アイドル科の王さまと普通科の娘 | ナノ

アイドル科の王さまと普通科の

Act.18  伸ばしたくても届かない


彼がステージにあがっていないことを知った、その翌日。
いつもの場所で、いつものように約束もしていない彼を待つ。


「ナマエ〜! 遊びにきたぞっ☆」


いらっしゃった。


「ねえ。」
「んぁ? 何だ何だ?」


彼はどこかわくわくしたような表情でこちらの言葉を待つ。
ご機嫌になるような出来事でもあったのか。それとも、こちらの紡ぐ言葉が気になったのか。


「どうしてステージにあがらないの?」


彼にとって、待ちに待った言葉がこれだ。
一気に端正な表情が不愉快そうに歪む。


「来たのか。」


吐き出される声色も、低く耳に響く。
出合った頃より曇りはしたが、それでもまだ透き通っている翡翠がぎらいている。
まるで何かを射止めるような鋭い瞳に一瞬どきりとするが、正しいことを返した。


「他の子たちが言っていたのを聞いた。」
「なぁんだ、そうかそうか!」


ころりころり。
彼は大口を開けて笑顔を花咲かせた。


「てっきりナマエが約束破って来たのかと、思考回路が停止しそうになったぞ! わはは☆」


約束というより、一方的に「ダメだ」と言われただけなのだけれども。
彼からしてみれば大事な約束を結んでいる認識であったらしい。


「ねえ、どうして? せっかく帰って来たのに……。」
「どうしてだと思う?」
「教えてくれないんだ。」
「少しは自分で考えないとダメだぞっ! 何でもかんでも教えたら、つまらないからな。」


先程の不機嫌な面が嘘のように、楽しそうに微笑んでみせる。
彼の表情は本当にころころと変わるようだ。


「……私は、いつになったら見れる?」
「…………。」


彼がステージに立つ姿が見たいと。
彼が誕生させた曲が響く、彼の世界で、彼の輝く姿が見たいと。
そう強く思って彼を求め続けたのに。

どうして、彼は拒む?


「……ナマエ、」


酷い顔でもしていたのか。
思いのほか、切なげな声が出たからなのか。

彼は困ったように眉を下げた。
そしてこちらへと手を伸ばして、


「もう少しだけ、待ってて。」


きっと、彼は何か考えているのだろう。
分かっていたつもりではあったが、それでも哀しかった。


「……ごめん。」


そう返すことしかできなくて、瞼を閉じる。
頭に乗せられた体温がくすぐったかった。





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