世間の流行に疎い自覚はない。
が、どうやら随分と私の脳はついていけてなかったらしい。
「チョ〜うざぁい! なんでいるわけぇ?」
「そう言われても……。」
たまたま、夜中に立ち寄ったコンビニで瀬名さんと出会った。
この男。元は人気絶頂のモデルだったらしい(現在は活動休止らしいが)。
そして前に出会った鳴上さんも、その出身だとか。
恐ろしいが納得できる。
「寒いんだから早くどけてよね、邪魔ぁ。」
「こればかりは私にはどうしようも。」
冬の寒さの中では、皆考えることが似ているようで。
コンビニには多くのお客さんが列をなしていた。
お目当ては中華まんだ。
「ってかあんた、なるくんと会ったんだってねぇ。」
「なるくん?」
「鳴上嵐。金髪の。」
「ああ……。」
驚くほどキラキラ美しかった人か。
なかなかインパクトが強くて、忘れようにも忘れられないレベルだ。
もちろん、忘れようだなんて自主的には思わないが。
「なるくんまでナマエナマエうざくなったじゃん。」
「いや、それ私のせいじゃ……。」
「お蔭でくまくんも珍しく気になって来ちゃったみたいだし。」
くまくん?
熊……? 熊田さんとかだろうか。
「ほんっと、チョ〜うざいんですけど。」
「それは、どうもすみません。」
「へぇ、自覚あるんだぁ?」
口角をあげてこちらを見下ろす仕草に、若干いらっときた。
が、きっとこれがこの人の性格なのだろう。
タイミングよく店員さんから「次の方どうぞ」と声をかけられた。
「ピザまんお願いします。」
そう伝えると、「はいかしこましました。」などと言ってくれるはずの店員さんが口籠っている。
小首を傾げてみれば、気まずそうに店員さんは訳を告げてくれた。
「申し訳ありません。中華まんはちょうど1つしか残っていないのですが……。」
「?、それでいいですよ。」
「えっと……。」
先程から、やけに店員さんの視線が自分よりも上をちらちらと動いている。
そこで察した。
「この人はこの人で買うので。」
「ちょっとぉ、今の話聞いてそれ? 残ってるのが1つなら、当然俺にくれるんでしょうねぇ。」
「まさか。」
「はぁ?」
「だって私のお金で買う私の中華まんですし。」
「わざわざ俺がレジに並んでたってのに、横取りするわけ?」
「いやいや、先に並んでたの私なので。」
「あんた、バカなのぉ? 俺に譲るのがセオリーでしょ。」
「逆にその発想が信じられません。」
あ、その残りの中華まんください。
後ろの人は気にしないでくださって結構なので。
「ありえなぁい。」
まさに心の底から思っているようで、
ドスのきいた鋭い音が私の頭上に降っていた。
「――ねえ、あんた『王さま』と一度も会ってないわけ?」
「そうですけど。」
コンビニを出れば、面倒そうに彼はそう告げた。
自分と彼の繋がりは『王さま』ということらしい。
「停学中に会えたらビックリですよ。家知らないし。」
多分、向こうも知らないだろう。
それにわざわざ停学中にまで会うような仲でも……ない、と思う。
……自分で言って、少し寂しい。
「はぁ〜。」
重々しいため息が、真っ白な色を浮かべて吐き出される。
「いったいいつになったら戻ってくるんだか。」
「え?」
「停学期間なんて、とっくに過ぎてるっての。」
「…………。」
それは、つまり。
「不登校?」
「『王さま』の考えることなんてわっかんなぁい。」
「……。」
そうか、不登校なのか。
「……。」
家にいるのだろうか。
外を歩いていたら、さぞ寒いことだろう。
誰かときちんとお話して生活しているだろうか。
インスピレーションは、今でも湧いているのだろうか。
「ちょっと、そんな顔しないでよね。」
「え?」
「気になるなら、捜せばいいじゃない。」
あのふらつき者をか。
そう返す前に、彼はふんわりとした銀の髪をしなやかな指で梳いて、静かに立ち去った。
歩くたびに雪を踏む音がざくざくと鳴る。
そんな顔とはどんな顔だったのだろうか。