アイドル科の王さまと普通科の娘 | ナノ

アイドル科の王さまと普通科の

Act.23  言葉にして理解する感情


結局、あの場はチャイムが話を区切った。
必然的にこの延長戦は放課後となる。

どうして彼が頑なに自分に頼むのかが、分からない。
絶対にナルちゃんの方がハイセンスだし、美しく魅せてくれるはずだ。
それなのに彼はただ「ダメだ」としか言ってくれない。

おまけに気になるのが、クロさんが言っていた「伝えてないのか」という言葉。
秘密ばかりを前にして大人しく従えと、彼はそう言うのだろうか。

『Knights』に対する、おれのステージ。これって、どういう意味?


「……あれ?」


重い足取りで目的地までたどり着くと、そこには意外な人物だけがいた。
樹の幹に背中を預けた、赤髪の男生徒……クロさんだ。


「来たか、悪いな。俺だけで。」
「いえ、それはいいんですけど……。」
「月永には遠慮してもらった。」


遠慮?


「少し、話しねぇか?」


気遣ってくれた、のかな?


「そちらが良ければ。」
「決まりだな。遅くなっちまったが、俺は鬼龍紅郎だ。」
「ナマエです。ご存じのようですが。」
「あいつがうるさかったからな。」


クロさんもとい鬼龍さんは困ったように眉をハの字にしてみせた。
この人もこの人で、いろいろと苦労していそうだ。
脳裏に銀髪の青年が浮かんだ。


「あいつよ、」
「はい。」
「なかなかの問題児だが、凄ぇやつなのには違いねぇ。」
「分かってます。」
「へらへらしてる時もあるが、あいつの頭の中は複雑な思考で絡み合ってるんだ。」


鬼龍さんは、彼とそれなりの付き合いなのだろうか。
自分もそう思うと、小さく頷いた。


「だから今回の【ジャッジメント】にも意味がある。」
「ジャッジメント?」


審判とか、判決とか、そういう意味合いの言葉だ。
アイドル業界の専門用語とか何かだろうか。隠語?
それとも、また別の意味合いがあって……?


「嬢ちゃんは、今まであいつのステージ見たことはあるのか?」
「それが一度も。彼はただ、ダメだとしか。」
「そうか。そりゃ、あいつが悪いな。」


にっと口角を上げた時に、唇の間に挟まれた白い歯が輝いた。
自分が思っているよりもこの人はいい人なのかもしれない。
本当に『お母さん』寄りなのではないだろうか?


「けどよ、秘密ばっかで嫌になるだろうが今は月永を支えてくれねぇか。」
「……支えるって言われても。」
「難しいことなんかしなくていい。アクセントとやらも、1人で考えなくていい。俺も一緒に考えるからよ。」


あ、やるのは前提?
そうは言われても……。

内心で思わず思考が停止する。
「そう言われても……」なんだろう。
困る? 難しい? やりたくない? 一体、何?

頭の中で複雑に考えていると、ふと単純な単語が脳裏に浮んだ。


「……不安なの。」
「不安?」


そうだ。
まさに不安という2文字が私を覆い尽くしている。


「せっかく戻って来たのにステージにあがってないって聞いて。
それが今回、急に招待。嬉しいけど、なんだか彼の様子がいつもと違うのは明確で。」
「それが、不安なのか?」
「真剣に向き合っている舞台の、大事な衣装の一部を『王さま』の印を私がやるだなんて。
ただのド素人の普通科の、……ただの知り合いがやるだなんて……そう、」


おこがましい。

口に出した途端に、自身の中で不安がぐるぐると渦巻き蔓延した。





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