アイドル科の王さまと普通科の娘 | ナノ

アイドル科の王さまと普通科の

Act.10  雪を押し上げる萌芽


「お待たせ〜♪」


軽いステップを鳴らすその身体には羽根がついているのではないか。
そう疑わせるほど軽快な足取りでこちらへと向かってきてくれた。


「ごめんなさいねェ、待たせちゃったわよね。」


彼女――ではなく彼、は眉を下げながら微笑んだ。
どうにもその表情が綺麗なものだから、凡人の虚しさを感じさせる。


「いえ、大丈夫ですよ。」
「寒くなかったかしら?」
「はい。鳴上さんこそ、急いできてくださってありがとうございます。」


以前、校門前で会った相手だ。
何故かこちらの名前を耳にした途端に、再会を約束づけられた。

何故か、だなんて言っているが、理由は既に理解している。
こちらもまた『王さま』関係だ。


「んも〜そんな他人行儀にしないでちょうだいっ!」
「とは言っても、……。」
「それに年齢はナマエちゃんの方が上なんだから、むしろアタシが敬語使わなくちゃいけないのよねェ。」
「あ、そのままで大丈夫です。」
「ほんと? 優しいのね!」


「じゃ、このままで♪」
なんてウインク飛ばされた。


「アタシに対しても、堅苦しくしないでちょ〜だい?」
「んー……ん、分かった。」
「ウフフっ、ありがとう♪」


流されるがままに、少し遅れて歩き出す。


「で、ナルちゃんの用件ってさ、」
「ま! ナルちゃんだなんて可愛いわねェ〜♪」
「嫌だった?」
「ううん、すっごく気に入っちゃったわ!」


ただ、瀬名さんが『なるくん』と呼んでいたのに影響されただけだ。
少ない言葉のやり取りではあるが、『くん』よりも『ちゃん』が似合っているような気がした。


「ふふっ、せっかくなんだからのんびりお喋りしましょうよ!」
「私はいいけど、ナルちゃんはいいの?」


アイドル科なんて、多忙極まりなさそうだ。


「平気よ〜♪ 今日はナマエちゃんと過ごすために頑張って来ちゃったわ。」
「あら嬉しい。それじゃ、のんびーりお話しましょ。」
「もっちろんよ! ふふっ。」


彼は予想以上にフレンドリーだ。
明るい雰囲気に引っ張られて、不思議と自身の心も弾むのがよく分かる。


「ここのパンケーキ美味しいのよ〜食べたことある?」
「前に、友人と。」
「そうよねェ、やっぱり流行りだしとっくに味わってたわよね♪」
「でも種類たくさんあるから、今日は別なの楽しめそう。」
「ふふっ。そう言ってもらえると嬉しいわ!」


テラスへと案内されて、メニューを見ながら口がずっと動いている。
なんていうか、酷く新鮮な気持ちを味わっていた。


「ナルちゃんといるの、楽しい。」
「あら、どうしたの突然? 願ってもない言葉だけど。」
「なんとなく。楽しいなーって。」
「ウフフっ、そんなこと言われたらアタシ調子乗っちゃいそう♪」


ブルーベリージャムとホイップクリームがそえられたパンケーキにしよう。


「私も、調子乗って余計なことまで喋りそう。」


メニューを閉じて、ベルを鳴らした。





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