アイドル科の王さまと普通科の娘 | ナノ

アイドル科の王さまと普通科の

Act.14  心の跳躍力は極限になった


もう半年近くが経過してしまった。
どこか、焦燥感を覚える。

『見たい』と叫んだ自分の本心を、満たしたい。
ただの自己利益だけれど、『私』は彼を求めているのかもしれない。


「あっ!」


昼食の時間になり、偶にはあそこに行こうと思った。
暫く行っていなかったけれど、たまたまそういう気分になったのだ。

弁当箱を素早く持つと、慌てていたのか鞄の口にそれが引っかかる。
けれど勢いよく引っ張ってしまったために、鞄からの救出し成功した代償に弁当箱を落としてしまった。


「あちゃ…ぁ……。」


多分、中身は大丈夫だと思うけれど……。
なんとなくショックを受ける。

友人にくすりと笑われながら、足はあそこへと向かった。
地面は乾燥していて、いつも通りの摩擦を感じる。


「――……!」


いつも通りだった。
かつて、いつも見ていた線の流れを除けば。

嘘だ、まさか、そんな。
思わず足が止まる。唇が乾燥した。
5つの曲線が、小さな石ころをもろともせず長く描かれている。


「、」


一歩、右足が前に出た。
また一歩、更に一歩、一歩、一歩、一歩一歩。
動く速度は自然と早くなって、遂には駆け出した。
流れる戦慄を壊さないように、終曲を求めて走り出した。


「――♪」


高い、音色が耳に届く。


「……。」
「……ん?」


大きな翡翠が、夕陽のような絹の合間から煌めいた。


「ナマエっ!!」
「――……。」


そして、朝日のように輝かしい笑顔が、久々に空を照らした。


「遅いぞ!!!」
「…………は?」
「どれだけ待ったと思っているんだ! この悠久の時の流れに身を任せ、降り注ぐ生命を育んでいたらノートに書き留められない程の名曲がうまれたぞ!」
「……あ、そ、う。」


どうやら、彼は通常運転、らしい。


「お蔭でペンも切れて困っていたところだ! 早くこの大地に誕生した萌芽たちを優しく摘んであげなくてはならない……☆」
「……はい、はい。」


でも、きっと自分もそうだったのだろう。
ポケットから、それほど大きくはないがメモ帳を取出し、ペンと共に手渡す。


「さすがナマエだなっ♪ 待ってろ、すぐにおれの天才っぷりを刻んでやるぞ! わはははは☆」


唇をひと舐めりして、彼はペンを握る。
地面に描かれた戦慄を同じように白い紙に描いていった。
いつも持ち歩いている、5色のペンはすでにこと切れているらしい。
明日には新しいのが補充されているのだろうと思うと、彼は本当に『変わらない』のだと理解できた。


「ねえ、」
「なんだ! もうちょっと待ってくれ。後で聴くから多分!」
「いつからここにいてくれたの?」


普段は、彼の邪魔を一切しない。
でもどうしても今だけは、どうしてもソレより優先して欲しかった。

そんなこちらの思いを悟ったのか、……いや、違うだろうが、彼は手を止める。
ゆっくりと顔をこちらに向けて、目を細めた。


「ずっと、だ。」



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<第一幕【完】>




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