時が過ぎるのはあっというま。
……と、までは言わないが、気付けば3年目の春が終わった。
相変わらず、彼の姿はない。
それが寂しいと気づいてから、彼と落ち合う場所に足を運ばなくなった。
行ったとしても週に1度ほどだろうか。
「あー、髪がべたつく……。」
ここ最近は、毎日のように晴天だった。
だからなのか、今日のような雨をやけにうっとおしく感じる。
傘も持たないこの身では、髪や服が肌にべっとりするのだろう。
その事実が、更に曇天を恨めしく思わせる。
「ね、行こ!」
電灯がなければ真っ暗な状態にすらなる天気の中で、女生徒の明るい声は際立つ。
チャイムが鳴った途端にがやがやと教室が賑やかになるのは毎日のことだけれども、今日という日はそんな毎日の中でも特別な日だ。
もっとも、その特別な日も、ある日を境に頻繁に生じるイベントとなったのだが。
「ナマエも行くでしょ、ライブ!」
「パース。」
「ええっ!? ソレ前の『Ra*bits』の時も言ってたじゃない!」
「あんたの推しはどの『ユニット』なわけぇ?」
推しがある前提なのが、さすが女生徒間の会話だ。
「っと、そろそろ行かなくちゃ!」
「今日こそは最前線よ……!」
まるでこれから戦場にでも行くのか。
と、思わせるほどの形相で彼女たちは教室を立ち去る。
廊下が慌ただしいが、暫くすれば静まり返るのは分かっている。
「今日は……『Trickstar』だっけ?」
この学院の混沌としていたアイドル科を――
いや、アイドル科のみならずこの学園そのものに『革命』を巻き起こしたという『ユニット』。
今年に入り、この学園は変化を遂げた。
それはいい流れを運んできていて……。
「どうしよ、傘。」
それでも、私の心にその変革の風が通らなかった。
「寒いなぁ。」
春の温かさを感じない。感じられない。
『皇帝』とやらが席から引きづり下ろされたことで、『革命』が為された。
それも今年転校してきたプロデュース科の女生徒が奮闘していたというのだから驚きだ。
普通科でも十分に噂になっている。
ともかく、『革命』のお蔭で、アイドル科に所属する彼らのステージは飛躍的に表だって輝いている。
学院のみならず地域の貢献しているほどだ。末恐ろしいアイドル。
「あ。白菜買わなくちゃ。」
今日は、鍋にしよう。
どうせ冬までもう食べないのだから。