彼がステージにあがっていないことを知った、その翌日。
いつもの場所で、いつものように約束もしていない彼を待つ。
「ナマエ〜! 遊びにきたぞっ☆」
いらっしゃった。
「ねえ。」
「んぁ? 何だ何だ?」
彼はどこかわくわくしたような表情でこちらの言葉を待つ。
ご機嫌になるような出来事でもあったのか。それとも、こちらの紡ぐ言葉が気になったのか。
「どうしてステージにあがらないの?」
彼にとって、待ちに待った言葉がこれだ。
一気に端正な表情が不愉快そうに歪む。
「来たのか。」
吐き出される声色も、低く耳に響く。
出合った頃より曇りはしたが、それでもまだ透き通っている翡翠がぎらいている。
まるで何かを射止めるような鋭い瞳に一瞬どきりとするが、正しいことを返した。
「他の子たちが言っていたのを聞いた。」
「なぁんだ、そうかそうか!」
ころりころり。
彼は大口を開けて笑顔を花咲かせた。
「てっきりナマエが約束破って来たのかと、思考回路が停止しそうになったぞ! わはは☆」
約束というより、一方的に「ダメだ」と言われただけなのだけれども。
彼からしてみれば大事な約束を結んでいる認識であったらしい。
「ねえ、どうして? せっかく帰って来たのに……。」
「どうしてだと思う?」
「教えてくれないんだ。」
「少しは自分で考えないとダメだぞっ! 何でもかんでも教えたら、つまらないからな。」
先程の不機嫌な面が嘘のように、楽しそうに微笑んでみせる。
彼の表情は本当にころころと変わるようだ。
「……私は、いつになったら見れる?」
「…………。」
彼がステージに立つ姿が見たいと。
彼が誕生させた曲が響く、彼の世界で、彼の輝く姿が見たいと。
そう強く思って彼を求め続けたのに。
どうして、彼は拒む?
「……ナマエ、」
酷い顔でもしていたのか。
思いのほか、切なげな声が出たからなのか。
彼は困ったように眉を下げた。
そしてこちらへと手を伸ばして、
「もう少しだけ、待ってて。」
きっと、彼は何か考えているのだろう。
分かっていたつもりではあったが、それでも哀しかった。
「……ごめん。」
そう返すことしかできなくて、瞼を閉じる。
頭に乗せられた体温がくすぐったかった。