祐介と夢乃を見送り家に着いてから、杏は夢乃に事の経過を聞くためにチャットアプリを起動した。すると、怪盗団グループに通知が来ていた。
また竜司のどうでもいいメッセージか、いやしかしリーダーから集合の連絡かもしれない。 とりあえずグループチャットを開くと、そこには夢乃から
『今から祐介が私を被写体に絵を描くよ!杏ちゃんありがとう!』
と送信されていた。
恐らく杏との個人チャットと間違えたのだろう。
つくづく面白すぎる奴だ、と杏は飲みかけのジュースを吹き出した。
既読は祐介以外全員分付いているが、恐らく意地の悪いことに、このまま『ここが杏との個人チャット』だと勘違いさせるべく誰も返事をしないのだろう。
案の定リーダーから個人チャットが飛んできて、『杏は返信してあげて』と送られてきた。
(怪盗団はね…君たちの恋路に興味津々なんだよ…!)
そう。そして皆が応援団なのだ。
そしてこんなにも面白いことはない。杏は気合を入れて、いつものやり取りのように文字を入力していく。
『どういたしまして! どう?順調?』
暫くして
『うん! 今少し休憩中。祐介具合悪そう』
『そっか〜、絵を描くのって体力使うしね!』
『そうだよね! 描き終えたら美味しいもの食べさせてあげる!』
『喜ぶよ!』
また暫くして
『唸りながら描いてたよ! また休憩中〜』
祐介、頑張れ!と怪盗団の声援が聞こえた気がする。
しかしそこで返信は途絶え、暫く無言の時間が流れた。
もしかして?と怪盗団面々は胸をソワソワさせる。
蓮はカレーを煮込みながら携帯を握りしめ、竜司は対戦相手のCPUそっちのけで携帯を凝視し、真は参考書を開いたまま机の周りをウロウロ歩き、春は紅茶のカップの熱さも忘れて包み込み、双葉はどうにか盗聴できないものかとPCを慌ただしくタップした。
そして、静寂を切り裂くように通知がなる。
『終わった』
『どうだった?』
『祐介は?』
『何が終わったの!?』
『kwsk』
『今どんな状況なの?』
『どこにいるの?』
いてもたってもいられたくなった面々から次々とチャットが送られてきた。 身を潜めるのが下手すぎる。
また暫くして、夢乃のアイコンが出てくる。
『取り敢えず下書き、あ、まって、』
『たすけて、欲情に耐えきれなくなった祐介がコーラやけ飲みして精神統一しようとしてる、』
『空腹にコーラは効くぜ…?』
理性が負けたか、と杏はウンウン頷いた。
そろそろ頃合かな、とジョーカーはカレーを混ぜる手を止めてポチポチと文字を打つ。
『夢乃、祐介に伝えて?』
ポン、とジョーカーのアイコンが続いた。
『幾ら絵の為のはいえ、恋人に欲情するのは当然の事。寧ろ理性保っていられた方が恐い』
まあ、そうだろう。 当然の事だが、リーダーが言うと目も覚めるらしい。 それまで姿を見せなかった祐介のアイコンが通知音とともに浮かんだ。
『確かにそうだ。 俺は大切な事を見失っていた様だな…、すまない、恩に着る』
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『今更だが…ここ、グループチャットじゃないか?』