「ナマエ。おれはナマエにやってもらいたい。」
強い、真摯な眼差しが射抜くようにこちらを見ている。
ぶれることのない芯のある言葉が、心を曝け出そうとしてくる。
「ナマエ、ナマエー?」
「あ……はい、なに?」
「ちょっとアンタ大丈夫?」
「顔色、優れないけど。」
クラスメイトに顔を覗きこまれて、はっとする。
もうすでに、放課後だ……。
今日は一度も、昨日も一度も、あの場所へ行ってはいない。
もし彼が居てあの時と同様に頼まれたら、何も返せないからだ。
「風邪引いたんじゃないでしょうね?」
「心配かけてごめん。」
「平気ならいいんだけど……。」
「気をつけなよ?」と言葉を貰って、彼女たちは教室を出た。
窓へ視線を移すと、薄いカーテン越しに夕陽が差し込んできていた。
さて、どうしようか。
机上へと視線を戻すと、スマホが目に入る。
きっとナルちゃんに聞けば今回のことを教えてもらえるだろう。
けれど彼から直接聞きたいという思いが自分の中にあった。
彼から「ダメだ」と拒まれ「待って」と求められ「招待させてくれ」と手を招かれた。
全てが、彼の思うままに動いている。
それを苦しくも感じ、それ以上に心地良くすら感じてしまっている。
「……結局、選べないんだよね。」
スマホと自分の鞄を持って、自席を立つ。
遠くから歓声が聞こえた。
今日はどの『ユニット』が輝いているのだろう。
きっとこの煌めきよりも数倍のものが、自分を待っているに違いない。
「レオ!」
高らかに名前を叫ぶと、きょとんと橙色は目を瞬かせた。
「後2日だけ待ってて!」
期間は既に1週間をきった。
残り短い。そんな中、2日の猶予を求めた。
「ナマエ?」
「素人のフィーリングでいいなら、用意してみせるから。」
こちらの意図が通じたのか。
彼は目を大きく広げて、次の瞬間、顔をくしゃりと歪ませた。
「ありがとうナマエっ、大好きだ!!」
「不恰好になっても、文句言わないでよ。」
「不恰好な『王さま』も上等だ。おれは、『裸の王さま』なんだからなっ!」
何枚もの譜面を抱いていた手を広げると、白い紙が宙を舞う。
ああ。この人のこういう顔が、見たかったんだ。