アイドル科の王さまと普通科の娘 | ナノ

アイドル科の王さまと普通科の

Act.16  露になった路を拒む


今日も今日とて、のんびりと過ごしていた。


「…………。」
「…………。」


趣味は読書!
と、いうほど読み耽ってはいないが読書は好きだ。

特にミステリーが好きだったりする。
読み進めながら犯人や動機、アリバイを憶測するのだ。
当たった時の高揚感はなかなか味わえるものではない。


「…………。」
「…………。」


隣に座っている彼は、珍しく、何をするでもなくぼーっと空を見上げていた。
ちょっとだけ開いた唇から犬歯が顔を覗かせている。


「…………。」
「…………。」


視線を下に落として流れるように物語へと入り込む。
まさに女探偵が今、犯人を追いつめるシーン。
鋭い言葉が飛び交い的確に相手の心理を突いていく。

もう少しで、落とせる。


「――あっ、」


ページをめくろうとした時、思わず力が入りすぎた。


「んぁ?」


ビリッという哀しい音と自分のやってしまったという間抜けな声とが、静寂を打ち破る。
空を仰いでいた彼も、視線をこちらに移した。


「何やってんだ?」
「破れちゃった、端っこ。」
「あーあ。乱暴だな、ナマエは。」
「いや、たまたま。」


破れてしまったものは仕方がない。
1つ息を吐いて、本を閉じる。


「読まないのか?」
「ちょっと興ざめ。帰ってから読む。」
「ふぅん?」


それにしても、やけに今日の彼は大人しい気がする。


「今日は、いいの?」
「んーあいつらがやってるだろ。」
「ふぅん?」
「……なんだよー。」
「別に。せっかく戻って来たのにリーダー居ないんじゃ寂しいだろうなって。」
「いーの!」


軽い身のこなしで彼は立ち上がって、腰に手を当てる。
そのまま上体を反らせて首を一回転させた。


「次のライブ、いつ?」
「明日。」
「は?」


明日だというのに、練習の時リーダー不在って……。


「戻った方がいいんじゃない?」
「だからいーんだよ。」


彼はなんだかんだ言って、適当に見えて良く考えている人だから。
何か、考えがあるのかもしれない。

いや。もしかしたら新しく入ってきた後輩と、今の『ユニット』の姿に戸惑っているのだろうか?


「……見に行っていい?」
「ダメッ!」
「えー……。」


彼は、頑なにライブ会場に行くことを拒む。


「なんで?」
「ダメなものはダメだからだ!」


彼の大きな翡翠が、不服そうに訴えかけてきた。
今日も今日とて、この瞳にやられて口を閉ざす。





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