アイドル科の王さまと普通科の娘 | ナノ

アイドル科の王さまと普通科の

Act.26  目覚める前の肩慣らし


結局、その日は思い浮かず1日目が終了した。
貰った猶予は2日間。後、1日。

自分で放った言葉とは言え、自信がなくなってきた。


「ただいまー。」


のろのろと帰宅をする。
普段なら「おかえり」と返してくれる母は、どうやら早くに帰宅した父と買い物に行っているらしい。
日頃から買い物が大好きな母だ。父と一緒ということはきっと長いだろう。
へろへろになって帰ってくる父の姿が、目に浮かぶ。


「んーっ……!」


自室に向かい、一気にベッドへと身投げをする。
俯けから体位を変えて天井を見上げて、疲れを解すように体を伸ばした。


「……はぁ。」


脱力すると、なんだか血の巡りが良くなった気がする。
これに伴って良い案は浮かばないものか。
……なんて。簡単にいくはずがない。

瞼を閉じて、脳裏に衣装のデザインを浮かべる。
自分が実際に手にした完成版にイメージを近づける。
あの衣装に、アクセント。

彼に衣装を着せてみたら……意外と似合った。
橙色の髪、翡翠を宿した肌色、赤いシャツがチラついて……。
そこに、黒とグレー、金色の線が入ったあの上着。
白の手套に黒のズボンがあって……。

――ダメだ。
1つひとつを思い起こせても、それを上手く繋げられない。
何色が合う? どんな形がいい? 何が邪魔にならない?
何が、彼を最も惹き立てられる?


「まったく分からない。」


何か参考にできるものがあれば、と思いリビングに出てテレビをつける。
チャンネルを変えて、ちょうどやっていた音楽番組でリモコンを置いた。

画面越しに映える衣装たちをがっつり見る。
何気なく今まで視界に映していたものを意識するだけで、映りが違う。
似たような形状でも色や模様が違えば、それは全くの別物。
シンプルなシャツでも首元からネックレスを下げれば異なる衣装。
そのネックレスの種類や長さでもっと印象が変化するのだから、これは面白い。

けれど、結果として何も得られなかった。


「どうしようか。」


ぽつんと呟いても模範解答は返ってこない。
やってくるのは期限という壁だけ。

これ以上考えても仕方がないと割り切り、部屋に戻る。
もう薄暗くなってきたために、カーテンを閉めて部屋の電気をつけた。
途端に、部屋は明るくなる。

――そういえば……。
アクセントのことばかりに気を取られ、学校の課題の存在を忘れていた。
提出と同時にテストをやると教師が言っていたのも思い出して、慌てて机に向かう。
付け焼刃になろうが、悪あがきであろうが、やるのとやらないのとでは明らかに結果は変わる。

気分転換……というものにはならないが、やろう。


「それまでおやすみ。」


頭を振ってアクセントのことを脳内から飛ばす努力を軽くして、ペンを握った。
ふと、脳裏に浮かんだのはこのペンを貸した時に嬉しそうに動かしていた彼の手。彼の表情。


「邪魔、しちゃダメ。」


せっかく握ったペンだが、支配されては意味がない。
すぐに親指の腹で上部を押しながら、ペン先を机の立てて芯を戻す。
筆入れに出したばかりのペンをしまって、別のペンを手にした。

さて、いっこうに消えようとしない思考と目の前の課題と、明日のテスト。
どう戦おうか。





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