アイドル科の王さまと普通科の娘 | ナノ

アイドル科の王さまと普通科の

Act.19  『王さま』印の招待状


彼の眉を下げたあの表情が脳裏に今でも浮かぶ。
何となく、そんな彼と顔を合わせるのが気まずかった。


「行くけどさ。」


今日のお弁当は無しだ。
代わりに、コンビニで購入したサンドウィッチが昼食となる。
お供であるお茶と共に例の場所に足を進めると、すぐに橙色が目に入った。


「ナマエっ!」


彼は、いつも出会い始めに名前を呼ぶ。
可愛らしい無邪気な笑顔で呼ばれるものだから、どうしても口元が緩んでしまう。
今日も気まずさを抱えていたのに、口角は自然と上った。


「今日はおまえに伝えたいことがあるんだ。」
「なに?」
「ずっと『Knights』のライブに来たかっただろう?」
「……。」
「招待させてくれ。」


笑顔なんだけど。
彼の瞳はいつになく、真剣だった。


「……いつ?」
「1週間後だ!」


1週間後……。


「それまで『Knights』のライブは一切やらない。だから、1週間後のライブに来てほしい。」
「……どうして、突然。」


行きたいと、我が儘を言ったからだろうか。
途端に申し訳なくなって、上がっていた口角は重力に従って下がる。
けれど彼は首をゆっくりと横に振った。


「そろそろ潮時だったんだ。ナマエが言ってくれたお蔭で、おれも決心がついた!」
「決心?」
「来てくれるか?」


彼の考えは本当に分からない。
分からないけど、これを断ってはいけないと強く脳が叫んだ。
当然、こんなのに従わなくたって拒みなんてしないのに。


「行く。絶対に。」
「ん! ありがとうなっ!」


結われた尻尾が、ふわりと揺れた。


「でだ。『王さま』らしく目立つにはどうしたらいいと思う!?」
「……は?」


突然の話題転換。
これも通常だと思ってしまうのが悲しい。

それにしても『王さま』らしく目立つ方法?


「それは、どういった意味で?」
「見た目でも行動でも、なんでもいい!」
「……。」


単純な王さまをイメージすると、
やはり分厚い赤のコートを羽織り、大きな玉座に座り、騎士を従える姿。
後は……。


「王冠?」


王さまを比喩するのにも利用されるその存在が、一番『らしい』だろう。


「んんー、頭に乗せるのは動きづらいんだよなぁ。」
「玉座に座ってるわけにもいかないよね。」
「玉座か! いいな、今から用意してもらうか!」
「やっぱり止めよう。」
「なんでだ?」


「用意してもらうか」という言葉が既に自分は動かないことを表している。
1週間以内に玉座を用意? 誰がそんな暴挙を受け入れられるものか。
その人が、かわいそうだ。





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