食べてね。」
「んぁ? 後だ、あと!」
「今じゃないと食べられないんだから。はい、口開けて。」
「んー!」
いつだか、彼に発想を提供した卵焼きをプレゼントする。
美味しそうに目尻を緩めて食べる彼を見て、こちらも嬉しくなる。
作ってくれてありがとうお母様。
「あ、そうだ。ナマエ、当日は特等席用意しといたからなっ!」
「特等席……?」
橙の尾を揺らして、彼は微笑む。
「今回は一般よりもおれらの方が圧倒的に数が多いと思うからさ。潰されないうちに、知り合いに同行頼んどいたから。」
「は、」
いや、え?
「変なやつだけど、面白いぞ〜☆」
「いやいや。その方とずっと一緒? 気まずくない?」
「大丈夫だ!」
何を根拠に。
というかそもそも『潰れないうち』ってなに。
「それなりの立場だし、他の連中も易々と手出してこないだろ。」
「出される可能性あることにビックリなんだけど。」
「わはははは☆」
今日も彼は、通常運転だ。