アイドル科の王さまと普通科の娘 | ナノ

アイドル科の王さまと普通科の

Act.9  消えたのは周囲の霊感


世間の流行に疎い自覚はない。
が、どうやら随分と私の脳はついていけてなかったらしい。


「チョ〜うざぁい! なんでいるわけぇ?」
「そう言われても……。」


たまたま、夜中に立ち寄ったコンビニで瀬名さんと出会った。
この男。元は人気絶頂のモデルだったらしい(現在は活動休止らしいが)。
そして前に出会った鳴上さんも、その出身だとか。
恐ろしいが納得できる。


「寒いんだから早くどけてよね、邪魔ぁ。」
「こればかりは私にはどうしようも。」


冬の寒さの中では、皆考えることが似ているようで。
コンビニには多くのお客さんが列をなしていた。
お目当ては中華まんだ。


「ってかあんた、なるくんと会ったんだってねぇ。」
「なるくん?」
「鳴上嵐。金髪の。」
「ああ……。」


驚くほどキラキラ美しかった人か。
なかなかインパクトが強くて、忘れようにも忘れられないレベルだ。
もちろん、忘れようだなんて自主的には思わないが。


「なるくんまでナマエナマエうざくなったじゃん。」
「いや、それ私のせいじゃ……。」
「お蔭でくまくんも珍しく気になって来ちゃったみたいだし。」


くまくん?
熊……? 熊田さんとかだろうか。


「ほんっと、チョ〜うざいんですけど。」
「それは、どうもすみません。」
「へぇ、自覚あるんだぁ?」


口角をあげてこちらを見下ろす仕草に、若干いらっときた。
が、きっとこれがこの人の性格なのだろう。

タイミングよく店員さんから「次の方どうぞ」と声をかけられた。


「ピザまんお願いします。」


そう伝えると、「はいかしこましました。」などと言ってくれるはずの店員さんが口籠っている。
小首を傾げてみれば、気まずそうに店員さんは訳を告げてくれた。


「申し訳ありません。中華まんはちょうど1つしか残っていないのですが……。」
「?、それでいいですよ。」
「えっと……。」


先程から、やけに店員さんの視線が自分よりも上をちらちらと動いている。
そこで察した。


「この人はこの人で買うので。」
「ちょっとぉ、今の話聞いてそれ? 残ってるのが1つなら、当然俺にくれるんでしょうねぇ。」
「まさか。」
「はぁ?」
「だって私のお金で買う私の中華まんですし。」
「わざわざ俺がレジに並んでたってのに、横取りするわけ?」
「いやいや、先に並んでたの私なので。」
「あんた、バカなのぉ? 俺に譲るのがセオリーでしょ。」
「逆にその発想が信じられません。」


あ、その残りの中華まんください。
後ろの人は気にしないでくださって結構なので。


「ありえなぁい。」


まさに心の底から思っているようで、
ドスのきいた鋭い音が私の頭上に降っていた。


「――ねえ、あんた『王さま』と一度も会ってないわけ?」
「そうですけど。」


コンビニを出れば、面倒そうに彼はそう告げた。
自分と彼の繋がりは『王さま』ということらしい。


「停学中に会えたらビックリですよ。家知らないし。」


多分、向こうも知らないだろう。
それにわざわざ停学中にまで会うような仲でも……ない、と思う。
……自分で言って、少し寂しい。


「はぁ〜。」


重々しいため息が、真っ白な色を浮かべて吐き出される。


「いったいいつになったら戻ってくるんだか。」
「え?」
「停学期間なんて、とっくに過ぎてるっての。」
「…………。」


それは、つまり。


「不登校?」
「『王さま』の考えることなんてわっかんなぁい。」
「……。」


そうか、不登校なのか。


「……。」


家にいるのだろうか。
外を歩いていたら、さぞ寒いことだろう。

誰かときちんとお話して生活しているだろうか。
インスピレーションは、今でも湧いているのだろうか。


「ちょっと、そんな顔しないでよね。」
「え?」
「気になるなら、捜せばいいじゃない。」


あのふらつき者をか。
そう返す前に、彼はふんわりとした銀の髪をしなやかな指で梳いて、静かに立ち去った。
歩くたびに雪を踏む音がざくざくと鳴る。

そんな顔とはどんな顔だったのだろうか。





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